第19話 リゾットとアクアパッツア
村長さんと話したいことはまだまだあったのだけど、村の窮状を聞いた俺は、先に食事を提供することにした。
最初は《すずめのお宿》に保管してある食料をそのまま渡せばいいと考えたのだが(すずめのお宿はスキルなので鈴芽の任意で出し入れができる)燕に反対された。
「最初は、あたしたちとこの村の共同作業にするべきよ。どんなものでもいいから、この村の資源を出してもらって」
ということなので、村長さんに相談すると、
「村で栽培しているわずかな野菜と塩漬け肉なら多少……それから村に共用のかまどや鍋があるので、自由に使ってもらえれば」
と了承してもらえた。かまどがあるのか、意外だ。
木のほとんど生えないエンドア砂漠で薪はどうしているのかと思ったら、モンスターの体内にある魔石が魔力の塊で、これに魔法で火をつければそのまま燃えてくれているらしい。村の人達でも倒せるレベルの小さなネズミやうさぎ系モンスターの魔石でも、8時間くらい燃えているんだとか。
マジか。モンスター狩りまくってたけど魔石は取っていなかった。もったいないことしたな。
でもこの世界モンスターの死体が残るんだよなあ……あれを解体して魔石取るのはちょっと精神的に厳しい。
鈴芽に《すずめのお宿》を村の近くに出してもらいお互いの食料で料理開始となった。
ちなみに《すずめのお宿》を出したときはめちゃくちゃ驚かれた。ふふふ、そうだろうすごいだろう。俺のスキルじゃないけど。
俺たちが提供したのは主に米と水。調理用の油や調味料。
村が提供してくれたのは塩漬け肉と野菜だ。
村の野菜を見て燕がうれしそうにする。
「トマトとにんにく、玉ねぎもあるのね。やるじゃない!」
まず村のかまどで大量の米を炊く。
米を炊いてる間に、燕が別の鍋でオリーブオイルで刻んだにんにくと塩漬け肉を炒め、香りが出たら玉ねぎを入れてさらに炒め、潰したトマトを加えて煮詰め……と手際よくトマトソースを作っていく。
本格的な料理はこの世界では広まっていないらしく、村の人達がざわついていた。
「すごい、あんな作り方があるなんて……」
「とってもいい匂いがする……」
「もうおいしそう」
評判が上々でよかった。さすが燕だ。
料理のできる村の女性たちが燕を手伝って全員分の調理をしていく。燕の教える料理法に目を丸くして聞いていた。
俺も匂いを嗅いだら腹が減ってきた。
「野菜も手に入ってよかったぜ。後はタンパク質だな。肉や魚……魚は無理か」
「あ、ぼく魚出せるよ!」
そう言ったのは《置いてけ堀》のナラティブを持つ
「ぼくの《置いてけ堀》はどこでも小さな池を出せるの。そこでは誰でも簡単に魚が釣れるんだ。ぼくのランクがEだから魚は三種類くらいしかいないけど……」
「いやいやすげーじゃん! いいスキルだよ」
「えへへ。ありがとう天道お兄ちゃん。本当は釣り池のふりをして敵を沈めるトラップにもなるんだけど、ぼく子供だったから力弱くてさ、役立たずって追放されたんだ。だからほめてくれてうれしいよ」
「そっか……大変だったんだな」
「ぼくだけじゃないよ。みぞれちゃんも、《雪女》のランクが低いからって追放されちゃったんだ。《雪女》は発動するだけで氷系の魔法が使えるナラティブなんだけど、みぞれちゃんはFランクで、おまけに同時召喚に《雪の女王》Sランク持ちがいたから……」
「ああ……」
《雪の女王》なんて聞くからに《雪女》の上位互換っぽいナラティブだ。
みぞれは何も言わなかったがしょんぼりと肩を落としている。すっかり自信をなくしていた。
俺は二人の肩に手をおいて言う。
「心配すんな。俺だって追放されたけど、砂漠ではめちゃめちゃ役に立つナラティブだったんだぜ。鈴芽も燕もすげえ能力を持っていた。戦えないからなんだってんだ。追放した連中のことなんてほっとけ! いつか見返してやろうぜ」
「……うん!」
「……(こくり)」
夜釣は笑顔で、みぞれは静かに頷いてくれた。早く、二人が普通に笑えるようにしてやりたい。
「よし、じゃあさっそく魚も釣ってみるか」
「うん。ナラティブ《置いてけ堀》、スキル発動、《置いてけ堀》!」
