第13話 かぼちゃとデーツ、そして米 1
かぼちゃの収穫は案外簡単にできた。
夜になって気温が一気に下がり過ごしやすくなったのに加え、ジャックが手伝ってくれたからだ。
ジャックはかぼちゃの太いツルもその大鎌であっという間に切ってくれた。
そういえばジャックが休んでいるのを見たことがないな。使い魔だから必要ないのかもしれない。
どっかでねぎらってやりたいもんだ。
かぼちゃは3個を今日食べる用にして、残りは俺の寝室に保管した。すずめのお宿に食料庫とかは無いからだ。
今後かぼちゃが増えてきたら保存場所も考えないといけない。腐らすのはもったいないし。
畑の成長速度を変えておいたのは結果的によかったかもな。
◆◆◆◆
収穫したかぼちゃは燕が美味しい煮物にしてくれた。マジで今まで食べたかぼちゃの煮物の中で一番うまかった。
「うめええええ! かぼちゃってこんなうまくなるのか!」
「ほんと美味しいよ燕ちゃん!」
「二人共大げさなんだから……」
絶賛する俺と鈴芽をあきれたように見る燕だが、顔はまんざらでもなさそうだ。
3人でかぼちゃ3つなんて多いかと思ったが、あっという間に無くなった。
「ふー、食べた食べた。ようやく身体に栄養が入った気がするぜ」
「まあ、かぼちゃだけなんだけど。早く新しい食糧を見つけないと飽きるわよね。栄養バランスも悪いし」
「えー、私は毎日でも食べたいくらいおいしかったよ」
「そう言ってもらえるのはうれしいけど、さすがに毎日かぼちゃは飽きるでしょうよ」
「ま、新しい食べ物のことは明日考えるとして今日は寝ようぜ」
考えることを放棄してさっさと寝ることにした俺たち。
しかし、翌日あっさりと新たな食べ物は見つかったのだった。
◆◆◆◆
「なんだこれ……」
朝起きて畑の様子を見に行ったら、見知らぬ大木が生えているので驚いた。
見た目はヤシのでかいやつって感じだ。節の重なったような幹に、細長い葉っぱが全方位に生えている。高さは20メートルくらいで、かなりでかい。
もちろんのこんな木を植えた覚えはない。俺があんぐりと口を開けたまま固まっていると、後からやってきた燕が声を上げた。
「ナツメヤシ! これナツメヤシよね?」
「「ナツメヤシ?」」
俺と鈴芽が同時に首を傾げる。燕がすぐに解説してくれた。
「地球の話だけど、アフリカや中東で広く栽培されている木よ。この通りヤシに似ていて乾燥に強いの。
「あー、デーツってそう言えば聞いたことある! ビタミンCや食物繊維が豊富で美容にいいんだって。ほえー、これがそのデーツのなる木なんだ」
鈴芽が感心したように見上げる。
「
俺はちょっと考えてから、ジャックを呼ぶ
「ジャック、あの木の上にある実、取ってこれるか?」
「――――」
ジャックはうなずくが早いかふわりと舞い上がり、あっという間に20メートルはある木の頂上まで浮かび上がると、見事に実のなる一房を切り落として戻ってくる。
「サンキュ。……へえ、これがデーツか」
実は褐色の楕円形で、プルーンにも似ていた。黒糖に似た甘い香りがする。
このまま食べられるのか? と疑問に思ったら頭の中で例の音声が鳴った。
[デーツ。ナツメヤシの実。すでに完熟済みで食べられます]
「説明が遅えよ! というかなんで畑で勝手にナツメヤシが育ったんだ?」
[ナラティブ所有者が寝ている間に砂に埋まっていたデーツの実が発芽しました。土はすでにスキル≪枯れ木に花を咲かせましょう≫によって強化されていたため、デーツも育成促進が付与され成長しました]
「はあ……砂の中にあらかじめ埋まっていたものが勝手に育ったってことか……」
《花咲かじいさん》の音声ガイド、能力の説明をしてくれるのはありがたいがどうも使い勝手が悪い。もっとこう、こっちが疑問に思う前にいろいろ教えてほしいんだが……。
俺は音声の言う説明をそのまま燕たちに伝えた。
「やっぱりナツメヤシの木だったのね。地中に埋まっていた種が勝手に育ったか……その割に他の植物が育っていないのは不思議だけど」
「ああ、見る限り成長しているのはかぼちゃとナツメヤシだけだな」
「そもそもエンドア砂漠は禁忌魔法の毒で土壌が汚染されているはずよ。天道の《枯れ木に花を咲かせましょう》でこの畑の土は浄化されたんだとしても、そもそもここの砂には種が残っていなかったはず……。あ、待って、確かナツメヤシって中東ではとっても重要な植物で、『生命の樹』のモデルとも言われているの。この世界は
