第28話 決戦の前に

 私にとって最悪な司令が出されて解散した後――。

「なんで、こんな大食い大会みたいなことしなきゃいけないの⁉︎」

 マナの実をひたすら食べさせられている。

「しょうがないでしょ? サクラは普通の魔法使いが魔法を使うのと違って自分の魔力しかあげられないんだから。マナタイトじゃダメだったでしょ? ほら、とっとと食べる」

 ルナにそう言われる……けどもうお腹いっぱいだって!

 なんとか食べないように隣のミユちゃんに話題を振る。嫌いな物を食べさせられる子供みたいだな、私。

「でも私達、すっごく危険だよね? いやー、一番きつい任務になっちゃったなー」

「いえ、一番おいしいポジションです。見送られる勇者感が出ていて尚更素晴らしいです! こういう時は少し手こずっている感じを出して、敵を倒せば完璧です!」

 ダメだ。ミユちゃんは強敵とか勇者みたいな状態が大好きだった。

「ソフィアさんは?」

「もちろん、私も戦う気は満々よ。こういう展開は嫌いじゃないもの……きっと覚醒者が現れるわ!」

 二人共ダメすぎる……テンションの高さについていけないよ。

「フェイは?」

「私は正直に言うと怖いです……」

 嫌だよね! やっぱり怖いよね! やっぱりフェイは癒しだよ。

「けど誰かがやらなくてはいけない任務です。であればプリーストの私が出ない訳にはいきません……それにあいつには一度負けています。ですから私達がやるべきなんです」

 ……そんな成人みたいなこと言わないでよ。私が悪い奴になっちゃうじゃん。

 誰も助けてくれなかった私は言わなきゃよかったって罪悪感にもさいなまれ、泣きながら食べる。ホント吐きそう。


「いやいや、良い食べっぷりですな」

 そんなテンションガタ落ちの私にクソ神父が話しかけてくる。この野郎。

「何の用ですか? 私今、大食いさせられてて気分悪いの。とっととここから出て行ってもらえると嬉しいんですけど」

「ちょっとサクラ、神父相手に」

「ははは。随分嫌われてしまいましたなー。そんなに嫌われているとかゾクゾクしますね」

 ……無敵すぎる。罵倒されたら喜ぶし、勝ち目がないんだけど。

 私が何も言えずにモゴモゴしていると本当に楽しそうに笑われる。マジでこいつ性格悪い。

「そんな意地悪を言いにきただけだったら、早く帰ってください」

「はい。そのその顔を見れただけで十分です。私は嫌われているようなので帰ります」

 そう言ってホントに司令部に神父が帰っていく……って、本当に私の嫌な顔を見なきただけなのか? 普通ここは「あなたの顔を見て安心しました」とか言うべきところなんじゃないの? あのルナすらも引いている。あいつ最低すぎるだろ!

 そんな私の地団駄を聞きつけてか、神父が戻ってくる。今度はなに?

「言うことをすっかり忘れていました。まあ、かわいい子と話して、さらにはあんないい顔を見せられては楽しすぎて目的を忘れてしまっても仕方がないですね」

「……えっと、ラング神父。あの……」

「おっ、あなたを美しい容姿をされていますね。私、好みです」

「えっと、ラング神父」

「早く用件を言ってくれないかな⁉︎ あと、ルナは私の嫁だから、勝手に口説こうとしないで!」

 何をしようとしているんだこいつはっ……! 私の嫁を口説くとか。この野郎。ほんとに聖職者やめろ!

「……私は誰とも結婚してないけどね」

「なるほど。人妻ですか……いい響きです。それに寝取られを見るのも私的には大好物ですね。それに寝取る方であれば最高ですね! どうですか、お嬢さん」

 私は手を差し出してくる変態の前に立ち、ルナを抱き寄せる。ルナの言葉に少し傷つくけど、この変態に近寄らせちゃダメだ!

「人の女を取ろうとしないで! 絶対ルナはあんたみたいな変態になびかないから!」

「その前に私は誰の女でもないから」

「いえいえ、今から推しましょう」

「キモい! で、用件はなに⁉︎」

 変態発言を繰り返すクソ神父を方向転換させようと催促する。これ以上不快にさせられてたまるか。

 そう言うと思い出したようにクソ神父がポンと手を叩く。

「そうそう、用件でした。私も作戦に参加するんですよ。なので安心して背中を見せながら戦って下さい」

「安心できナイよ……嫌! 一緒に戦うとか絶対嫌!」

 正直ソフィアさんよりも安心できない。普通に抱きついてきたりしてきそうなんだけど、こいつ。

「サクラ、何言ってるの? ラング神父にも戦場に出てもらうよ。色々支援魔法を使ってもらって援護してもらうの」

 役に立つのか? こんな変態が……ッ!

