第53話 盗賊との戦い

「おにーさん……ありがとう!!!」


 そう言ってウサが俺に抱きついてくる。

 助けに来た時、すでにウサは怪我をして血を吐いていた。悔しい。もう少し早く着くことができれば……。

 同時に、これをやった奴を絶対許せないと思う。まあもうそいつには飛び蹴りかましたわけだが。

 

「マスター、いきなり飛び降りては危ないですよ」


 ちょうど空からアヌビスが降りてきた。ウサの元へ急行するため、アヌビスに頼んで背中に乗せて飛んでもらったのだ。

 なんでウサの元へすぐ駆けつけられたかと言うと、パーティーを組んでいるので現在位置はステータス画面を出せばすぐに把握できるのだ。こういうときは助かる恩恵だ。


「アヌビス! いやすまん、ウサを見つけたらじっとしていられなくなってな」


「無茶しないでください。マスターのレベルならたしかに多少高いところから飛び降りても平気でしょうが……、心配してしまいます」


 アヌビスは丁寧な口調で俺を気づかったあと、軽く神杖ウアスを振るって構え直した。


「さてマスター、あれがマスターの敵ですね」


「そうだ。ウサを襲ってた奴らだ。多分この辺を根城にしている盗賊だ」


 俺達の周りには物騒な武器を持った男たちが警戒するように囲んでいた。普通の人間じゃない。みんな赤か青色の肌を持ち額に角をはやしている。多分鬼人オーガ族とかそのへんだろう。

 ウサが俺にささやくように言う。


「気を付けておにーさん、こいつらナラーズっていう盗賊団だよ。前はハロウィン村の近くを縄張りにしていたんだ。ボスはグランツ。さっきおにーさんが蹴り飛ばした奴だよ」


「お前知っているのか?」


「……前に、こいつらのアジトから食料を盗みに入ったことがあったんだ。そのときにちょっとね」


「そっか……。怖かっただろ。よくがんばったな」


 空からウサを見つけた時、ちょっとただ襲われているだけじゃなさそうだと思ったがそんな事情があったとは。


「全然へっちゃらだよ。おにーさんが助けてくれたからね。……でも油断しないでおにーさん。こいつら全員オーガ族で、魔法はそんな得意じゃないけど身体能力は飛び抜けてるから」


 俺は頷く。筋骨隆々の身体はいかにも屈強そうだ。


 でも俺達も負けない。伊達にレベル40まで鍛えていないのだ。実際リーダーっぽかった奴はさっき俺の蹴りで吹っ飛んでいったからな。

 開幕に一発かましておいたのが良かったのか、オーガ族の盗賊団はまだ俺達を遠巻きにしていた。こっちを警戒しているらしい。


 その間に俺はウサを立たせたやると、小さな声で言う。


「ウサ、お前はこのまま穴掘って隠れてろ。後は俺とアヌビスが引き受けるから」


「え、でもでも、ボクも戦うよ!」


「いいって。お前さっきあのクズ野郎に殴られて怪我してるだろ。早く安全な場所で隠れて、ポーション飲んで、休んどけって。回復したら先に逃げていいからな」


「ヤダ、ボクも残る!」


「ダーメだ」


「うう〜〜……」


 ウサはへにゃりと長い耳を曲げて唸っていたが、やがてあきらめたように頷く。


「……わかった。おにーさんも無茶しないでね」


「わかってるって。さっきも言っただろ。こいつら片付けてお前を助けてやるって」


「うん……」


 その時俺の声が聞こえたのか、離れたところでリーダーらしいオーガが立ち上がった。ウサの言うグランツってやつだ。


「片付ける? 俺達を片付けるだと!」


 俺の蹴りをまともに食らって倒れていたがなんとか両足で立っている。膝から下はまだふらついていた。

 それでもせせら笑いながら言う。


「どうやら俺達のこと舐めているらしいなぁ! 野郎ども何してる、やっちまえ!!!」


「「「おおおおおおおおおっ!!!」」」


 グランツの叫びを合図に、周囲の盗賊たちが一斉に襲いかかってくる。さっきまでこちらを警戒していたのに、リーダーが復活したらやる気まんまんって感じだ。


 ……俺は基本、戦闘は好きじゃないし得意でもない。ジャックやアヌビスに任せているならともかく自分も武器を振る舞わして戦うってのは苦手だ。日本にいた頃は喧嘩なんてほとんどしたこと無かった。

