第20話 村の開拓

 大人数の食事はいい。みんなでメシを囲むと打ち解けるのも早くなる。


「村長さん、メシどうっすか?」


「とてもおいしゅうございます。私も長年生きてきましたが、こんなにおいしいものを食べたのは初めてです」


 村長さんが丁寧な所作で礼を述べる。普通の避難民っぽい人が多い追放者村の中で、この人だけは教養と品を感じる。

 トマトリゾットを食べながら、俺は村長さんと今後について話をした。


「この村の周囲って、自由に耕してもいいんすか? 誰かの所有地だったりします?」


「問題ありません。そもそもエンドア砂漠ははっきりと誰かの土地という場所はありません。各国からも見捨てられ放棄された、世界で唯一どこの国のものでもない土地です。良く言えば、国のくびきからも解放された自由な場所ではあります」


「じゃあ俺たちが耕してもいいと」


「はい。そもそもエンドア砂漠を耕そうなどという者はこれまで一人もいませんでした。ご存知かもしれませんがこの土地はかつての禁忌魔法と、その後積み上げられた毒による汚染がひどくてほとんど草木が生えないのです。村の中にある畑や樹木は浄化魔法できれいにした土に生えているんです。ですが私達のマナ量ではこの村の中の浄化が精一杯でして」


「なるほど。よーし任せといてください。明日すぐにこの周辺を畑に変えてやりますよ」


「ありがとうございます。村の者も働けるものは全員手伝います。そうだ、紹介をしておきましょう。タイガ、ミラ、こちらへ」


 村人の輪の中から出てきたのは20代くらいの男女の二人組みだった。男の方は背が高くガッチリした体格で、虎縞の髪に耳と尻尾が生えている。女性の方は猫耳が生えていて、俊敏そうな体つきをしていた。


「こちらのトラ属の男がタイガ、猫族の娘がミラです。それぞれ男女の働き手のリーダーをしています。畑仕事に限らず、なにかやることがあればこの者たちに言ってください」


「タイガだ。よろしく頼む。その……、コメ、すごいうまかった、ありがとう」


「ミラだよ。よろしくね」


「花咲天道です。テンドウって呼んでください。こちらこそよろしくっす」


 俺は立ち上がって二人と握手する。

 トラ族のタイガさんはまだ固いが誠実そうな人で、ミラさんは気さくな感じだった。突然やってきた異世界人の年下相手だってのに、二人とも好意的だ。やっぱり先に食事にしてよかった。


 それにしても……、俺は失礼にならない程度に二人の容姿を観察する。

 獣人と言っても耳や尻尾が生えているだけで顔つきはほとんど人間と変わらない。こんな容姿でも他の国では差別されてしまうのか。

 わかってはいたが、過酷な世界だぜ。


 その日は村長さんや村の人達とたくさん話しをして情報収集したり、すずめのお宿をあらためて村の中心に移動したりして終わった。



◆◆◆◆



 翌日から本格的に村周辺の開拓を開始する。


 やることは単純だ。砂漠に俺が《枯れ木に花を咲かせましょう》で出した灰をまく。耕す。これの繰り返しだ。

 エンドア砂漠は広い。闇雲に開拓してもしょうがないので、まずは俺たちが砂漠で最初に耕した畑のとこの村までをつなぐように耕すことにした。


 最初の畑と追放者村まで、近いとは言えそれなりの距離がある。間に広がる土地はかなりのものだ。だが俺には今回新しい味方がいくつもあった。


 まず村にあったクワ。そう、クワだ。ついに農具を手に入れたのだ。

 お玉で耕していた日々がついに終わる……やったぜ!


