第21話 天道、村長を任される

『村の者たちともよく話し合って決めたのですが、ハナサカ様に新たな村長となっていただきたいのです。本日見せてくださったハナサカ様のナラティブ、使い魔、何よりそのお人柄に感服いたしました。エンドア砂漠は弱肉強食のまことに厳しい世界です。どうかそのお力で、我らを導いてはいただけないでしょうか』


 村長さんの話は簡潔にするとそんな内容だった。


 俺は返事をいったん保留にし、お宿に燕、鈴芽、ウサ、夜釣とみぞれの5人を集めて話し合いの場を設けた。

 ちなみにこの5人の人選は、単純に元日本人で召喚者で、俺のいろいろ複雑な気持ちもわかってくれると思ったからだ。


「俺がここの新しい村長だってさ。どう思う?」


 俺は5人に尋ねる。


 正直俺の気持ちとしては、村長なんてガラじゃねーって感じだ。


 だって村長だぞ。クラス委員長になるのとはわけが違う。ただの高校生がいきなりやれることじゃないだろう。

 でも、この村が進退窮まっていて俺の能力がないと暮らせないって話もよく分かる。


 俺としては気が進まないんだが、そこは話さずまずみんなの意見を聞くことにした。

 ところが、こういうとき真っ先に意見をくれた燕がなぜか今日はじっと黙り込んでいるので、俺は他の4人にも視線を向ける。


 俺と目が合った鈴芽がまず答える。


「私はいいと思うよ。天道くんが村長になるならすっごい安心。天道くんのナラティブすごいし、頼りになるし、何よりやさしいし」


「へへ、ありがとよ」


 元気いっぱいの笑顔で言われて俺は思わず頬をかく。学校のアイドルだった美少女、鈴芽にこうやって褒められるとなんだか不思議な気分になる。

 続いてウサが言った。


「ボクもいいと思うよ。おにーさん、強いし、かっこいいし、ご飯いっぱい出してくれるし、それからやさしいし」


 いつものちょっとこちらをからかうような表情だったが、目は真剣マジだ。素直に褒め言葉だと受け取っておく。

 ウサには懐かれてからどうも俺を過大評価している気がするが……

 そういやウサウサ呼んでいたが、ウサの名前は右左うさって書くらしい。珍しい名字だ。

 まあ俺は心の中で変わらずウサと呼ぶことにしている。


 夜釣とみぞれの二人も、ウサに同意するように頷いてくれた。

 まあ小学生がいきなり村長が云々なんて聞かれてもわからないよな。


 あとは燕だけだ。

 この、同い年だけど俺が心から尊敬し信頼している美少女が何て言うのか、注目した。

 するとそれまで黙って俺たちの話を聞いていた燕が、ウサへ目を向けた。


白煌しらぎ


 急に名前を呼ばれてウサがビクッとする。


「う、うん」


「あんた、かぼちゃを盗んだ罰がまだだったわよね」


 なんでその話をこのタイミングで? と思ったが燕の顔は真剣だ。

 たしかに燕の言う通り、ウサのかぼちゃ泥棒の一件はなあなあになって済まされていた。2回目に捕まった後ウサは謝って盗んだ野菜を全部返してくれたし、追放者村の人達を助けるので忙しくそのままになっていたのだ。


 しかし燕はその事を忘れていなかった。


「罰の内容は一度は天道に一任したけど、こいつは甘いからね。あたしはこのまま曖昧に誤魔化すことには反対。罪は罪、白煌はちゃんと罰を受けるべきよ」


「うん……」


 ウサがますます縮こまる。夜釣とみぞれの二人も心配そうにウサのことを見た。

 思わず俺は燕に言う。


「なあ、もうウサは仲間みたいなもんなんだし、そんなに厳しくしなくてもいいんじゃないか?」


 正直、俺はあんまりウサを罰したくなかった。


 この世界に召喚されたからの一年間、ウサたちはめちゃくちゃがんばって生き抜いていたからだ。今日の畑作業の合間に、俺はウサから色んな話を聞いた。


『ボクもおにーさんたちと一緒で隣国に召喚されてすぐ追放されたんだ。もっとも僕たちはおにーさんたちみたいな呪紋はつけられなかったけど。バシル帝国はひどいことするね』


『まったくだぜ』


『ボクたちはナラティブは使えたけどまだ子供だったからさ、モンスターと戦うのも大変だったよ。みぞれなんかまだ8歳だったんだよ。だから生きるためにはなんでもやった』


 エンドア砂漠は世界からあらゆる物が捨てられるゴミ溜めだが、そんな場所でもあちこちに人の定住している場所はあるらしい。

 さらにはそんな人達を狙って盗賊や奴隷商人がはびこっているのだとか。ウサはそうした盗賊などのアジトにおもむき、《いなばの白うさぎ》のスキルで騙して食糧を確保してきたのだという。


