第10話 家族時間の幕開け

 ~ アビゲイル視点 ~

「それでは、行ってくるよ。」

「はい。

 レイ気を付けて。」

「お父さん、いってらっしゃ~い。」

 胸に抱いたパトラは手を振ってレイを送り出します。

 レイは左手を上に掲げ、私たちに出発の合図をして出掛けて行きました。


 メイヒルからは内諾を頂き、第二正妃の座に就くことになった私。

 申し訳ない気持ちでイッパイでしたが、公爵家の跡取りも増えなければ、法国の安定は望めないと力説され、彼女と同じ立ち位置に就くことになりました。

「さあ、パトラ。

 私たちもお勉強を始めましょう。」

「は~い、お母さん。」


 パトラの『パパ・ママ』卒業は早く、何だかちょっぴり寂しくもあります。

 もっとも、夢の中では、まだまだ『パパ・ママ』が恋しいのでしょう。

 ですから、今しばらくは私の添い寝相手はパトラです。


「ねぇ~、お母さん。

 今日はどんなお勉強をするの?」

 パトラは好奇心が非常に強く、基礎を覚える事も早いばかりか、応用まで直ぐに出来てしまいます。

 まったく、ここまで優秀な娘はメイヒル以来かしら…。


 言い忘れていたけれど、私ことアビゲイル・ラ・ジルムンドはメイヒルの母、ユスティーナ・ラ・ドルイド魔王妃殿下の妹で、メイヒルの教育係として専属講師を永らく勤めてきました。

 当年450歳の独身貴族…でしたけど、無事にレイの妻になったのでした。

 …まぁ、生徒の夫を婿に迎えたところに違和感はありますが、一夫多妻は王家に認められている事であり、私も覚悟を決めました。


 閑話休題


「お母さん、今日のお昼は何を作るの?」

「そうねぇ…。」

 パトラは家事のお手伝いも大好きです。

 まだまだ包丁や火元を扱わせる訳にはいかないのですが、野菜洗いの下準備や、盛り付けなど、彼女は喜んで手伝ってくれます。

 余りにもお手伝いが過ぎるので、少しは遊んで欲しいところです。

 子供は遊びの中でも覚えることがたくさんあります…パトラには、もう少し自由に育って欲しいと思うのです。


 ~ パトラ視点 ~

 パパやママはどこかへ連れて行かれて帰ってきません。

 だから、近所の友達と泣いていました、泣いていればパパもママも返ってくると信じて…。

 結局パパとママは戻らず、食事もロクに得られず、ただただ空腹に苦しんでいた私を女神様は拾って下さいました。


 そして、目の前にいる新しい私のパパとママ。

 不思議な光景です、ニンゲンとマモノがひとつ屋根の下で一緒に生活しているのです。

 それも、お互いを尊敬し深い愛情で結ばれています。


 女神様が言っていました。

「不思議な両親のもとに連れて行くけれど、きっと貴女の将来を切り開きます。」

 まだ良くわからないけど、優しそうなパパとママでちょっと安心しました。

 一日でも早く彼らに認められるよう、私も頑張らなくっちゃ!


 ~ レイ視点 ~

 家が急に華やかになった。

 アビーを妻に迎えたことは勿論なのだが、パトラの存在はとても大きい。

 それまでぎこちなかったアビーとの会話が、パトラを中心に面白いように回り始める。

 話題は尽きず、パトラを中心に談笑の絶えない家庭、何と幸せな空間だろうか…。


 ふと、メイヒルと未だ見ぬ息子の事が脳裏をよぎる。

 あのまま三人で生活できて居たならば…。


「お父さ~ん、こぼれちゃう!」

 パトラの声で我に返ると、スプーンからオカズが溢れている。

「もう、レイってば、パトラが真似するから止めてくださいね。」

「真似しないも~~ん!」

 妻と娘、二人の女性からツッコミを受け、オレはマゴマゴしてしまった。

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