 クワはすごかった。俺が灰をまいた土地に一振りクワを入れるだけで、一気に10メートルくらいの砂地が耕せた。ふかふかの豊かな土壌に大変身だ。こころなしお玉のときよりさらに黒い良い土になってる気がする。

 うーん、やっぱりお玉はいろいろと無理があったな。でも最初に俺たちを助けてくれた大事な道具なので大切に保存しておく。


 村の人達も一緒に働いてくれた。追放者村には老人や子供も多く、働けるのは半分以下の40人くらいだったが、それでも一気に人手は増えた。何しろ今まで俺一人で耕してたんだからな。


 俺が周辺の土地に灰をまいておくだけで後はガンガン村の人たちが耕してくれた。獣人ってのは人間より体力が強いらしい。砂漠のきつい日差しをものともせず働いてくれる。働ける村人のうち若い男は10人くらいで後は女性なんだが、人間の男よりよっぽど力が強かった。リーダーのタイガさんもミラさんも、働き手をうまく指揮してどんどん土地を耕してくれた。



 砂漠を耕していると必ずモンスターが出てくるが、それはジャックが相変わらず倒してくれた。

 俺にとってはすっかり当たり前の光景だが、村人にはだいぶ驚かれた。


「お、おい、いま鋼鉄サソリが瞬殺されなかったか? 俺の見間違いか?」


「見間違いじゃないわよ。あの使い魔強すぎる……もう上級モンスターを10匹も狩っているわ。私達がコイツラのせいでまったく村の外に出れなくなっていたのに」


「ハナサカ様って本当にすごいナラティブ持ちなんだな。あんなに強いのになんで追放されたんだ?」


「帝国はとんでもない逸材を逃したんだね」


「すごいって言ったらこの土もだよ。不毛の大地だったエンドア砂漠がこんな簡単に畑になるなんて」


「ハナサカ様が来てくれてほんと良かったよ」



 なんか、村の人達からすごい尊敬の視線を集めている気がする……。

 俺がすごいんじゃなくて、スキルがすごいだけなんだけどなあ。



 ◆◆◆◆


 

 村の人達といっしょに耕したおかげで午前中には最初の畑のところまで耕作地が繋がり、その周囲一帯も耕すことができた。

 すげえ……一気に畑が広がった。もう広すぎてわけわかんないけど、たぶん何ヘクタールもある。


 畑ができたら種まきだ。村長さんが逃げ出す時に持ってきた貴重な種を提供してくれて、新しい作物を植えることができた。


【主食】

・米

・小麦

・とうもろこし


【野菜】

・かぼちゃ

・トマト

・ナス

・じゃがいも

・玉ねぎ

・オクラ


【果物】

・オレンジ

・ブドウ


【樹木】

・ナツメヤシ

・ゴムの木(ゴムだけじゃなく石鹸も作れるらしい)

・バオバブ(保水、家の素材、果実は食べれる上油も取れる万能植物らしい)


 これだけ作物が増えたのだ。やったぜ!

 ちなみに燕に教えてもらったんだが、オクラってアフリカ原産らしい。知らなかった。

 レベルが10になっているおかげで、作物は3日くらいで収穫できる。このことを教えたら村人全員から、


「神」

「すごすぎる……」

「やはり救世主」


 と、大感謝されてしまった。

 いやいや、俺だけの力じゃないよ? あんた達も耕作に種まきとめっちゃ頑張ってくれたじゃん。

 感謝してもらえるのはうれしいけど、ちょっとむず痒いぜ。


 それに、畑にまく水は《すずめのお宿》の水道だけじゃなく村の古井戸からも汲んでいる。

《すずめのお宿》も相当豊富な量の水が出るのだが、鈴芽のマナを使って維持しているので畑全体にまくには限度があるのだ。

 そんなわけで畑は俺たちのスキルと追放者村双方の力が合わさって完成したものだ。



 ◆◆◆◆



 夕方、西日に照らされ赤く染まる大地を見ながら、俺は感慨に浸っていた。

 砂か岩ばかりで起伏の少ないエンドア砂漠の土地は、あっという間に見事な農地に変身した。

 すげえ……。追放されたときは見渡す限りの荒野だったのが、今は開拓し放題の手つかずな大地に見える。

 ここで暮らしていくのも、まんざら夢物語じゃなくなってきた。


 そんな事を考えていたら、ウサが俺のことを呼び来た。


「いたいた、おにーさん! 村長が呼んでるよ。なんか大事な話があるんだって」


 話? なんだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る