第22話 天道、国造りを決意する

「俺が……王?」


 あまりにも突拍子もないことを言われたので思わず聞き返してしまった。

 燕はまっすぐに俺を見つめてくる。


「そうよ。あんたのナラティブは特別中の特別。村長なんて小さい立場に収まらないで、いっそ王を目指しなさい。つまり国造りよ」


「国造り、って……」


 想像もつかない話だ。村長ってだけでも荷が重いと思っているのに、国だと?

 俺が戸惑っていると燕が、ふ、と息を吐いた。


「……先にあたしの願いを言わないとフェアじゃないわね」


 燕がすっと立ち上がる。なんだ急にと思ったら堂々と、


「はっきり言っておくわ。あたしのこの世界での目標は、バシル帝国の打倒よ。あたしを牢屋に放り込んで拷問したあの連中ぜっっったい許さない。復讐しないと気がすまないの」


 とんでもない、だが実に燕らしい宣言をした。

 俺と鈴芽も驚いたが、ウサや夜釣、みぞれはそれ以上だった。唖然として言葉もない。


「ちなみに、復讐っていうのはたんに仕返しするってことじゃないわ。二度とあんなふざけた真似をする気が起きないよう徹底的に叩き潰すってことよ」


「なるほど。それで国、か」


「そう。だけどあたしのナラティブじゃ、国を作ることなんてできない。まだ呪紋で封印されたままだしね。だから天道、あんたに国王になって欲しい。あたしが全力で支えるから、この砂漠に最強の国家を打ち立てなさい。そしてあのクソ帝国を叩き潰すのよ」


「ま、俺も帝国に追放された身だから、あの帝国にやり返したい気持ちは一緒だぜ」


 俺をゴミ同然に扱ったバシル帝国の偉そうなやつには、正直今でもムカついている。

 俺のことを勝手に使えない呼ばわりした挙げ句砂漠に追放した奴らに、《花咲かじいさん》でやり返せたらさぞスカッとするだろう。


 ただ、国となると話がデカ過ぎる。自分が王様やってる姿なんか想像もできない。


「国ってなあ。そんな簡単に作れるもんじゃないだろ」


「国が想像できないなら、まずは村として独立するくらいでもいいわ。周辺のモンスターや盗賊に負けないよう戦力を整えて、自前で食糧を確保する。やるべきこと、必要なことは変わらないわ。極端な話、それの大きくなったものが国よ」


「でもさ、ここは砂漠だぜ。俺たちが頑張ったとしても、村の維持が精一杯じゃないか?」


「あら、砂漠で国を作るのはまったく不可能じゃないわよ。たしかに砂漠は定住に向かない土地だけど、その理由の大半は水の確保の難しさと農耕に向かないことだもの。水さえ確保できるなら、一年のほとんどが晴天の砂漠は住みやすいの。地球でも昔から砂漠にオアシス国家があったし、現代だってドバイとか、ラスベガスとか、発展した砂漠都市があったでしょう」


「なるほどな。水さえ確保できれば大きくはなれるのか」


 みんなを守る、食い物をいっぱい作る、生活を良くする。そうやって住む土地を発展させていくと、いずれ国になるのか。


 うーん、でもバシル帝国と戦うとなれば、巻き込む人も一緒に戦う人も多くなるだろう。俺と燕の復讐心だけでみんなを巻き込む訳にはいかない。


「なあみんな、もし、仮にだが俺が国を興して王になったら、みんなはどう思う? ついてきてくれるか」


 俺は燕以外の4人にそう問いかける。

 最初に視線の合ったウサがまず答えた。


「ボクは賛成。国を作るってことは、安全な居場所を作るってことだよね。ボクはこの一年で、この世界に無理やり召喚されて追放された子をたくさん見てきたよ。助けられなかった子も。だから、そんなボクらと似た境遇の人を助けられるなら喜んで協力するよ」


