第4話 旅立ち
300年ぶりの慶事という事で、
しかし、ここで重大な問題が頭をもたげてくる。
そう、生まれてくる子供の父親は
困ったことには、人間と魔物の和平を実現するための生贄となり、この世を去ったはずの
「ふむ…困ったな。」
懐妊の感動冷めやらぬ最中に発生した由々しき事態に、義父は頭を抱えてしまった。
「どうしましょう…。」
義母も妻とともに顔を見合わせてしまっている。
当然ながら私も悩まないといけないのであるが、そもそも私が至らぬことをせねば…と自己嫌悪に陥ってしまう。
小一時間ほど時間が過ぎた頃、義父がおもむろに話し始める。
「とりあえず、懐妊のことは今しばらく伏せておく。」
そう言って養父は立ち上がり、義母と妻に顔を向けると、二人は頷く。
「レイは、今から私と打ち合わせを行う。」
養父の視線を受け、私は胸に手を当て平伏した。
「メイヒルよ、此度の件では、お前に負担がかかると思われる。
くれぐれも覚悟をしておいてくれ。」
そう言って養父が妻の頭に手を置くと、その手に手を重ねる義母。
「分かりました。」
力なく返答する妻だった。
◇ ◇ ◇
ここは玉座の間に併設された魔王陛下の控室。
義父は椅子に座り、オレはその足元に膝をかがめている。
「レイよ…その…なんだ…メイヒルに子を授けてくれたこと、感謝する。」
「…。」
義父の言葉に返事が詰まってしまうオレ。
「このまま家族として住まわせたいところではあるが、お前自身がよく知る通り、人間と魔物は未だに対立状態のままである。
怨嗟が漂う状況で、まして亡くなった勇者が王家の娘を懐妊させたとなれば、いらぬ争いの火種になってしまう恐れがある。」
「…はい。」
「メイヒルの子は、我らが責任を持って育て上げることを約束する。
ただ、お前にはこの国から出て行ってもらいたい。」
厳しい表情の義父。
彼の心に去来するモノはどれほどあるのだろうか?
父親としての歓び…
国王としての苦悩…
何より娘に対する贖罪の思い…
シワの一つ一つが彼の心の苦しみを露わにしているようにさえ見えてくる。
「分かりました。
早急に出立の準備に入ります。」
オレの答えは一つしかなかった。
オレは立ち上がると部屋の扉に手をかける。
「すまぬが、このまま立ち去ることを望む。」
「
扉を閉めると、妻たちの待つ私寝室に戻ること無く、オレは執務室に向かうと、そこで荷物を取り纏め、後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、魔王城をあとにした。
王城の門を潜る時、微かに聞こえた
オレは振り返ること無く、ただ手を上げて門の外に出た。
さて門を出ると、一人の男がオレの傍に来て頭を下げる。
「私はゲイル。
陛下の命を受け、貴殿を人間界へ案内します。」
「レオナルド岸和田です。
よろしくお願いします。」
オレも彼に対して頭を下げる。
こうして、人間界までの男二人旅が始まるのだった。
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