夜釣の言う通り目の前に直径2メートルほどの池が出てきた。砂漠に急に水が出るってのも不思議な光景だ。
「今はこんな大きさだけど、最大で3メートルくらいまで広げられるよ」
料理ができるまで手持ち無沙汰なのも申し訳ないので、さっそく釣りをする。釣り竿は村にあったのを貸してもらった。
夜釣の言う通り池に釣り糸を垂らすだけで面白いほど簡単に釣れる。種類はハゼ、ニジマス、フナで、ニジマスが多く釣れた。
夜釣、みぞれ、混ざってきたウサの四人で協力して、30分ほどで昼飯には十分な量の魚がつれた。
今までもこうしてときどき池を出して食料確保をしていたらしい。
ただし夜釣のマナで作っているので、とても村人全員をまかない続けることはできなかったんだそうだ。
「お~い燕、魚釣れたから持ってきたぞ」
「あらいいわね。アクアパッツアにしましょう」
トマトソースを煮込んでいた燕がすぐに別のかまどで調理を始める。
魚を受け取ると手早く鱗と内臓をとってさばき始めた。魚もさばけるのか燕。ほんと万能だな
◆◆◆◆
しばらくして、アクアパッツアという魚の煮込み料理とトマトリゾットができた。
村の広場に全員が集まって、食事となる。
俺たちもすずめのお宿に入ったりはせず、広場で一緒に食べることにした。昼間の砂漠はつらいかと思ったが、広場に生えている樹木やテントで日差しよけがあり、さらにみぞれの
やっぱり《雪女》めっちゃ役に立ってるじゃねえか。後でもっと褒めないと。
村長さんが代表であいさつする。
「今日はこのハナサカ様たちの救援でこうして全員が食事を食べることができました。どうか皆さん感謝していただきましょう」
「「「ありがとうございます!!!」」」
「いやいやいいですって。それより早く食べましょう」
「「「いただきます」」」
村人全員で手を合わせる。
こんなまともなメシは久しぶりだ。俺もすっかり腹が減っていた。
まずはアクアパッツアから食べる。
「うん、うめえ!」
「塩コショウとオリーブオイルだけでも結構美味しくなるでしょ」
燕がドヤ顔で胸を張る。言葉通り本当においしかった。
ウサと夜釣、みぞれも目を丸くする。
「すっっごくおいしい! Tsubasaさんって料理もできたの!?」
「そのTsubasaっていうのやめて。燕でいいわ」
「わかった、燕さん。とってもおいしいよ!」
「ありがとう」
そっけないが、この数日一緒に暮らしてきた俺はわかる。あれは照れているだけだ。
さらにリゾットを一口食べる。味付けはトマトソースだけかと思ったら魚介系の旨味が加わっていた。
「アクアパッツアの出汁を使ってみたの」
「こっちもめちゃくちゃうめえよ。さすがだな!」
「ふふん、もっと褒めなさい」
村の人達の反応は俺たち以上だった。
「う、うまい!」
「こんなおいしい料理食べたこと無い!」
「トマトってこんなに美味しくなるんだ……」
「このアクアパッツアってやつも今まで食べた中で一番うまい魚料理だ!」
大絶賛の嵐である。燕は今まで見たことないほどドヤ顔をしていた。
「ふふーん。ま、あたしなら当然ね」
燕がますます誇らしげに胸をそらす。
……よくは知らないが、燕は日本であまり楽しく料理をしていなかったらしい。
そんな彼女が今、異世界でみんなから料理を褒められて、おいしいと言ってもらえている。それが俺はなんだかとても嬉しかった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
新年初投稿です。今年もよろしくお願いいたします。
登場人物が増えてきたので、ここで一回各スキル表をまとめておきます。
◆◆◆◆
まとめ
【レベル】……本人のレベル。レベルが高いほどスキルの発揮する力も強くなる。レベルは経験値を貯めることで成長するが、成長のしやすさや上限はランクによって異なる。
【ナラティブ】……能力、及びその元となった物語名。
【ランク】……ナラティブの凄さ。F〜Sまである。天道は例外のEXランク。
【スキル】……ナラティブの持つスキル名。
