第11話 パーティを組もう
畑を作り終えた俺たちは(主に働いていたのは俺だが)、すずめのお宿に戻って休憩することにした。
エアコンの効いた室内に入り、冷たい水を飲む。
「ぷは〜! 生き返る!」
「天道くんお疲れ様」
鈴芽がそう言ってタオルも渡してくれる。やさしい。部活のマネージャーみたいだ。
運動部なんて入ったことないので想像だが。
「ありがとな。やれやれ、これでやっと飯が食えるぜ」
「収穫は今夜なんだっけ?」
「ああ。それまではなんとか水で誤魔化して……」
「ふふ、そんなあんたにご褒美よ」
台所でなにかやっていた燕が、皿を持ってやってくる。
関係ないけど、制服にエプロンっていうチグハグな姿なのにめちゃくちゃかわいいなこいつ……。
なんかくやしい。
燕はことりと皿をテーブルに置いた。
「余ったかぼちゃの種を炒ってみたの。味付けは塩だけだけど、食べてみて」
「マジか。かぼちゃの種って食べれるの?」
「本当は洗ったり干したりする必要があるんだけど、ジャックから出てきたのはすぐ料理できるやつだったのよ」
「燕ちゃんが作ってくれたの! すごい」
「別に大したものじゃないわ。こんなんでもないよりマシでしょう」
「サンキュ。いただきます」
「いただきま~す」
ぽりぽり、ぽりぽり。
かぼちゃの種は思ったよりおいしかった。
外の白い皮がサクサクして食感がいいし、中の種も淡白だけど飽きない味わいだ
薄いアーモンドみたいな感じ。
「うまいな。無限に食えるって感じだ」
「私も好き〜。ねえ、ジャックくんに頼んでもっと出してもらおうよ」
「ああ。後で頼んでみるよ」
ふと視線を上げると、何故か突っ立ったままの燕がいた。
その様子がどこか変で、なんとも言えない表情で固まっている。
なんか、もらえると思ってなかったプレゼントをもらった子供みたいな……。
「どうした燕? お前も食べないのか?」
「そうだよ。燕ちゃんが作ったんでしょ? いっしょに食べよう」
「……あ、ああごめんなさい。いただきますなんて言われたの久しぶりで……」
「?」「?」
「いえ、なんでもないわ。忘れなさい」
エプロンをとって燕が椅子に腰を下ろす。
かぼちゃの種をひとつつまんで口に入れた。
「……ん、我ながらよくできたわ」
「おいしいよツバメちゃん! ありがとね」
「ああ。かぼちゃの種なんて初めて食ったけどうまかった。燕って何でも知っててすごいよな。料理もできるし万能か?」
「……別に。いつか家から独立したいと思ってたから、いろいろ勉強してただけよ。家事も家で元々やってたから」
「へえ、配信や仕事も忙しかっただろうにすげえな」
俺なんかぼーっと高校生活を送ってるだけだったから、なんでも努力している燕は尊敬する。
「そう、ね……。
燕はかぼちゃの種をつまみ白湯を飲みながら、穏やかに苦笑した。
その顔になんとも言えない複雑な感情が入り混じっていたので、俺はなんて答えていいか分からなくなった。
鈴芽もだまって燕のことを見つめている。
俺たちがなにか言う前に、燕はいつもの自身に満ちた顔つきに戻った。
「さ、かぼちゃの収穫まで時間あるし次できることを考えましょう。モンスターを狩って経験値でも貯める? そうそう、忘れていたけど、この世界ではステータス画面でパーティーも組めるのよ」
「へえ。それはただ仲間になるってのとは違うのか?」
「ゲームにありがちなやつよ。パーティーを組むと仲間の簡単な位置やステータス情報が共有されるわ。例えば毒を食らってたらすぐにわかるとかね。それからモンスターを倒したときの経験値も仲間全体に配分されるの。戦闘での貢献度で配分されるけど、なにもしなくても最低限の経験値は貰える仕様よ。これがあれば戦えない鈴芽やあたしでも天道の稼いだ経験値で成長できるわね」
なるほど、便利そうなシステムだ。現状戦えるのはジャックのいる俺しかいないからな。
「しっかしご都合主義と言うか、マジでゲームみたいな世界なんだな」
異世界ものでありがちとは言え、仮にこの世界を創造した神がいるならなに考えてこんなの作ったんだ?