「何でもよく知っているなあ。なるほど、《生命の樹》の逸話と俺の花咲かじいさんの能力が合わさって種が復活できたってわけか」
「そう。もしかするとこのデーツ、たんに食糧としてだけじゃなくてHPやマナの回復効果があるかもしれないわ」
「おお。じゃあさっそく食ってみるか」
俺はデーツにかじりつく。素朴な甘みとドライフルーツみたいな食感がある果実だった。人によって好みはあるだろうけど、俺は好きな味だ。
「ん、初めて食ったけど味も普通にうまいな」
「じゃああたしも」「私も食べるー」
燕と鈴芽もそれぞれ一つ取って口に運ぶ。
「うん、おいしいわね。こころなし地球で食べたのよりもおいしい気がするわ」
「甘くておいしいねえ。昨日のかぼちゃも甘かったけど、このデーツも好きだな〜」
ジャックが取ってくれた実はまだたくさんあったので、そのまま3粒、4粒と食べ続ける。なんか癖になる味だ。
「昔の人はこのデーツと乳製品だけで砂漠を越えたりしたらしいわよ。まさに砂漠の食べ物ね」
「なんか食べるだけで力が湧いてくる気がするな」
ステータスを見れないのでHPやマナが回復しているかはわからないが、元気は出てきた。
「ナツメヤシはデーツが取れるだけじゃないわ。葉は日差しを防いでくれるし、幹は建材や燃料にもなる。デーツも乾燥させれば保存食になるし、有益な植物なのよ。天道は畑作業もするんだし、畑の周囲に植えてもいいんじゃない」
「たしかに、昨日砂漠の直射日光はつらすぎるってわかったからな」
デーツを朝食代わりに食べ終えた俺たちはさっそく今日の活動を開始した。
まず他のデーツも収穫し、一部は《すずめのお宿》の冷蔵庫に保管する。残りは天日干しにして保存食にする。
昨日植えたカボチャ畑の周りにデーツも植えていった。灰をまくだけですぐに芽が出て、ニョキのニョキと背を伸ばし始める。俺のレベルが上ったおかげで少し成長が早くなっている気がした。
ナツメヤシが十分に育ってくれれば、畑の周囲には木陰ができるはずだ。
一通り仕事を終えた俺たちは、日差しの強くなる前に少しモンスター狩りをした。
11時になったら昼休憩だ。お宿に戻ってかぼちゃとデーツで昼食を取った後、ダラダラしたり昼寝したりする。
日差しの強い真昼は働かないほうが効率的だとわかってきたからだ。
リビングでだらけながら俺は燕に話しかける。
「デーツだけどさ、やっぱりHP回復するっぽいよ。さっき食っててそんな感覚があった」
「へえ。予想が当たったんだ。でもあんた怪我したわけでもないのになんでわかったの?」
「外作業の後だったからだ。たぶんこの砂漠、日差しの強い時間に外にいるとそれだけでじりじりHPが削られていくんだよ」
「こわっ」
とんだステージギミックだった。熱中症のゲーム的な解釈なのかもしれない。
「そういやさっき経験値稼ぎしてたとき、なんか《すずめのお宿》から離れた途端わらわらモンスターが現れなかったか?」
「あたしも思った。出現確率が明らかに上がったわよね。鈴芽、なんか知ってる?」
「え、私もわかんないけど……ん! ちょっと待って」
鈴芽がなにかに気を取られたように黙る。もしかすると音声ガイドか?
「……うん、わかった。いま頭に声が流れたんだけど、《すずめのお宿》は童話の隠れ里の逸話から、敵やモンスターから探知されない機能がある……んだって。レベルが上がると隠密能力? が上がっていくみたい」
「そりゃすごいな!」
「すごいわね。《すずめのお宿》の中にいるだけで見つかりにくくなるってことじゃない」
すごいんだが、先に教えてくれよそういうことは……とも思う。この世界の音声ガイドはほんと不親切だ。
「砂漠に来た初日、すずめのお宿があまり襲われなかったのもその能力が発動していたからかもしれないわね」
「たしかに、そんなに強いモンスターが寄ってこなかったもんな。じゃあ経験値稼ぎするなら、宿から少し離れたほうがいいわけだ」
「あんまり強いモンスターが来られても困るけどね。現状ジャックくんに戦闘は頼りきりなわけだし」
「レベルが上って少しずつ強くなっている感覚はあるけど、やっぱ武器がほしいよなあ」
こんな会話を、だらだらと続けている。
色々やらなきゃいけないことはあるんだが、焦ってもいけない。まずは生き残ること優先なんだ。
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