第29話 作戦開始
「魔法隊、放てー!」
轟音と共に血が舞い、肉が飛び、大地が弾け飛ぶ。
いくつもの魔法が七色に光り、魔物達を突き刺している……なんともお子さんには見せれないような光景が広がっている。これ見せたらトラウマになるよ、主に私が。
作戦開始して五分――魔法隊が迫ってくる魔物を一匹たりとも逃さないといったようにめちゃくちゃな魔法を撃ちまくっている。
モザイクをかけないといけなくなっている景色に背を向けて、私はルナに思っていることを尋ねる。
「これ、私達いる?」
「何言ってるの……これは敵の目をこっちに惹きつけるのが目的なんだから、派手にやらないとでしょ? まあ、あんまり良い景色じゃないけど」
「これもう討伐じゃなくて、虐殺じゃない? ヒャッハーって声が聞こえて来そうだけど」
ぶっちゃけ笑い声的なのは聞こえてる気がする。
それと魔物たちの咆哮――なんか私達が殺戮者のような悪役の片棒を担いでいる気がしてくる。
「……そろそろ私たちも移動しよう。今はいいけど、そろそろ魔法隊の魔力がキツくなってくる頃だよ」
私達は準備を整えると待っていたルベリさん達のパーティと合流する。
「では、行きましょうか」
ルベリのパーティが先頭に立ち、森に入る。
「で、私達ってとりあえずトロールぶっ飛ばせばいいんだよね」
「そうだけど……今回の作戦聞いてないの?」
「うん」
だって何言ってるか分かんなかったし、現実逃避で忙しかったから。
私の言葉にルベリが感嘆の声を上げる。
「サクラはすごいですね。初めての大勢の討伐戦だと言うのに全く緊張を感じません……なんて頼もしいのでしょうか。もしかしたら今後大物になるかもしれませんね」
「ルベリさん、甘やかさないでください。ただ聞いてなかっただけなんですから……あとサクラも「いやーそれほどでも」みたいな顔しない」
そんな顔してないですよ……えへへ。
私のだらしない顔に呆れつつルナが説明してくれる。
「はあー……作戦はこう。魔法隊と騎士団がひきつけつつ、私たちとルベリさんパーティがトロール撃破に向け、森を移動する。その後戦闘しなくてはいけない場合はルベリさんのパーティがひきつけて、私達はトロールに集中せよって。つまり私達はトロール以外とは極力戦闘しないってこと。全力でトロール討伐に動く」
真剣に話してくれるけど……まあ私の言ったことで合っているでしょう。とりあえず私はルナに付いていって、魔力を与えればいいんだ。
「ねえ、こういう時って木と木をジャンプしながら向かうか、めっちゃダッシュするもんじゃないの? なんかこう動いているとコソ泥感がある」
「落ちたら危ないし、着地のときに大きな音が出ちゃうでしょ? それに全速ダッシュだったら戦う前に満身創痍になっちゃうじゃん」
そりゃそうだけど、なんかいけないことしている気分になってくる……。
私の言葉は無視されてコソコソと森を移動する――魔法隊がひきつける作戦は見事に成功していて、私達はバレずに先に進む。
「このまま突き進むとワイルドボアが多数いると思われます。皆さん、ここからはもっと静かに移動します」
「はい!」
緊張感溢れながら、ルベリが淡々と指示を出す……けどそこで私が自分で思っているよりも大きい声で返事を出してしまった。
「サクラ……」
「いや、あの」
「あっ、千里眼で反応がありました。十体ぐらいの魔物がこちらに向かってきますね」
「すいません! すいません! むぐっ」
「だから大きい声を出さないって」
「まずいです……さらに数が増えて向かってきます」
やばい。私のドジのせいで魔物を引き寄せっちゃっている。申し訳ないとルベリさんに目を向けると笑ってくれる。天使すぎる。
「大丈夫です。作戦通りではありますので、このまま敵に向かっていきます。私達も派手に立ち回るようにしますので、その隙にルナさん達は移動してください」
「ルベリさん……」
「お互い無事でまた会いましょう」
そうルベリさんが死亡フラフとも取れるうようなことを言っていると猪がもう目の間に来ていた――ルベリさん!
