第3話 能力覚醒
「……お前ら、なんか武器になりそうなものとか持ってるか?」
後ろから二人の首をふる気配が伝わってきた。
「悪いけど、あたしはなにも持ってないわ」
と燕。
「私は能力鑑定のときに出したハサミがあるけど、これじゃ役に立たないよね……」
後ろから鈴芽がそっとハサミを片手にのせて差し出してくる。古風な
「全然いいよ。俺なんか灰しか持ってないぜ」
俺も能力鑑定のときにスキルを試しに発動して手に入れた灰があった。なんのひねりもないただの灰で、召喚場にいた魔術師たちからこれまた馬鹿にされたもんだ。なんだか捨てるのが惜しくて今もポケットに入っているが、とても役立ちそうにない。
俺たちが持っている武器は、小さな和鋏に一掴みの灰。ハハ、笑えてくる。
「本当はただ切るだけじゃなくてなにかスキルがあるらしいんだけど、今の私は呪紋してるから……」
「スキルの発動はできないってわけか、くそ。マナが使えなきゃなにもできないのかよ」
呪紋はやはり殺意の現れだった。追放なんて言葉だけだ。モンスターのいる辺境で俺たちがなにもできず死んでいくとわかってこんなことをしたのだろう。
俺たちを召喚した奴らはまさにクズの集まりだ。
話をしている間に、モンスターたちはジリジリと包囲を狭めてきた。見える限りだが、蛇が6匹、柴犬位もある大型のサソリが4匹いる。特に大サソリの方は、巨大なハサミといい毒々しい色の尻尾といい、どう見ても捕まったらヤバそうだった。
「……俺が囮になってどうにか包囲に隙を作る。その間にお前らは逃げろ」
「なに言ってるの、死んじゃうよ!」
「同感。あんただけ置いて逃げたりしないわよ」
間をおかず二人が返事する。それじゃあみんな死んじまうだろ、と思いつつ、残ってくれたのが嬉しかった。
「ちくしょう……それじゃあひとまず隙が作れるか試してみる。もしできたら三人全力で逃げるぞ」
「わかった」
「ええ」
鈴芽と燕がうなずくのを確認し、俺は包囲の輪から若干離れた場所にいる蛇を狙い走り出した。
蛇を狙ったのは、サソリはどう見ても外骨格へダメージを与えられそうにないこと、それからはっきりした目が無いためだ。
「これでも喰らえ!」
俺はポケットに残っていた灰をぶちまける。せめてもの目潰しになればと思ったが、蛇は大してひるまなかった。牙をむき出し俺に向かって飛びかかってくる。
「うおお!?」
慌てて適当に蹴りを繰り出すと、運良く蛇の胴体に当たった。なんの特技もない高校生の蹴りだったが、蛇は吹っ飛んで地面に落ちる。
「よしっ! 今のうちに……」
だめだった。蹴り飛ばされた蛇のいた場所にはすぐに別の蛇が来ていた。しかも先程より包囲が狭まっている。
「くそ、そんなうまく行かないよな……」
「ううう……」
「泣かないで鈴芽。こんなクソッタレな世界で死んでやるもんですか。最後まで足掻くわよ」
「う、うん、燕ちゃん……」
涙を拭って立ち続ける鈴芽と、それをかばい支えている燕。こんな二人がいるのに、俺が諦める訳にはいかない。
「なにか、なにか他に手はないか……?」
その時、頭の中で場違いに陽気な音が鳴った。
[かぼちゃに灰がかかりました。【花咲かじいさん】のスキル《枯れ木に花を咲かせましょう》が使用可能です]
「へ……?」
[《枯れ木に花を咲かせましょう》はかぼちゃに新たな生命を与えます。かぼちゃの急速育成栽培、あるいは使い魔『ジャック・オー・ランタン』へ進化させることが可能です]
一瞬、なにが起きたのか分からなかったが、この状況を変えられるならなんでもいい。すぐにうなずく。
「使う使う! 《枯れ木に花を咲かせましょう》発動!、『ジャック・オー・ランタン』に進化!」
[スキル発動。かぼちゃを使い魔『ジャック・オー・ランタン』に進化させます]
モンスター包囲の向こう側で光がほとばしった。そこにあったのは俺たちの追放に使われたあの元馬車、かぼちゃがある。俺が蛇に向けて闇雲に投げつけた灰が、風に乗ってあそこまで届いていたらしい。
光が消えた後、そこには頭をお決まりの顔(▼w▼)にくり抜かれた巨大なかぼちゃのおばけがいた。黒いマントを羽織り、手に大鎌とランタン。ゲームでよく見るジャック・オー・ランタンそのものだ。
俺の言う事を聞くのか? 強いのか? そんな事を考えている暇はなかった。
「ジャック・オー・ランタン! 俺たちを助けてくれ!」
ジャック・オー・ランタンはひとつうなずくと、マントを翻しモンスターたちに襲いかかる。
浮いた身体で高速移動しモンスターとあっという間に距離を詰めると、手にした大鎌を一閃した。蛇2匹があっという間にバラバラになる。
「え? ええええ!?」
「どういうこと……?」
鈴芽と燕は驚愕していた。そりゃそうだ、俺だって驚いている。
俺たちが驚いている間にジャック・オー・ランタンは大サソリも難なく撃破。俺がとても太刀打ちできないと思った外骨格を、紙みたいにたやすく切り裂いていた。
そのまま包囲陣をなぞるようにジャック・オー・ランタンは周囲をグルッと回り……1分とかからずモンスターたちを全滅させた。
最後に残った蛇をサクッと倒して、ジャック・オー・ランタンは俺たちに振り返る。(▼w▼)の顔がどこか誇らしげだ。
「よくやってくれたジャック・オー・ランタン!」
褒めると、声は出せないが嬉しそうな気配が伝わってくる。
この世界でモンスターは死んでも死体は残るらしい。もう動かなくなったのを確認するとようやく安心感が溢れてきた。
「はーーーーーー、たすかった〜〜〜!」
一気に緊張が解けて腰が抜ける。そのまま砂の地面に座り込むと、鈴芽が飛びついてきた。
「すごいすごい! 天道くんすっっご〜〜〜〜〜〜い!」
「いてっ。いきなり飛びつくなよ、危ないだろ」
「ごめんね、うれしくって! すっごいよ、あれがナラティブってやつなの?」
「いや、俺もまだよくわかってないんだ」
「なんにせよ助かった! ありがとう天道くん!」
ぎゅうっと鈴芽が首に抱きついてくる。女子に抱きつかれるなんて初めてなもんだから、内心バクバクだ。しかも鈴芽はやたらスタイルがいいし、いい匂いもするのだ。
鈴芽とは反対に静かな足取りで燕がやってくる。
「あたしからもお礼を言うわ。ありがとう。おかげで助かった」
元気いっぱいな鈴芽の笑顔と違い、上品なほほ笑みを浮かべていた。こいつは自分の命が助かったときでもこんなクールなのか、と呆れる。
まあ、氷みたいだった彼女が初めて見せてくれた笑顔だ。ありがたいと思おう。
「おう、怪我とかしてないか?」
「おかげさまで無傷よ。あんたのおかげ」
「礼はジャック・オー・ランタンにも言ってやってくれ。モンスターを倒してくれたのは全部あいつだ」
俺がちょっと手で招くと、意図を理解したのかジャック・オー・ランタンはふよふよと近づいてきた。さっきまでモンスター相手に恐ろしい立ち回りを見せていたのに、仕草が妙にかわいい。
近づいてきた大きなかぼちゃ頭を撫でてやる。うれしそうだった。
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