第14話 かぼちゃとデーツ、そして米 2

 夕方、日の傾いた頃モンスター狩りを再開する。

 概ね昨日と同じだったが、今日はモンスターの新顔がいた。


「あれなんだと思う? キツネか狼っぽいけど」


「たぶんジャッカルね。耳が長くて口先が尖っているから」


 燕が言うところのジャッカルは、5頭の群れでやってきた。鋭い牙をむき出し、こちらを食べる気満々だ。


「悪いが容赦してたら俺たちも生き残れないんでな、狩らせてもらうぜ。ジャック!」


「――――」


 ジャックがふわりと舞い上がると、目で追えないほどの速度でジャッカルに突進する。


 ジャッカルたちも蛇やサソリよりは俊敏に動いたが、ジャックには敵わずすぐに大鎌の餌食となった。


「お疲れ、ジャック。なんかお前を助けられる技でもあればいいんだけどな」


「――」


 俺のボヤキに、気にしないでというふうにジャックが首をふる。マナを補給してやるとうれしそうにした。

 その時、例の音声が頭に鳴り響く。


[レベルが10に上がりました。新スキル《黄金臼こがねうす》を手に入れました]


 ジャッカル5頭は経験値が高かったらしい。蛇やサソリを倒すよりも早くレベルアップできた。ついに俺も二桁台だ。

 しかも新スキルまで手に入った。


「《黄金臼こがねうす》ってどんなスキルだ?」


[《黄金臼》は杵でつくと様々なものを生み出せる臼を作り出します。最初に発動する時に、臼の元となる木が必要です]


 そう言えば花咲かじいさんにそんな臼があったな。金の小判や宝物を出したり、米を出したりしてた。


「しかし最初の発動に木が必要だなんて、砂漠にゃ一本も……あ!」



 ◆◆◆◆


 

 俺は二人に事情を説明し畑にあるナツメヤシのうち一本をることにした。


「せっかく生えてくれた木だけど、仕方ないよね」


「スキルは大事だもの。ありがたく使わせてもらいましょう」


 デーツを気に入っていたのか、鈴芽と燕がそれぞれナツメヤシに別れを告げる。

 俺もがんばって自力で生えてくれたナツメヤシに申し訳なく思いつつ、ジャックに指示する。


「ジャック、頼む」


「――――」


 ジャックはあっさりとその大鎌でナツメヤシの太い幹を切った。うまく角度まで調整してくれたのか、俺たちがいる方とは反対側に倒れていく。

 切り倒したナツメヤシに近づいて手で触れると、頭に声が響いた。


[《黄金臼》に使用可能な木があります。スキル《黄金臼》を発動しますか?]


「ああ、スキル《黄金臼》発動!」


 身体からマナがナツメヤシに流れ込むのを感じる。ナツメヤシの木は光り輝くとその形を変え、後には臼と杵が現れた。


[ナツメヤシの木から《黄金臼》を作りました。杵でつくと、マナの続く限り米を生み出します]


「成功だ、米が作れるらしいぞ!」


「やったーー!! ついにご飯が食べられる」


「新しい食糧ゲットね。やったじゃない」


「――――」


 ジャックも混じってばんざーい! ばんざーい! と喜ぶ俺たち。


 試しに一回杵でついてみると、僅かなマナしか入れてないのに溢れんばかりの米が出てきた。すでに精米済みの白米だ。


「あわわわ、すげえ!」


「もったいないよ天道くん! せっかくのお米がこぼれちゃう」


「白米を出すのはお宿の中でやったほうが良さそうね」


 米でいっぱいになった臼を抱えて、俺たちはお宿の中へと入った。



 ◆◆◆◆



≪黄金臼≫のスキルは優秀で、一回の発動で米一俵(※約60キロ)分の白米を出せることが分かった。

 しかもマナの消費は体感1割もない。さすがEXランクの《花咲かじいさん》だ。


「ではこれよりほかほかごはんパーティーを開催する!」


「わーーーい!」


「え、何なの二人のテンションは」


 説明しよう、ほかほかごはんパーティーとは!


 とにかく炊きたてのごはんを腹いっぱい食うだけのパーティーである!


