第23話 天道、王として起つ

 翌朝、俺が村長むらおささんに会って俺たちの決意を伝えると、一も二もなく賛成してくれた。

 そのまま村長さんに頼んで、村の人たちを広場に集めてもらう。


「皆さん、ハナサカ様から大切なお話があります。心して聞くように」


 朝急に集められたせいか、村の人達はまだざわついている。

 緊張するな。村長さんは賛成してくれたけど、みんなは俺の宣言をどう受け止めるだろう。

 でもせっかく準備してもらったんだ。言うしかない。


「みんな集まってくれてありがとう。これから俺が言うことにみんな驚くかもしれないし、なにをガキが言ってんだって思うかもしれない。でも俺は真剣だ。そう思って聞いてくれ。

 いいか? 俺は――昨日村長さんからここの新たな村長になることを託された。俺はその話を受けようと思う!」


 おおーっ、と好意的なざわめきが起きる。村長さんがあらかじめ話し合ってくれていたおかげで、話がスムーズだ。

 さて、問題はここから。


「ただ、俺は新しい村長になるだけじゃない。俺は、この砂漠の大地に国を作る。モンスターを討伐しみんなの生活を良くしていって、この砂漠にどこにも負けない強い国家を作る!」


 ざわ……ざわ……と村の人達に困惑が広がる。そりゃ突然国なんて言われても困るよな。

 さあ一か八か。俺はもっと重大なことを発表しなくちゃいけないんだ。

 

「そして俺の国が十分に強くなったら――、俺は、バシル帝国に戦いを挑む! あの帝国を倒して、虐げられた人たちをみんな開放する!」


 うおおおーーーーっっ!!!!


 広場が爆発したかのような歓呼の声が上がった。みんな叫び、拳を振り上げ、涙を流している人さえいる。


 うん? あれ? 


 あっれ〜???


 てっきり反対されると思ったんだが。


 昨日燕と話し合ってどう説得するかの文面まで考えたんだが。

 みんな大興奮して喜んでいるぞ。

 いったいどういうことだ???


 隣から、村長さんが同じく涙を拭きながらそばにやってきた。


「感激でございます、ハナサカ様。まさかあのバシル帝国を倒すため自らおちになってくださるとは」


「へ? あの……。皆さんももしかして、バシル帝国のことが嫌いなんですか?」


「は、嫌いなんてものではありません。憎んでおります。不倶戴天の敵でございます」


 涙に濡れた瞳で、きっぱりと村長さんが言う。

 どんだけ敵作っているんだよバシル帝国……。


「バシル帝国はかつて我らの祖国を滅ぼしました。憎んでも憎みきれない、我ら獣人にとって最大の敵です。ハナサカ様、ご安心ください。バシル帝国を倒すためならば我ら全員命を捨てて戦います」


 村長さんの言葉に合わせて、広場の人たちも次々声を上げる。


「ハナサカ様! 私達全力で働きます!」


「俺達の命、存分に使ってくだせえ!」


「バシル帝国との戦いなら、たとえ死んでも本望です!」


 一切煽っていないのに、みんなの士気が爆上がりしている。

 帝国って本当に憎まれてるんだなあ……。

 俺はあえて、気合が入って見えるよう強面を作って応えた。


「みんな、ありがとう! 新たなこの村、いや、この国の名は『ハロウィン国』だ! みんなと力を合わせればきっとすごい国ができる。帝国を倒すため、一生懸命戦おう」


「うおおおおーっ、ハロウィン国万歳!」

「帝国をぶっつぶせ!!!」


 広場全体でハロウィンの大合唱が起こった。昨日の燕にも劣らない勢いで帝国打倒の気炎が上がる。


 旧追放者村には一部に獣人以外の人もいるんだが、その人たちも涙を流して帝国との戦いを叫んでいた。後で聞いたんだがみんなバシル帝国にはひどい目に合わされて逃げてきたらしい。

 バシル帝国のやらかしがここに来て爆発大炎上しているぜ……。


 後ろで控えていた燕が、俺の隣にやってくる。


「お疲れ様、あたしたちの不安は杞憂だったわね」


「まったくだ。こんなに村の人達が帝国を嫌っているとははな」


「この感じだと帝国を恨んでいる人たちは多そうね。彼らをまとめ上げて反帝国勢力として結集できれば、あるいは……」


「しかし、こんなに周りから恨まれていてよくバシル帝国は今まで崩壊しなかったよなあ」


 何気なくつぶやいたつもりだったが、燕はまじまじと俺を見つめてきた。


「な、なんだよ」


「その通りよ。天道」


「うん?」


「これだけ恨まれていながら、バシル帝国は今も健在している。それどころかますます領土を拡大させて、大陸最強国家として名を馳せている。つまり……バシル帝国は周辺諸国家が集まっても勝てないくらい強いということよ。バシル帝国と戦うには、戦力はいくらあっても足りないわ」


「そんなに強いのか?」


「バシル帝国は大陸で一番高ランクナラティブを抱えている。Aランクのナラティブ持ちが何人もいるし、Sランクも二人いる。Sランクははっきり言って化け物よ。あんたの《花咲かじいさん》も規格外だけど、それでもまだあの連中に勝てる気がしない」


「マジか」


 燕が神妙に頷く。


「特に厄介なのがナラティブ《竹取物語》のかぐや姫ね。そもそものナラティブが強いのもあるけど、この世界は月が二つあるでしょう。単純に強さが倍加されているのよ」


「ずっる!」


「満月の日に帝国のかぐや姫と戦ってはいけない。これはこの大陸の鉄則よ」


 帝国をあれほど恨んでいる燕が、悲壮感すら漂わせて戦ってはいけないと言う。


 一体どれだけ強いんだ、そのかぐや姫は。

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