 さらに夜釣の《置いてけ堀》はどんな場所にも小さな池を作ることができた。この池からは魚がいくらでも釣れるのでマナの続く限りこの池で魚を確保できたんだそうだ。


 さらにエンドア砂漠の酷暑は、みぞれの《雪女》が操る氷雪魔法である程度和らげることができる。ウサと夜釣、みぞれは三人力を合わせて、砂漠の中でモンスターを狩ったり食料を奪ったりして生きてきたのだという。


『ここの村にたどり着くまでは本当大変だったよ。水なんて無いから《置いてけ堀》の水を飲んでしのいだんだけど、この水がまずくってね。極限状況じゃなきゃ絶対飲みたくないって味なんだ』


 エンドア砂漠で生きることがどんなに大変か、俺もよく知っている。まして、まだ中学二年生だったウサが突然異世界に飛ばされて、自分よりさらに年下の子どもたちを助けながら生き抜いていくのがどれだけ大変だったか。


 そんなウサの境遇を知ったらかぼちゃ泥棒くらい許してやろうと俺は思っていたのだが……。


 燕は俺の顔を見てきっぱりと言った。


「ダメよ。これから仲間になるのだからこそ、罰はきちんと受けさせないとダメ。それは村長になるにも必要なことよ。たとえ村長にならないとしても、あなたは『ハロウィンパーティー』のリーダーなの。リーダーなら、ルールと罰則はきちんと守らないと」


「むう」


「それで、ウサへの罰の内容だけど、あたしから提案があるの」


「……どんな罰だ?」

 

 あんまり厳しいのにはしないでくれよ……と俺は祈る。

 ウサは早くも覚悟を決めたように顔を上げた。


「燕さんの決めた罰なら、ボク何でも受けるよ」


「いい心がけだわ。じゃああんた、うちのパーティーに入りなさい」


「……へ?」


「もちろん夜釣とみぞれの二人も一緒にね」


 ウサも、夜釣りとみぞれも、ついでに俺も、燕の提案にキョトンとする。

 鈴芽だけはあらかじめ聞いていたのか、にこにこと笑っていた。


「それが……罰?」


 そんなのでいいの? と問うようにウサが言う。俺も拍子抜けした気分だった。


 燕は至って真面目な顔をしている。


「ええ、妥当なところだと思うわ。……天道までわかってないみたいだから言っておくけど、パーティー契約ってあんたの思っているより重いわよ。経験値分配の恩恵は受けられるけど、常に位置は把握されるしステータスも見られる。パーティーリーダーの事信頼していなきゃできないことよ」


「言われてみればまあそうか。でもその割に、燕も鈴芽もあっさり入ってくれたよな」


「あんたに命あずける覚悟は、とっくに済ませていたからね」


 燕はしれっとこういうことを言ってくる。心臓に悪い。


「私はさっきも言ったけど、天道くんなら任せて大丈夫って思ってたから」


 ニコっと笑って鈴芽が言う。こちらも心臓に悪い。


「そんなわけで、生殺与奪とは言わないけれどパーティー加入はそれなりに覚悟のいることよ。ゆるい主従契約と言い換えてもいいわね。それへの強制加入はふさわしい罰になるんじゃないかしら」


「――ってわけだウサ。悪いが俺たちの『ハロウィンパーティー』に加わってくれ」


「…………これじゃ罰にならないよ」


 ウサははにかむように笑ってから、頷いた。


「ボク右左白煌は、天道おにーさんたちのかぼちゃを盗んだ罰として、『ハロウィンパーティー』に加入します」

「ぼくも」

「私も入ります」


 夜釣とみぞれもすぐに手を上げて答える。


「よしっ、じゃあパーティー契約をするか。『ステータスオープン!』」


 ステータスを開き、ウサたちからそれぞれパーティー加入の申請をしてもらう。

 承認し俺たちの間にパーティー経路パスが繋がったことで契約は完了した。


「あらためてよろしくな。ウサ、夜釣、みぞれ」


「うん、よろしくね」「うん」「はい」


 あらためて三人と握手をする。

 ウサがすぐにからかうように目を細めた。


「これからは〜、リーダーって呼んだほうがいい?」


「今まで通りでいいよ。呼びやすい呼び方で」


「じゃあ〜、ご主人様で!」


「そんな呼び方一度もしなかっただろうが!」


「はいはい、いちゃつくのは後にして。もう一つ大事な話があるんだから」


 燕が半分あきれ気味に俺とウサの間に割って入る。

 別にいちゃついてはいないんだが!


「ねえ、天道」


 燕は、再び真剣な表情で俺の顔を見た。


「あんた、王様になる気はある?」

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