――――――――――――――――――――――
【年齢】17歳
【レベル】10
【ナラティブ】《花咲かじいさん》
【ランク】EX
【スキル】
・スキル1《枯れ木に花を咲かせましょう》……灰を作り出し、それを植物に触れさせることでその成長を促進したり、生命を与えて使い魔にできる能力
・スキル2《黄金臼》……杵と臼を自在に出し、食べ物や黄金を生み出す能力。出せる量はマナに比例するが、少量のマナでもかなりの量が出せる。
・スキル3《????》
――――――――――――――――――――――
【年齢】17歳
【レベル】6
【ナラティブ】「舌切り雀」
【ランク】B
【スキル】
・スキル1《舌切り鋏》……小さな和鋏を作り出す能力。詳細不明。
・スキル2《すずめのお宿》……どんな場所にも宿を作り出せる能力。攻撃能力はないが、隠密能力があり魔物の攻撃から宿泊者を守るシェルターの役割にもなる。現在は木造家屋の形を取っている。
素泊まり宿……一般的な木造家屋の宿。3LDKほどの広さで、寝室、ダイニングキッチン、風呂場などがある。設備は整っているがまだ従業員はおらず、食事や就寝準備などは全て自分たちで行わなければならない。外から持ち込んだ食材を保管することも可能で、外の世界より腐りにくくなる。寝具やアメニティも必要なものが揃っており、服の洗濯も可能。
・スキル3《????》
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【年齢】17歳
【レベル】6
【ナラティブ】「幸福な王子」
【ランク】A
【スキル】
・スキル1《小さなツバメ》……自身の何かを代償に、他者を救済できる能力。それが自身にとって大切なものであればあるほど効果を増す。またこの能力はマナを使わなくても発動することができる。代償は自身にとって取り返しのつかないものではあるが、代わりに通常魔法では絶対不可能な奇跡を起こすこともできる。
ただし自分自身を救済することはできず、失ったものも戻らない(回復魔法でも再生できない)
・スキル2《????》
【備考】呪紋によりマナ封印中
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【年齢】15歳
【レベル】15
【ナラティブ】《いなばの白うさぎ》
【ランク】C
【スキル】
スキル1《いなばの白うさぎ》……どんなあり得ない嘘でも一度だけ相手を騙すことができる。ただしついた嘘は後で絶対にバレ、また同じ相手を二度騙すことはできない。
スキル2《蒲の穂》……寝床に敷いてその上で休むことで、身体を回復できる。低級ポーション程度の回復力がある。
スキル3《大国様の袋》……昔話「いなばの白うさぎ」において、大国主命が担がされていた袋。アイテムボックスのように見た目より多くの物を入れることができるが、白煌のナラティブランクがCなのでそれほどたくさん入るわけではない。
――――――――――――――――――――――
【年齢】10歳
【レベル】11
【ナラティブ】《置いてけ堀》
【ランク】E
【スキル】
≪置いてけ堀≫
・最大直径3メートルほどの池を作り出すことができる。
・池は釣り堀となっており、釣り糸を垂らせば素人でも釣れるほど簡単に魚が取れる
・池から釣れる魚はレベルによって増える(現在はハゼ、ニジマス、フナ)
・能力者が釣りをしている間は、ただの釣り堀
・能力者自身が池の中に潜ると、罠として作動する。
・釣り、あるいは池に近づいた物を強力な力で引きずり込むことができる。
・ただ、必ず「置いてけ」と言わなければならないので罠として機能しにくい上に、力で勝てない相手の場合普通に逃げられる
・水は一応飲める(まずい)
――――――――――――――――――――――
【年齢】9歳
【ナラティブ】雪女
【ランク】F
【レベル】10
【スキル】
≪雪女≫
・雪女として氷雪系の魔法が使える。氷雪系に限りマナ消費も少ない。
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