第12話 パトラの一日 ~午後~

 私がレオナルド家ここに来て四年が経ちました。

 料理のお手伝いは勿論、掃除、洗濯とお母さんのお手伝いもだいぶん出来るようになりました。

 そして、私は来年から『学校』という所へ通う事となりました。


「ねぇ~、お父さん。

 学校てどういうトコロなの?」

「あ~~…学校かぁ~…学校ってところはなぁ…。」

 お父さんに学校のことを聞くと、決まってハグラカサれます。


「お母さぁ~ん、学校てどういうトコロなの?」

 そういう時は、甘えるようにお母さんの胸元へ顔を擦り付けながら質問をします。

「学校という所はね…。」

 と、お母さんは学校の事をいろいろと教えてくれます。


 私が気になっているのは、同い年の子たちと勉強するということです。

 レオナルド家ここは、郊外のはずれ…城壁の外にあり、同い年の子は勿論、ご近所もありません。

 必然、遊び相手はパパとママ…なんですけど…ね。


「そろそろ、お勉強の時間よパトラ。」

 お母さんが昼食の後片付けをしながら声をかけてきます。

「お、パトラ!

 頑張れよっ!」

 サムアップをしながら、お父さんは午後の見回りしごとに出掛けて行きました。


 食器を洗い終わり、お母さんの書斎へ。

 昔は礼儀作法を覚えたり、テーブルマナーの手解きを受けたりと、どこかのお嬢様のような事が多かったのですが…。

 最近は、治癒に浄化、祝別といった所謂いわゆる『聖女』と言われる方が使うような魔法の勉強を始めました。


「これは、貴女が元々その身に宿していたものよ。

 でも、無闇に使ってはダメよ。」

 これは『聖女』の魔法を勉強する際の、お母さんの口癖…言っている意味はわからないけれど、お母さんとの約束は守りたいと思います。


「今日は、大切な呪文を三つ教えます。

 ちゃんと覚えるのよ。」

 そして教えられた三つの魔法。

 読唇術…人の唇から会話を読み解く魔法、魔法というより術かしら。

 念話…言語を介さず、直接頭に語りかける術、聞いてみると、パパもママも当たり前のように使っているようで、距離とか関係なくお話しができるそうです。

 隠蔽魔法…物事を隠す魔法、物理的なモノからスキルなどの精神的なモノまで、本人の意識次第で色々なものを『隠蔽』出来ます。


「私はが、最も得意な魔法なのよ。」

 ママはニコニコしながら隠蔽魔法を教えてくれます。


 ◇ ◇ ◇


「パトラ!

 脇が甘いっ!」

「はいっ!」

 木の打ち付けあう音が響き渡るレオナルド家の庭。

 夕日も傾きかけ、木が長い影を落とす中、剣を交える娘と隻腕の男。

 今まさにパトラの木刀がレイに振り下ろされ、寸でのところでレイは木刀を受け流す。


 その後も木の打ち付けあう音が響き続け、やがて陽は地平線の向こうに沈んだ。

「今日はここまでっ!」

「ありがとうございました。」

 剣術修行が終わり、お互いに汗を拭きながら挨拶を済ませる親子。


 護身術程度の剣術が、そこそこのレベルに到達していることに舌を巻くレイ。

「まぁまぁ、剣術もレイのお墨付きが出るなんて、文武両道のパトラは優秀なお嬢様ね。

 将来が楽しみだわ。」

 夕食の準備をしながら、嬉しそうな顔のアビーと、隣には真っ赤になって鍋を回しているパトラ。


 さて、夕食の準備は整ったようです。

 食器を並べ、お料理がテーブルに載せられ、三人が席に着く。

「「「いただきます!」」」


 三人の夕食が始まる。

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