第54話 休息と女子会
無事ウサを助けられたその日の夜、ハロウィンパーティーのメンバーでウサを癒やす会が開かれた。
場所は《すずめのお宿》だ。夕食後、宿内の大部屋にみんなでのんびりと集まる。
鈴芽がウサを抱きかかえて頭を撫でていた。
「今日はひどい目にあったね、右左ちゃん、よしよし」
「まったくだよ〜。こわかった」
ウサも素直に鈴芽に甘えていた。
ウサのやつ、助け出してからこころなし甘え方ががさらに丸くなった気がするな。
お菓子の盛られた皿を持ってきながら、燕も慰めるように言う。
「ま、これからは単独行動は控えたほうがいいわね。盗賊はどこからでも現れるってわかったし」
「うん、そうする……」
「はい、デーツクッキーとデーツブラウニーよ。おいしいし体力も回復するわ」
「わーい!」
燕はまた器用に色々と作ったようだ。おいしそうにウサがクッキーを食べ始める。
ポーションで傷はすでに治しているのだが、そこはそれ。デーツを食べると気持ちまで回復する気がするのだ。
普通にうまいしな。
「チュンチュン」
「あ、飲み物も来たわね」
《すずめのお宿》の雀女将さんが人数分のジュースを持ってきてくれる。このジュースも種類が増えた。
《すずめのお宿》では外から持ち込んだ食べ物をおいしく加工してくれるのだが、持ち込める果物が増えたのだ。
スキル《枯れ木に花を咲かせましょう》は季節無視して栽培できるので、種さえ見つかればいろんな果物を取ることができるのだ。
今はオレンジ、ブドウ、スイカ、マンゴー、いちご、ざくろ、サトウキビが栽培できている。
「それじゃ無事に帰ってきた右左ちゃんに、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!!!」」」」
「…………」
打ち合わされたグラスがキンと澄んだ音を立てる。
ぷはっ、とひとくちジュースを飲んだ後、燕がこっちを見た。
「ところでどうしたの天道? さっきからずいぶん静かじゃない」
「……じょ、」
「うん?」
「女子会に巻き込まれるなんて聞いてない!!」
今更ながら、この部屋に俺以外女子しかいなかった。ウサ、鈴芽、燕、汨羅、喜桐、そして俺の6人だ。
いや、とーぜんなんだが。ハロウィンパーティーには俺と夜釣以外男がいないし、夜釣はみぞれとともに先に眠っていた。
しかもみんな浴衣姿で部屋全体がいい匂いがするし、異空間に放り込まれたみたいだ。
どうでもいいが、喜桐は普段男装して男っぽい振る舞いしているくせに、スタイルは汨羅に負けず劣らずのメリハリボディをしていた。目の毒なので必死にそらしている。
日中ではもう気にしなくなってきたが、こうして夜、密室で顔とスタイルのいい女子たちに囲まれるとさすがに緊張してしまう。
しかしそんな俺の苦悩を燕は遠慮なく笑い飛ばしやがった。
「あははは、あんたまだそんなこと言ってんの? もっとガツガツしなさいよ。ハーレム作りなさいよ。せっかくの異世界よ」
「からかってんのか? 俺にそんな度胸があるわけ無いだろ」
「わかってる。だからからかってんのよ」
「やっぱりからかってんじゃねえか!」
汨羅が隣の鈴芽に訊ねる。
「女子会ってなに?」
「こうやって女の子だけで集まってお菓子食べたりガールズトークすること〜」
「なるほど。これが女子会なのね」
「俺俺! 男がここにいるだろうが!」
「天道はいいのよ」
「そうそう、天道くんはいいんだよ」
鈴芽と汨羅からキャイキャイ笑われる。やっぱりからかわれているようにしか思えない。
相変わらず一人だけ酒を飲んでいる喜桐がほろ酔い加減で言った。
「なんと! 僕もすでに天道少年ハーレムの一員だったのか!」
「うぜえ絡んでくんな。喜桐が関わると余計ややこしくなるんだよ」
喜桐は飲んでいないときもきざったらしくてうっとうしいが、飲んだら飲んだでベタベタスキンシップしてくるので別のウザさがある。
いまも何故か俺を抱きしめて頭をなで始めた。
「僕はさびしいぞ〜、天道少年。なんで僕だけ名字呼びなんだ、距離を感じるじゃないか。せっかく仲間になったんだから僕も名前で読んでくれ」
「ええ〜、だってあんたは年上だし……」
「そんなこと気にするなよ〜、王様になるんだろう? だったら好きに呼んでくれ。敬語もいらない!」
「いや敬語は最初から使ってないけど……」
早々に化けの皮が剥がれたからな。
「さみしいさみしいさみしい〜! 名前で呼んでくれ天道少年!」
「ああ〜わかったわかった。……有都」
ぱあああああっと有都が笑顔になる。
「ありがとう天道少年! 実にかわいいやつだな君は。君が大学の後輩だったらこのまま持ち帰っているぞ!」
「なにとんでもない発言してんだお前は!!!」
ウサもいるんだぞ!!!!
「有都」
その時冷ややかな声が聞こえた。有都がびくぅっ! と背筋を伸ばす。
ギリギリギリ――と言う音が聞こえそうな動きで有都はゆっくり振り向いた。視線の先にはニッコリ笑う汨羅がいる。
汨羅はにこやかに人差し指を一本立てて言った。
「一回目、だから」
「はいっ! 気をつけます!!!」
なんのカウント!!?
コワイ!!!!
冷や汗を流しながら俺から離れた有都は、わかりやすくごまかしにかかった。
「さーて、無事に右左くんが戻ってきたことを祝って一曲プレゼントしようかな。なにがいい? 何でも弾くよ」
スキル《キリギリスのコンサート》でアコギを出した有都が右左に水を向けた。右左は無邪気な笑顔でそれに答える。
「いいの? それじゃあ……エゴロック!」
「いいだろう!」
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