 私は信じられないという目で変態を見るが、変態は心外と言わんばかりにクソ神父が肩を落とす。うっざ。

「私のことを甘く見過ぎです。最高位の神父ですよ? むしろ私以外にこんな大勢の人の支援などできません。本来はかわいい悪魔っ子ちゃん達を退治するついでにいじめたい私ではありますが、今回はさすがに遊ばずに皆さんの助けになりましょう」

 なんかヤバい本音が聞こえたけど、もうそっとしておこう。いちいち言うと疲れるし、逆に喜ばせるから……多分無視が一番効くでしょ。

「いやー放置プレイも私いけるクチです」

 だめだ。こいつ、無敵だ。

「それに神父は全体の指揮をしてもらうの。その……言葉を選ばずに言うと敵の嫌がることを考えるのが、すごく得意だから」

 納得の人選だった。これだけ性格が腐っているんだ。適役すぎる。

「ふふふ。これだけの大規模作戦です。私も本気で指揮や支援、回復はさせてもらいます。それに女の子は服は支援を外して、服が結構破けてから助けたいというのが本音ですが、さすがに死ぬところなんて見たくないですから。ちゃんとやります」

「神父……」

 最後らへんの言葉はとりあえず置いておいて……こんな神父でも、最後の良心というか人の心は持っているようだ。

「まあ、女の子は必ず助けますが、男なんて知りません。むしろイケメンは絶対助けませんね。」

 やっぱりクソだ。

 最後までクソ発言をしていた神父を帰らすと私の食欲は限界を迎えていた。ある程度魔力は回復したし、それに気持ち悪いものを見ると食欲失せるよね……吐きそう。


 これだと動けないので少しでも動いておくようにとルナと散歩に出ている。

「横っ腹が痛い……」

「これからはそんなこと言っていられないからね」

 横のルナがスパルタのことを言ってくる……いいじゃん、こんなときぐらい弱音言わせてよ。

 私はうわーって思って他のところに目を向けると門のところで冒険者達がせっせと補強を行っている。というかなんで冒険者? 気になってルナに声をかける。

「てかさ、こんな時こそ学生の出番じゃないの? こう、猫の手でも借りる的な」

「学生なんて使えないよ……ここに連れてくるのに大変だし。それにほんとに危険な任務だからパニックを起こしたり、動けない人が出てきちゃう。言い方は悪いけど、そんな人達がいたら戦線が崩壊しちゃうよ」

 そっか。アニメとかと違ってなんでこんな優秀なのが学生なんだ……ッ! みたいな状況になることはならないらしい。てか足手まといになるんだな……。

「まあ、ないとは言わないけどね。優秀な人はこの戦場にもいてもらって魔法部隊として参加してもらうんだよ」

「あっそうなの」

「うん……だからサクラには悪いことしたなとは思っているんだ」

 先ほどまでルナの顔は結構暗かったけど……そういう理由か。もしかしたら疲労とかこれからの作戦に緊張しているんだろうかとは思ったんだけど……そっか。

 心配してもらっているけど、ルナ達についていくと決めた以上は危険でも行くしかない。ほんとはめちゃくちゃ帰りたいけど、マジのマジで帰りたいけど!

 私は誤魔化すように、強がって言う。

「まあ正直やりたくないよ……でもルナ達が守ってくれるんでしょ?」

「それは全力でやるよ」

「だったらいいよ。私足手まといだし、しっかり守ってね。てかほんとにお願いしますね。ほんとに」

「……ふふ。うん、そうだね。頑張るよ」

 ルナの顔が少し晴れて手を繋いでくる。私達は無言で先を進んでいく――。


 しばらく歩いているとランセアが見える。

「あっ君たちは」

「先ほどはありがとうございました。ランセア様」

 ルナがお礼の言葉をかけるが、ランセアは大したことはないとクールに返す。

 かっこいい……けど、この人のせいで私は危なくなったんだ。複雑だ。

「それに私からもお願いしたいことだった。礼を言うのは私のほうだが……まだ言わないでおく。お互いに礼を言うのは戦いに勝利した後だ」

「はい」

「君達には一番難しくかつ危険を伴う任についてもらうことになってしまったが、君達ならできると信じている……なによりなにか因縁もありそうだしね」

「……はい」

 ランセアがルナの心を見通すように見ている……ルベリといいさ、なんか一流の人は見通せる能力とかを持っているの? チート持ちなの?

「では、いいフォローはできていたのかな。違っていたなら申し訳ないことをしてしまったかと心配していたんだ」

 申し訳ないことしているよ。主に私に。

「お互い無事に戻って、祝杯を上げよう」

 そう言うと作戦開始5分前の合図の笛が鳴った――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る