 だが、今回は別だ。


「上等だぜ、仲間ウサに手を出しておいて、無事に済むと思うなよてめえらっ!」

「マスター全員倒してよろしいですね!」

「もちろんだ。思い切りやれアヌビス!」

「はいっ!」


「「「おおおおおっ! クソガキ共がナラーズを舐めんじゃねえええ!!」」」


 砂煙を上げて駆けてくる盗賊たちを、俺とアヌビスが迎え撃った。


 うなりを上げて突き出されてくる盗賊の剣を、槍を、短刀をかわしながら、拳と蹴りで反撃する。

 俺は喧嘩に関してはド素人なので、動きは大雑把だ。でも負けない。レベル差と、EXランクのおかげで大きく上昇しているステータス差でまったく相手を寄せ付けなかった。

 俺よりはるかに大柄のオーガたちを次々叩きのめし倒していく。


「ぐああっ!」

「なんだコイツ、人間のガキのくせに強えぞ!」

「ガキだけじゃない、黒犬もやべえ!」


 アヌビスも存分に実力を発揮していた。ウアスを棒術のように巧みに振り回し、ばったばったと敵をなぎ倒していく。

 オーガの盗賊団程度相手なら、魔法を使うまでもないらしい。


「くそっ、こんな強いやつがいるなんて聞いてねえぞ! ガハッ」

「ウサギのガキをシメて終わりじゃなかったのかよ……うぐおっ!」


 悲鳴を上げながら、ならず者たちは次々と砂の上へ沈んでいった。



 ◆◆◆◆




 数分とかからず盗賊たちは倒された。

 後に残っているのは気絶して伸びている盗賊たちと、その頭だけだ。

 パキポキと拳を鳴らしながら言う。


「さーて、後はあんただけだぜ」


「あ、ああ……」


 グランツが怯えたように数歩後ずさった後、尻もちをつく。そうするとようやく目線の高さが下になった。

 最初の自信満々な態度はどこへやら、グランツが冷や汗をかきながら必死に声を上げる。


「て、てめえ。俺達にに手を出したらどうなるか、わかってんのか!? ナラーズ盗賊団は今ブラッズクリプスの傘下にいるんだ。てめえみてえな馬鹿なガキ、ブラッズクリプスがその気になりゃあ簡単にひねりつぶせるんだぞ!」


「へ〜、おもしれえな。ぜひ、今ここで、やってみてくれよ」


「ひぃっ」

 

 グランツが両手を動かしてさらに後ずさった。ゆっくりと近づき、体を屈めてグランツに顔を寄せる。


「言いたいことはそれだけか? じゃあもう覚悟はできてるよな」


「ま、待て! 俺に手を出したらブラッズクリプスが黙っていなーー」


「ぶっとべ!!!」


 グランツの体に向けて思い切り拳を振り抜いた。同時に強い風が巻きおこりグランツを吹き飛ばす。呪文でもなんでもない、ただの力任せな風魔法の発動だったが、俺の魔力容量が大きいためか強力な突風を巻き起こした。


「うぐあああああああっーーーーー!!!!」


 遠くに消えていく悲鳴を残し、グランツは砂漠の彼方へと飛んでいく。


 それを見送って、俺は息を吐いた。


「ふう、掃除完了、と」


「お疲れ様でした、マスター」


「アヌビス、お前も頑張ってくれたりがとよ」


「なんの、マスターをお助けするのが私の使命ですから」


「ウサー、終わったぞ。まだこの辺にいるか?」


 俺が呼びかけると、砂漠にボコッと穴が空いてウサが中から飛び出してきた。


「ぷはぁっ、……すごいね、もう倒したの」


「おう、きっちりやっつけた」


 砂漠の上で伸びている盗賊たちを眺めてから、ウサはキラキラした目で俺を見た。


「すっごい……。おにーさんて、やっぱり強いんだね。……えへへ、強いのにやさしい人、ボク初めて会ったや」


「すぐに助けられなくて悪かったな。ほら、俺に掴まれ。抱えていくから」


「ひ、一人でも歩けるよ」


「遠慮すんな」


「わわ、急に持ち上げないでよ」


 ひょいとウサを腕に抱えると、その軽さに驚く。


「軽いなあ。ちゃんと飯くってんのか?」


「た、食べてるよ! もう」


 顔を赤くするウサに俺は笑った。


「はは。それじゃあ走って帰るからしっかりつかまってろよ」


「うん!」


 右左をお姫様抱っこで抱えた俺は、まっすぐハロウィン村を目指して走り出す。





「……あのー、私もいるのですが……。まあマスターたちが幸せならそれでいいですが」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る