第5話 ステータス
燕を立たせてからもそのまま手を繋いでいたら、「いつまで握ってんのよ!」 と離されてしまった。燕の震えが収まるまでと思っていたんだが、残念だ。
「それよりあんた、呪紋が解けたらジャックにマナを供給するんじゃなかったの?」
「そうだった。おーい、ジャック!」
ジャックを呼ぶと、嬉しそうにふよふよと寄ってくる。かわいいやつだ。
ジャックの頭に手をかざす。マナの供給なんてよくわからないから、頭の中で充電池に電気を入れるイメージで自分のマナを流し込む。幸い呪紋解除のときに体内のマナを意識できるようになっていた。後はそれを注ぎ込むだけだ。
「――――――――」
相変わらずジャックは喋ることはできないが、気持ちよさそうにしている。マナはちゃんと供給できているらしい。
マナを供給したらゲーム的な表示画面が出てジャックのスペックとか色々見れたりするんじゃないかと期待していたんだが、そんなことはなかった。Web小説やアニメと違って現実は(異世界に来て現実っていうのも変な話だが)厳しいみたいだ。
一分ほど手をかざしているとジャックの中身が一杯になる感覚があったので離した。ジャックはふわりと浮き上がり、表情こそ変わらないものの、ブンブンと勢いよく大鎌を振り回す。元気いっぱいという感じだ。
「腹いっぱいになったか?」
「――――」
「そうかそりゃあよかった」
なんとなく考えていることもわかるようになってくる。
俺がマナを注入している間、鈴芽と燕はステータス画面を確認していた。
「えーっと、ステータスオープン! ……うわっ本当に出てきた!」
「あたしには見えないわね。ステータス画面は本人にしか見えないってのは本当みたい」
「燕ちゃんは開かないの?」
「あたしはまだ
「えーっと、ちょっと待ってね……。うーん、自分じゃよく分からないや。私ゲームあんまやらないし……読み上げるから一緒に考えてもらえる?」
「もちろんよ」
――――――――――――――――――――――
九十九 鈴芽
【レベル】1
【ナラティブ】《舌切り雀》
【ランク】B
【スキル】
《舌切り鋏》
《すずめのお宿》
――――――――――――――――――――――
「レベルはなんとなく私でもわかるけど、ナラティブとかスキルとか名前だけでよくわかなんないな〜。ランクも、これってどのくらい高いんだろう」
「異世界テンプレならこういうの勝手に説明されるのに、本当この世界は優しくないわね。仕方ない、なんとなくこっちで予測していきましょう。幸い単語はよくあるものだから察しはつけやすいわ」
ステータス確認は異世界系小説でも大事な作業だ。不謹慎ながらワクワクしてきた俺は話題に混ざった。
「【レベル】の下に【ナラティブ】、【ランク】、【スキル】が続くってことは、それがスキルツリー的なのなんだろうな。つまり鈴芽本人のレベルが1で、ナラティブ「舌切り雀」を持ち、そのランクがB、今持ってるスキルが《舌切り鋏》と《すずめのお宿》であると」
「まあ、妥当なところね。天道のステータスも出してくれる?」
「ああ、ステータスオープン!」
俺の前に半透明の画面が浮かび上がる。予想通り他の二人には見えていないらしい。
――――――――――――――――――――――
花咲 天道
【レベル】3
【ナラティブ】《花咲かじいさん》
【ランク】EX
【スキル】
《枯れ木に花を咲かせましょう》
――――――――――――――――――――――
二人のためにステータスを読み上げてから、首をひねる。
「レベルが3になってるな。なんでだ?」
「さっきモンスターを倒したからでしょう。この世界はゲームと同じで、モンスターを倒すといわゆる経験値が手に入るの。ジャックは使い魔だからあんたに経験値が入ったのね」
「なるほど。しかし10匹倒したのに3しか上がらないのか」
この世界がどうかはわからないけど、ゲームだとレベル1〜10くらいまではもっと早く上がるもんじゃないか。
「
「いや、かなり強いらしいわよ。この地に住むモンスターのほとんどが毒を持っているからですって」
「げっ、あの蛇やサソリやっぱり毒持ってたのか……」
うかつに噛まれでもしたら大変なことになっていた。
「しかし強いモンスター倒したにしてはやっぱりレベルの上がり方が遅くねえか?」
「たぶん、天動のランクがEXだからね。
「そうなのか」
「ざっくりせつめいするわね。
【ランク】がナラティブの凄さを示すもの。F〜Sまであって、成長のしやすさや限界値が違う。
Fランクが最も成長しやすいけど限界も早い。最大レベルは40までよ。
Eランクの最大レベルは50まで、
Dランクの最大レベルは60まで、
Cランクの最大レベルは70まで、
Bランクの最大レベルは80まで、
Aランクの最大レベルは90まで、
そしてSランクの最大レベルは99までよ。
つまり鈴芽の最大レベルは80ってことね」
「俺のEXは?」
「それは……天道が初めてだから、まだなにもわからないわ。たぶんだけど、この世界初のレベル100に到達できるんじゃないかしら。もしかするともっと成長できるかも」
「おお、それはすげえ。テンション上がってきた! ……あ、でもそこまで上げるには他の人よりたくさん経験値を集めなきゃいけないってことだろ。俺ってちまちま努力するとか苦手なんだよな」
「まだ仮説よ。ただ、あんたの言う通りモンスター10匹を倒してレベルが3しか上がらないってのはたしかに遅いわ。たぶんFランクなら、一匹倒しただけでもレベル2に上がっているはず。成長の遅さと限界レベルは相関しているから、あんたが今までにない高レベルに至る可能性は十分あるわよ」
「やっぱりがんばるしかねえってことか。しかたねえ。燕のことは守るって約束しちまったし、やってみるよ」
「……別に、守ってくれなんて言ってないし」
燕がぷいっと顔をそらして言う。
「素直じゃねえなあ」
「うるさい。それより、ステータスでほかの事は見れないの?
燕に言われてステータス画面をタップしたり意識を集中してみたりする。だが、さっぱりだ。
「出ねえ、最初の画面だけだな。ステータスってこれだけしか表示されないのか?」
「やっぱりか。HPやMPの概念はあるみたいなんだけど、《鑑定》魔法が使えないと詳しいステータスは見れないみたいなの。EXのあんたならなにか違うかと思ったけど、ダメみたいね」
「つくづく不親切な異世界だな」
「あんたがかぼちゃをジャック・オー・ランタンにした時はどうやったの?」
「頭の中に音と声が響いたんだ。かぼちゃを成長させますか? ってな。ジャックへの進化と急速育成の2択だったから、たぶん植物をそのまま成長させるのと生命を与えて使い魔化する2つの能力があるんだ」
灰をかけて急速成長するのはわかるが、使い魔になるのはなんでかわからない。ゴールド・○クスペリエンスみたいな感じだろうか。
燕がため息をつく。
「スキルの詳細がわからない以上、一から試して把握していくしか無いわね。明日色々と試行錯誤してみましょう」
「だな」
スキルの詳細把握は生存能力に直結していくはずだ。手を抜くわけにはいかない。ひとまず明日の目標ができた。
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