第6話 すずめのお宿
「さて……」
異世界召喚されてから、初めて俺たちは落ち着くことができた。
モンスターは倒した。燕の力によって呪紋まで外せた。
だが、まだまだ俺たちが生存の危機にあることには変わりない。
「とりあえず、必要なものを把握するか……」
「それがいいわね」
「さんせー」
燕や鈴芽とともに、自分たちの置かれている状況を整理する。
まず生活に必要な衣食住だが、
・食料…無し
・衣類…今着ている制服だけ
・住居…無し
・それらを手に入れるための資金…無し
・手に入れるための人里、街…当て無し。そもそもここがどこかも不明
・安全…周囲はモンスターだらけ
・武器…俺の使い魔「ジャック・オー・ランタン」だけ。
「……って、詰んでるじゃねえか!」
「あらためて確認すると酷いわね」
俺と燕はそろって頭を抱える。
このモンスターだらけの土地で、住居がないなんてありえない。そもそも砂漠じゃまともに寝れない。食糧と水だって無いのだ、早々に餓死してしまう。
「テンプレだと追放されても当座の資金や食料くらい用意してくれるのに」
「小説やアニメと現実は違うってことね」
はあ、とどちらともなくため息をつく。
……なんか燕のやつ、けっこうWeb小説の知識持ってないか?
日本にいた頃はアニメキャラのコスプレもしていたし、もしかして詳しいんだろうか。
「う〜ん……?」
そこで一人妙な顔をしていた鈴芽がぽん、と手を打った。
「あっ、住むとこならなんとかなるかも!」
「え?」
「へ?」
「見ててねー。ナラティブ《舌切り雀》! スキル発動、《すずめのお宿》!」
鈴芽が明るい声で叫ぶと、目の前が光ったあと木造の家が現れた。
砂漠なのに傾いたりもしていない、しっかりした家がだ。
「う、うおおおおおおおおおお!!!」
「鈴芽すごい!」
「えへへへ〜。レベル1だからまだ小さいけど、入って入って〜」
「「お邪魔します」」
鈴芽が先頭に立って扉を開ける。すごいスキルを発動させたのに、なんだか友達の家に招かれている気分だ。
「お、おお〜〜〜!!!」
レベル1だと謙遜していたが、《すずめのお宿》は中も広かった。ぱっと見1DKくらいはある。
中身は普通の日本家屋……いや、ちょっと古いか、昭和に建てられた団地の一部屋という感じだ。
食堂と、それに付属する簡単なキッチン、隣が広めの寝室という構成だった。部屋はたしかに古いが、ボロボロというわけではない。丁寧に管理されたまま40年ほど経った感じがある。
そしてキッチンがあるということは……。
「水だ! 水が出る! すげえどうなってるんだ!?」
「へっへっへー、すごいでしょ。《すずめのお宿》はレベル1でも生きるために必要な最低限の物は揃っているんだ」
えっへんと鈴芽が豊かな胸を張る。実際これはすごいことだ、水さえあればとりあえず脱水で死ぬのは免れる。
「もちろんトイレもあるよ! 水洗! どこから水が来てどこに消えていくのかは私もわかんない!」
「いま寝室も見てきたけど、かなりいいわよ。布団はふかふかだし、シーツものりが利いている」
「すげえ鈴芽! 最高だ!」
「えっへへへへ〜、褒めて褒めて」
鈴芽はますます得意げに胸をそらした。俺と燕は二人で「すげえ!」「すごいわ!」と褒め称える。
「えへへ、私のスキルが役に立ってうれしい……。あ、でもね」
そこで鈴芽がしおしおとうなだれた。
「レベル1だから、まだお風呂とか冷蔵庫はないんだ。たぶんレベルが上がらないと家具や設備は揃わないんだよ。お宿とか言ってるけど素泊まりにもならないんだ。ごめんね」
「なに言ってるんだよ! 屋根のあることがどれだけありがたいか!」
「そうよ、あたしたち砂漠で野宿するところだったのよ!」
「二人ともありがとう。……私がんばるよ! 明日こそは私もモンスターを倒して、レベル2になってお風呂を手に入れるからね!」
鈴芽は気合の入った顔で拳を握る。みんなの生活のために怖いモンスターに立ち向かうなんて、めっちゃいいやつだ。
レベル2で本当にお風呂が手に入るかはわからないが、期待したい。
「あ、ところで」
感心したのもつかの間、鈴芽はまたへニャリと顔を崩した。恥ずかしそうに少し頬を赤くして、微苦笑する。
「その、レベル1だから寝室はまだ一つしか無いんだ。……みんなで一緒に寝ることになっちゃうけど、それでもいいかな?」
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