 鈴芽は趣旨を理解してくれているらしく大盛りあがり。燕はただ困惑していた。


「さては燕白米アンチか?」


「白米にアンチがいるわけ無いでしょう。普通に好きよ。でもあたし、ご飯だけでお腹満たしたこと無いんだけど」


「マジか」


 俺は母親が忙しかったのもあってよく自分でおかかご飯だけ作って朝食にしていた。白飯だけでも食べられる。


「まあ今回は単におかずになるようなものがないからなんだが……」


「お宿にあるのはとりあえず、塩コショウ、お醤油とかの調味料だけだね。おかずはかぼちゃとデーツ」


「かぼちゃはともかくデーツはさすがに合わなそうだな」


「まあとりあえず食べてみようよ。私もう待ちきれない!」


 テーブルの上にはすでに鍋いっぱいに炊かれたお米がでんと乗っていた(炊飯器はまだない)。

 たしかにこの白米を前にしては俺も待ちきれない。


「じゃ、いただきます」

「いただきます」

「いただきます」


 それぞれお茶碗へ適当にごはんをよそって食べる。


「う〜ん、うまい!」


「おいし〜。やっぱりお米っておいしいね!」


「うん、たしかに。久しぶりに食べるとしみじみおいしいわ」


「そっか燕はずっと捕まってたんだもんな」


「ええ、牢屋ではパンしか出なかったから。鈴芽の言う通り、お米はやっぱりおいしいわ」


 みんなでひたすら白米を食べ続ける。俺は4杯おかわりした。


 一通り白米に満足したところで考える。


「さて、次はどうやって食べるか……」


 とりあえず適当に醤油を回しかけて食べる。


 うん、うまい。うまいけど……


「醤油だけでもまあまあいけるけど、やっぱり鰹節がほしいなあ」


「私も海苔がほしい」


「あんたたちね……まああたしも梅干しがあればなって思うけど」


 白米党の俺と鈴芽に呆れた視線を向けつつ、一応燕も乗っかってくれる。


「ふりかけがこんなに恋しくなるとは思わなかったぜ。ごま塩がほしい」


「私のりたまが好き」


「……あたしは梅ゆかり」


「生卵」


「たらこが好き」


「イクラ」


「塩鮭」


「アジ」


「サバ味噌」


「海苔の佃煮」


「鶏そぼろ」


「鮭フレーク」


 たんに自分の好きなごはんのお供を言い合う会になってしまった。


 その時、急に鈴芽が立ち上がる。


「待って、料理用の油があるってことは……!」


 そう言って急に冷蔵庫へ向かったかと思うと。


「あったよ二人共、バターが!」


「バターごはんか、でかした!」


「そうそう、さらに醤油もかけたら絶対おいしいよ!」


「「やったーやったー!」」


 バターを胴上げしだす俺と鈴芽。


「二人のテンションがもう怖いわ……」


 と燕はドン引きしていた。


 さっそくまだ熱いご飯の上にバターを一欠片のせ、醤油をかけてかっこむ。


「〜〜〜〜っ、うまい!」


「はあ〜〜、おいしい」


 俺と鈴芽は至福の表情でバター醤油ご飯を食べる。燕もリアクションは普通ながらおいしそうに食べていた。


「うん、まあたしかにこれならご飯だけでもおいしいわね」


「やっぱ日本人は米だよな」


「ねー」


「《黄金臼》があればとりあえず食うには困らないな」


「いや、さすがにお米しか無いのはちょっと困るわ」


 白米党ではないらしい燕が、冷静にツッコんでくる。

 鈴芽も真剣な顔で頷いた。


「たしかに。私もやっぱりもっとお供がほしいもん。きゅうりの浅漬とか」


「そういう意味じゃないんだけど……」


「よし、じゃあ次はご飯のおかずになりそうな食材を手に入れるぞ!」


「おーーー!」


「いや、あたしがいいたいのは栄養バランスであっておかずの話じゃなくてね……もうなんでいきなり二人は仲良くなっているの!?」


 鈴芽と二人で拳を合わせ、力強く決意する。


 目指せ たらこ! 納豆! 鶏そぼろ!

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