第10話 種を植えよう!

「があ~〜。もうダメだ。一回休憩」


 すずめのお宿の周りを一通り耕し終えた俺は、地面に座り込んだ。

 まだ10時にもなっていないんだが体力の限界がきた。腰を下ろして耕したのが原因じゃない。いやそれもきつかったんだが、なにより日差しがきつかった。

 

 ここが砂漠だってことを思い知らされる。容赦のない直射日光がもろに降り注いでくるのだ。木陰もないからちょっとした休憩もできやしない。

≪すずめのお宿≫が作る影に避難して、壁に背を預ける。つくづく鈴芽がいてくれてよかった。俺だけじゃあいくらEXナラティブがあっても熱中症で死んでいただろう。


「天道くんお疲れ様。はいお水」


「ありがとう鈴芽」


 鈴芽がコップに水を入れて持ってきてくれたので、遠慮なく飲み干す。

 めちゃめちゃうまい。お宿があってマジで助かった。


 ちなみに鈴芽と燕の二人は、とっくにすずめのお宿の影に避難していた。まあ日差し強すぎるしな。隠れられるならそのほうがいい。

 燕があたりを見渡して言う。


「耕した土地はざっと500㎡ってところね。がんばったじゃない。褒めてつかわす」


 相変わらず無駄に偉そうなのはおいといて、すぐに広さを測ったことに驚く。


「広さがわかるのか?」


「知ってる? 学校の教室の大きさってだいたい63㎡なのよ。それを大体の感覚にしてマス目に置いただけよ」


「へえ」


 聞けば燕の目測だとちょうど雀のお宿を囲むように教室8マス分くらいの土地を耕しているのだという。それでざっくり500㎡と。

 燕が手庇てびさしを作って言う。


「にしてもこの日差しはきついわね。農業やる以上基本外の作業になるわけだし」


「せめて帽子だけでもほしいな」


「天道くんずっと制服のままだったよね。暑くないの?」


 鈴芽が俺の格好を見て尋ねてきた。


「それが意外と暑くないんだよ」


 俺の制服はブレザーだったが、耕している間も上着は着たままだった。

 一度ワイシャツにもなったが、直射日光がかえって辛かったのだ。ネクタイだけは外して、あとは制服のままで作業していた。


「へー、不思議だね」


「そう言えばマスター○ートンでも砂漠ではスーツがいいって書いてあったわね。ブレザーも似たようなものかしら」


 たしかにそんな話を聞いたことがあったな。


 ……燕のやつ、マスタ◯ートンも読んでるのか。


 やっぱけっこうオタクじゃないか?


「さて、と……」


 すずめのお宿の周りに広がる、黒黒とした大地を見て俺は考える。

 さて、このふかふかの土地になにを植えるかだが……。


「種なんてなにも持ってないんだよなあ……」


 うーん、ダメ元で聞いてみるか。

 お宿の周囲でモンスターを狩ってくれていたジャックを手で招く。


「ジャック、お前種とか出せるか?」


 さすがに無理かと思いきや、ジャックはひとつ頷くと口からプププと種を吹き出した。


「おおっと!」


 とりあえず手で受け止めると、みるみる両手のひらにかぼちゃの種の山ができる。


「へえ、そんなこともできるの」


「ジャックくんすごい!」


 燕と鈴芽も感心していた。両手山盛りになったところでジャックが種を吹くのをやめる。


「ありがとうジャック! さっそくこれを植えてみるか」


「――――」


 ジャックが嬉しそうに頷いた。



 ◆◆◆◆



「よし、と……」


 ジャックの出してくれたかぼちゃの種を俺たちは畑に植えた。

 かぼちゃの育て方なんてまったくわからなかったのだが、なんとそれもジャックが教えてくれた。

 ジャックは俺達の前で、種を4、5粒取ると、1cmくらいに穴を掘り、そこに種を置いて土を被せた。たぶんそれが正しいやり方なんだろう。

 自分自身の育て方だからわかるということなんだろうか。

 ジャックのマネをして俺たちは種を植えていった。今度は燕や鈴芽も手伝ってくれた。


 3人と一体でやったのであっという間に種まきは終わった。さっそくお宿から水をくんできて畑にまく。

 するとすぐにぴょこんと芽が生えてきた。同時に頭の中で例の音声が響く。


『かぼちゃの種に《枯れ木に花を咲かせましょう》が発動しました。育成促進。一週間ほどで収穫できます』


「一週間かあ……」


 思わずぼやいてしまう。


 たぶんめちゃくちゃ成長が早くなっているってことはわかるんだが、収穫に一週間も待つのはきつい。

 昨日からなにも食べてない上に畑仕事もして、空腹が限界だった。


 俺がよっぽど残念そうな顔をしていたのか、燕が尋ねてくる。


「どうしたの?」


「音声が聞こえたんだけど、かぼちゃが取れるのに一週間かかるらしい」


「ふうん。たしかに私達には長すぎるわね。追加で灰をかけてみたら? もしかしたらさらに成長が早くなるかも」


「それだ!」


 さっそく俺は追加で灰を出して、一番近いかぼちゃの芽に振りかける。

 ちなみに灰を出すにはマナが必要なんだが、俺のマナにはまだまだ余裕があった。


『かぼちゃの種に《枯れ木に花を咲かせましょう》が発動しました。育成促進。3日ほどで収穫できます』


「よしっ、3日になったぞ!」


「もう一声!」


 追加で三度目の灰をまく。


『かぼちゃの種に《枯れ木に花を咲かせましょう》が発動しました。育成促進。あと8時間で収穫できます。現在のレベルではこれ以上の促進はできません』


「よっしゃ! 更に短くなった! 今日の夜にはかぼちゃが取れるぞ!」


「いえーい! やってみるもんね」


「かぼちゃ食べれるの!? やったーーー!」


「――――」


 ジャックも含めてみんなで喜びあう。



◆◆◆◆ 



 その後みんなで話し合って、畑を適当な区画に分けて灰のまき方に差をつけることにした。

 図にするとこんな感じだ。


■ ■ ■

▓ ◎ ▓

□ □ □


◎……すずめのお宿

■……三回灰をまいた畑

▓……二回灰をまいた畑

□……一回だけ灰をまいた畑


 成長を促進させることでなにかかぼちゃの出来に違いがあるかを確かめたいのだ。

 一度に大量のかぼちゃができても食い切れないしな。

 かぼちゃは保存しやすい野菜だから、すぐに腐ることはないだろうけど……。


 そうそう、ちなみにすずめのお宿には冷蔵庫はないものの、中はエアコンが効いている。

 つくづくありがたいスキルだぜ。

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