と、俺は思ったが、燕の意見は違った。
「そう? あたしはこのパーティー制、よくできたシステムだと思うわ。だってこれがないと元々強いやつだけがモンスターを狩って経験値を得て成長しちゃうでしょ。でもパーティーがあれば、弱い人でも集まってモンスターを倒して、みんなで少しずつ成長することができる。魔法の才能が重要なこの世界で弱肉強食がルールにならないように、神様が調整したんじゃないかしら。本当にこの世界に神がいればの話だけど」
なるほど、世界の秩序を保つにはこういう不思議なシステムがあったほうが都合いいってことか。
逆に言うと、この世界へ俺たちを召喚するのは、その秩序から逸脱した力を手に入れるためかもしれない。
「じゃ、とりあえずパーティーを組むか。ステータスオープン!」
――――――――――――――――――――――
花咲 天道
【レベル】6
【ナラティブ】《花咲かじいさん》
【ランク】EX
【スキル】
《枯れ木に花を咲かせましょう》
――――――――――――――――――――――
「お、レベル6に上がっている」
「天道だけじゃんじゃんレベル上がっていくわね。うらやましいわ」
「ジャックががんばってくれてるからな」
ジャックには頭が上がらない。
ジャック先生と呼びたいくらいだ。
「ええっとどうすりゃいいのかな……適当に叫んでみるか。『パーティー申請』!」
――――――――――――――――――――――
近くにパーティー候補者が2名います。
「九十九 鈴芽」
「心裂 燕」
2人にパーティー加入を申請しますか?
――――――――――――――――――――――
「OK」
俺が承認すると、鈴芽と燕二人にパーティーへ誘うメッセージが届いた。
「わ、なんか来た。よくわかんないけど◯イングループ作るみたいな感じ?」
「まあそうだな。これに入っておくと鈴芽は戦わなくても経験値がもらえるし、他にも恩恵があるんだ」
「わかった。じゃあさっそく天道くんのパーティーに入ります……と」
「気をつけて鈴芽! そういうテイを装ったナンパの手口よこれ。断りなさい」
「ええ! 私天道くんにナンパされてるの?」
「パーティー組もうって言ったの燕だろうが!」
キャーキャー。
ケラケラ。
なにがツボに入ったのか二人は爆笑している。
まったくいちいちからかいやがって。ひとボケしねえと気がすまねえのか。
なんか俺、だんだんこの三人の中でいじられポジションになってないか?
納得いかねえ……。
ひとしきり笑いながら、鈴芽も燕もパーティーに参加してくれた。
マナが使えない燕でもちゃんとパーティーに入れたのはよかった。たぶん申請者のマナで動いているんだろうな。
俺はステータス画面からポップするパーティー設定画面を操作していく。
「パーティーリーダーは俺でいいか?」
「うん」「ええ」
「パーティー名どうする?」
「とりあえず適当でいいんじゃない? 後から変更もできるでしょ」
「適当ってのが一番困るんだよな……」
「あ、じゃあじゃあ『ハロウィンパーティー』っていうのはどう? ジャックくんがハロウィンっぽいし、私達ちょうど10月にこの世界に飛ばされたし」
「お、いいなそれわかりやすくて」
俺たちのパーティー名は「ハロウィンパーティー」に決まった。
――――――――――――――――――――――
「ハロウィンパーティー」登録しました。
パーティーリーダー
「花咲 天道」
パーティーメンバー
「九十九 鈴芽」
「心裂 燕」
――――――――――――――――――――――
「っし、じゃあこれでさっそく外へモンスター狩りに行くか」
「がんばるよ! 私も早く成長して、すずめのお宿にお風呂つけたいし!」
「呪紋を受けているあたしも経験値は配分されるのかしら? 実験も兼ねてとりあえずモンスターと戦っては見たいわね」
「よっしゃあ! モンスター狩りじゃああ!!」
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