「私達のことはお気になさらず。先に行ってください!」
ルベリが敵を相手にしようと私達とは反対に向き直り、魔法を発動させている。
「ルベリさん……!」
「大丈夫ですよ、サクラさん。さあ、お早く!」
ルベリが笑顔になりながら敵に向かって突っ込んでいく。私は目線を逸らして走り出す……今の私にできることを!
そう思って前を向くとソフィアさんとミユちゃんが羨ましそうに後ろを見ている……なんで?
「あれ、私も言ってみたいわ」
「え?」
「確かにカッコいいです……カッコいいですけど、でもダメです。あれは主人公を助ける強い人ムーブでです。けどここで「くっ、ごめんっ」て言いながら先に行く主人公ムーブのほうがいいです!」
「もうそれしてるよ!」
ミユちゃんの琴線はよくわかんないよ! それにここってすごく感動的な場面だし。なんならルベリさんはすっごい危ない役を買って出てくれたんだよ⁉︎
フェイも怒っているようで二人に向かって珍しく大きい声を出す。
「そんなの不謹慎です。ここは無事を祈るのとさらなる応援を……!」
「フェイは一回喉枯らして迷惑かけているんだから、なるべく声出さないの!」
「そうよ、フェイ。それに大丈夫、あれくらいあの人達なら余裕だよ」
と続くルナって……え?
「楽にいけるの?」
「うん。むしろ敵を集めるようにして戦ってくれると思うよ」
私の緊張感返してよ。
あんな必至感出したルベリさんも人が悪い……というかしたり顔で笑ってそうだ。やられた。
ひきつけるためか背後では明るくなったり、ものすごい爆発音とかが鳴り響いている。やめて、大きい音は。普通に怖い。
それでも振り返らず走る――が、前に猪が数体現れる。どうやら音に寄って来たらしい。どうする……っ!
「ここは私ね。この距離なら大丈夫そう」
「ソフィアさん!」
ソフィアさんが早く走って前に出る。なぜかウキウキだ……もしかしてさっきのルベリさんに感化されて強者ムーブをしたいだけか?
「ええ、任せて頂戴。さっきカッコいいから言いたいと思っていたのに、言えるチャンスがきたんだもの。言うわ。ここは私に任せて、あなた達は早く」
「じゃ、任せるよ、ソフィア」
「お願いします」
「ねぇー! 言わせてよ!」
ソフィアさんが情けない声をあげながら周辺の魔物を撃ち抜く。
私も前の恨みがあるから、置いていくのには賛成だけどさ。ここのパーティは人の心がないんか?
「本当に大丈夫なの?」
「一応ゴールドのパーティだがら……それにソフィアはあれでなんでもできるから、あの程度だったら大丈夫」
心配になって聞くとルナから安心材料を言ってくれる。一応大丈夫だ。百発命中だし、一発で猪を倒したりとなんだかんだあの人も強いんだ。任せよう。
そうして走っているとまた猪が目に入る……何体いるんだよ!
そうすると今度はミユちゃん達が前に立つ。
「では次は私達が相手をしましょう、フェイさん」
「何ですか、ミユさん?」
「私はこれからトロール戦に向けて魔力を温存しながら戦います。なので囮役は任せました」
「わかりました! 任せてください!」
頼りにされて嬉しいのかノリノリで囮役を受けるフェイ……普段は優しいけどフェイも結構ヤバい奴かもしれない。
「じや、いくよ。サクラ!」
「うん」
ルナに手を引かれて魔物を後にする。
気になって後ろを向くと、絶対私だったら泣いて嫌がることをフェイはすぐさま実行していた。これが冒険者。覚悟が決まりすぎている。
そんな二人を後にしながら私とルナは暗い森を進んでいった――。
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