第16話 聖女パトラ

 学校の上級生へと成長したパトラ。

 腰元まで伸びた髪を、一本に束ねたスラッとしたスリムな身体。

 目元は切れ長になり、鼻もすっと伸びて涼やかな印象を受けます。

 口元には、まだあどけなさが残っているとは言え、天性の美人顔には磨きがかかっています。


 言葉遣いも、アビー譲りの上品で皮肉の効いた会話も操れる、中々に隙のない女性に成長しました。


 剣術の腕前も教師たちの口上からは消え、変わって話題になってきたのは彼女の魔法。

 友達に留まらず、傷ついた人、体調不良で動けなくなった人、浮浪者に至るまで、彼女は惜しみなく治癒術を行使していったのです。


 そして、本来は持ち合わせていなかった雷系魔法を操れるようになっていきます。

 もっとも、雷系魔法はケルベロスが得意とする魔法の一つであり、ケルベロスの使役者であるパトラも雷系魔法を行使できるのです。


 最近では、パトラの治癒術も広く知られ、教会も彼女には一目置いています。

 但し、一目を置いているだけで教会かれらはパトラに手を出せていません。

 そう、ケルベロスの存在が教会かれらの行動の妨げとなっているのです。


 パトラの影に潜むケルベロス、彼の機転は教会かれらが仕掛ける物理的な行動…いわゆる誘拐や拉致などの強引な手口を先んじて防ぎます。

 あまつさえ、教会かれらがパトラの連れに手をかけるような行動に出たとしても、それはレイやアビーの知ることとなり、手痛いしっぺ返しを食らってしまうのです。


 手も足も出せず、かと言って、下手にアシが残れば教会かれらの信用失墜にも繋がることから、教会かれらは静観せざるを得ないのですが…。


『まぁ、予測はしていたが…ここまでアカラサマとはなぁ。』

 学校近くの路地裏で、族を縛り上げながらため息を漏らすレイ。


『人間の神とは、卑劣な手段がお好みなのかしら?』

 市場の裏路地でも、族を縛り上げるアビーが嫌味混じりに茶化す。


 今日も教会急進派がパトラを束縛すべく、彼女の交友関係にも関わっていない生徒たちも含めた、荒事を画策していたようです。


『神ではなく、人間側の都合だろう…宗教を騙るには落ちたものよな。』

 パトラの影に潜み、彼女をサポートしているケルベロスがため息混じりに話に加わってきます。


 パトラも話は聞こえているかもしれませんが、今は気心の知れた友達と楽しい会話の真っ最中。

 まだまだ、お友だちとおしゃべりするのが楽しい時代。

 影からパトラを眺めるケルベロスも目を細め、この時間が永遠に続くことを願っているようです。


『パトラには、もっとお友だちと楽しい子供時代を送って欲しいね。』

 レイは縛り上げた族を騎士団へ突き出しに歩き出す。

『そうね。』

 アビーも声を弾ませながら、ようやくレイに合流。

「じゃぁ、コイツラのことヨロシクね。」

 縛り上げた族をレイに渡したアビーは、頭の上に腕を組みながら、パトラの待つ城壁門の方へ歩き出した。


「もう、後ろ姿は立派な母親だな。」

 一人微笑み、アビーの背を見送るレイ


 パトラ卒業まであと一年、いよいよ彼女の人生が確定してしまう日がやって来る。

 その日が訪れる瞬間まで、彼女には何者にも縛られないことを願うレイだった。

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