第3話 夫婦 ~メイヒル 視点~

「レイよ、此度の調停大儀であった。

 これで、西部地区も少しは穏やかになるであろう。」


 玉座に座り、私の夫レイを満足気に褒め称える魔王陛下お父様

 私も魔王妃殿下お母様の隣に並び、鼻高々です。


「有難きお言葉っ!」

 そう言って、頭を垂れる隻腕の騎士こそ、私の夫である『レオナルド岸和田』、『レイ』。

 今回も領地紛争で揉めていた二つの伯爵家の調停を行った上、法国への手土産まで持って帰ってきたのです。

魔王陛下お父様が手こずっていたお話しを、半月程度で片付けるなんて…。

 見込んだ通り、私の夫は世界一ね。)

 私は心のなかでガッツポーズを決めるのでした。


 レイが私の所有モノになって半年が経ちました。

 はじめこそ私の傍で、法国について勉強しておりました。

 …が、覚えが良いのでしょうか、あっという間に私の知識量を超え、魔王陛下お父様の元で勉強を続け、宰相にまで上り詰めました。


「まぁ、オレって才能あるから。」

 とトボケてみせます。

 本人は、『鑑定』と『話術』のスキルのお陰だと言ってはいますが、実は相当の努力家です。

 まったく、あの知識の吸収量はどこから来るのでしょうか?

 夫のこととは言え、頭の中を覗いてみたくなります。


 また算術にめっぽう強く、もはや法国内で夫に敵う学者もいません。

 恐らくなのですが、彼は算術のように話しを組み立てた上で、交渉に臨んでいるのでしょう。

 …対戦相手が論破されていくさまを想像すると、私は吹き出しそうになります。

 実は一度だけ見たことあるんです…魔王陛下お父様が論破されるところ。


 さて、謁見も無事に終わり、私達は揃って私寝室に戻ることにしました。


「はぁ~、終わった終わった。」

 夫はゆったりとした足取りで、私を伴って歩いています。

「お疲れ様でした、あなた。

 調停は紛糾したでしょうに、よくまとめられましたわね。」

「あ…ああ、まぁ、うまくいったねぇ…うん。」

 歯切れの悪い夫の顔を覗き込むと、妙に汗まみれの夫の顔。

 この顔は何かをヤラカシタ証だ。

 これは、絞め上げてゲロさせないといけません。

 私の楽しみが一つ増えました。

 私の笑顔を見て、さらに顔色が悪くなる夫でした。


 ◇ ◇ ◇


 コホッ…コホッ


 何かの病なのでしょうか、体調の優れない私…。

「大丈夫かい?」

 夫が寄り添って問いかけてきます。

「ええ、問題ありません。」

 ある日の午後のことです、二人の私寝室でお茶を楽しみながら、会話をしていた席で咳き込んでしまった為、夫が不安を感じたのでしょう。


「ちょっと、魔王妃殿下お母様に相談したほうがいいんじゃないか?」

「え…ええ。」

 夫の勧めもあり、魔王妃殿下お母様へ謁見をお願いすることになりました。

 まぁ、この体調不良を感じた時に、すぐに魔王妃殿下お母様へ相談したのですが…。

 そうですね、折角ですから夫と一緒に魔王妃殿下お母様の話を聞きましょう。


「では、伺いましょう。」

 夫は笑みを浮かべると、魔王妃殿下お母様の元へ向かわれました。


 程なくすると慌ただしい足音とともに、夫と魔王妃殿下お母様、そして魔王陛下お父様も部屋にやってきます。

 

 さて、私の話を穏やかな表情で聞いている魔王妃殿下お母様

 何だかオロオロしている、夫と魔王陛下お父様


「メイ、おめでとう。

 待望の懐妊です。」

 魔王妃殿下お母様は仰々しく私の手を取り、満面の笑みを浮かべる。

「「!!!」」

 魔王妃殿下お母様の宣言に言葉を失う、夫と魔王陛下お父様


 魔王陛下お父様はともかく、やることをやっていたのだから夫には自覚を持って欲しいところよね。

「300年ぶりの王族の懐妊です。

 これは、嬉しい知らせですよ、あ・な・た。」

「う…うん、うん。」

 魔王陛下お父様魔王妃殿下お母様の言葉に涙を流して頷けば

「さ…さ…300…えっ?」

 魔王妃殿下お母様の言葉に、何か言葉を失いかけている夫。


「私、300よ、あ・な・た。」

 夫の顔から血の気が引いていきました。


(全く、失礼な夫よね、後でお仕置きが必要かしら?)

 と一人不貞腐れる私でした…勿論、表向きは満面の笑顔よ。

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