 うんうん、ウサらしい答えだ。ウサのナラティブはそんな戦闘向きじゃないもんな。戦うのは苦手だけど、人は助けたいってことか。


 ウサの言葉に、夜釣とみぞれもそれぞれ頷く。


「ぼくたちは右左ちゃんに助けられたし、ぼくたちみたいな人はもっと助けたいよ」

「わ、私も……」


 続いて鈴芽に目を向けると、彼女は考えるように顎へ指をのせた。


「うーん、私は帝国を倒したい、とかはあまり考えてないけど」


 やっぱりそうか。


「でも……ユーナとケイちゃんには、もう一度会いたいかな。あのとき離れ離れになっちゃったから」


「あ……」


 鈴芽が誰のことを言っているか俺にもわかった。ユーナもケイちゃんも、鈴芽のギャル友達で俺のクラスメイトだ。鈴芽ほど圧倒的人気じゃないが、二人共かわいくてクラスの中心メンバーだった。そして、いつでも鈴芽と楽しそうにおしゃべりしていた。


 鈴芽の日常と、大切な友達。


「ケイちゃんは使える組だったけど、ユーナは使えない組だったから……今どんな生活してるのかわからない。ケイちゃんだって、無理やり戦争に出されてるんでしょ? 絶対向いてないし、ひどい目にあってるよ。私、二人を助けたい。もう一度二人に会いたい。そのためなら私も、がんばって戦えるよ」


 そうだ。この世界に来てから俺は生き残るのに必死で、自分やそばにいるみんなのことばかりで、帝国に残されたクラスメイトたちのことを考える余裕がなかった。


 俺たちは無理やりこの世界に連れてこられたんだ。クラスメイトも、友達も。

 どうして忘れていたんだろう。


「……サク」


 思わずあいつの名前をつぶやいていた。

 サクはクラスで一番気が合ったオタク友達だ。ちょっとマイナーなVtuberの話で盛り上がって、一気に仲良くなった。くだらない話しかしてこなかったけど、もう一度あいつと話したい。


「俺も、サクにまた会いてえよ」


 サクもたしか使えない組だったはずだ。絶対今ひどい暮らしをしている。


 そうだ。


 俺は、帝国をぶっ倒して、悪い奴らをみんなやっつけて、捕まってた人たちをみんな解放して、


 そして、そして……


 サクに、会いたい。


 もう一度あいつと会って、またくだらない話をしたい。


 別に恋人だったわけでも、大親友だったわけでもないけど、


 俺はただあの友達を助けたい。


 俺は立ち上がる。みんなを見下ろして、宣言する。


「みんな、俺は国を作る。この追放者村から初めて、でっかい国にして、いつか帝国をぶっ倒す。そして俺は友達を助け出す。鈴芽のユーナやケイちゃんも、他のクラスメイトもみんなみんな助け出す。それが俺の、次の目標だ。みんな俺に力を貸してくれないか」


 俺の思いに応えるように、みんな頷いてくれた。まず鈴芽が、


「ありがとう天道くん。私がんばるよ!」


 続いてウサが、


「もちろんだよ天道おにーさん。何でもするからね!」


 夜釣と、みぞれも


「ぼくたちも、友だちと離れ離れになったんだ」

「がんばり、ます。私もたたかう!」


 それぞれ力強く返事してくれた。


 最後に燕だ。


「いい顔するじゃない。……たしかにあたしの復讐なんかより、あんたの誰かを助けたいって願いのほうがよっぽど健全ね」


「関係ないだろ。帝国を許せないって気持ちでは同じなんだから」


「ふふん、ありがと。残念ながらあたしはここでもう一度会いたい人間なんていないけど。あたしはあたしのため、あたしのプライドのために、帝国をぶっ壊すわ」


「ああ。頼むよ燕」


 俺たち6人は立ち上がり、ガッチリと手を合わせる。燕が言った。


「それじゃあここに、天道を王に据えた国家の建国を宣誓するわ。目標はバシル帝国の打倒とその被害者の救済。みんないいわね」


「「「「おー!」」」」


 みんなの声が唱和する。

 俺は、俺たちは、国を作ることを決意した。



◆◆◆◆



「さて、天道あんたは明日の朝、村の住民を集めて建国を宣言しなさい」


「みんな賛同してくれるかな?」


「それは言ってみないとどうにもわからないわね」


「いつまでも追放者村ってのあれだし、なんか新しい名前もほしいな」


「はいはーい! それならそのまま『ハロウィン国』でいいんじゃない」


 鈴芽がそう提案する。俺はすぐに乗っかった。


「いいな。俺たちの国は『ハロウィン国』だ!」

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