第30話 転生者は強敵に立ち向かう
「やっぱりあいつだ……!」
皆んなに猪の相手をしてもらい、私達は目的の敵がいるところに着いた。物陰から様子を伺っていたルナが殺気さえ放つように睨みながら言う。
「じゃ、あいつが私とルナを会わせてくれた恋のキューピッドか」
「……サクラ、そんな戦う気なくすようなこと言わないで。私、今真剣に怒っているんだから」
「ごめんごめん」
空気が読めなかった……この状況でテンパっているのかもしれない。
「それにしても大きいね。あんなのどうやってやるの?」
「……」
ルナもアイディアがないのか、それともさっきのことを根に持っているのか無言になる。
というかホントにデカい。身長は十メートルを超えており、手や足も丸太のように大きくて太い。それに私ぐらいの棍棒を持っている。あんなの当たったら即死だよ。
「あんなに太いのでやられちゃったら意識飛んじゃうよ」
「……そのセリフ狙ってる?」
「狙ってないよ? そんなこと考えちゃうなんてルナはエッチだなー」
「うるさい!」
「ちょっ声大きいって」
そう思ってトロールがいたところを見ると、もういなくなっている。あれ、どこ行った? 私達がキョロキョロと探そうとすると上から声がする。
「誰かしら?」
「「あっ」」
見上げるとトロールの顔がある……ヤバい。死んだかも――って思うけど、ルナに気づいたトロールが喜びの声を上げる。
「あらあら! これはこれは。この間のかわいい女の子じゃない? どうしたの、私が恋しくなっちゃった?」
「うるさいですよっ」
ルナが叫ぶと同時に切りかかるが、首を捻って避けられる。とういうかしゃべるの! こいつ‼︎
ルナは私を巻き込まないように離れるように襲いかかる。ごめん……怖くて動けそうにないです。
「もう! 出会いがしらにひどいわね……それに前にも言ったでしょう! 女の子だったら、そんなガチガチの服じゃなくてもっとかわいい服を着なさいよ。あとメイク! スッピンが許されるのなんて十代だけよ? 若さに甘えてないで、今のうちから勉強なさい」
めちゃくちゃ喋るな、こいつ! しかも厄介なおばさんみたいにルナに説教してくるし。なんなんだ⁉︎
だが実力はあるようで、あんなにも巨大なくせにさっきからルナの剣が当たらずに全て紙一重で躱されている。
「うるさい! 今あなたにリベンジをします! 覚悟!」
「そうやって切りかかってくるのやめてくれなきかしら? 私はただ貴方に注意しているだけよ。ほらほら、もっとおしゃべりしましょうよ」
「話すことなどありません!」
剣を横薙ぎで繰り出すけど、それも持っている棍棒で防がれる。こいつ、強すぎない? ルナが完全に遊ばれている。
攻撃か全く当たらず、ルナに苦悶の表情が浮かぶが……対照的にトロールは余裕の笑顔を崩さない。
「くっ!」
「ホント野蛮ねー。そんな貴方に着てもらう服だけと……女児服とかいいと思うわ〜。試しに来てからくれないかしら。それともちょっとエロいやつとかの方がいいかしら? いやー。顔がいいって良いわね。なんでも着せたくなっちゃう」
「絶対着ません‼︎」
ルナが剣を振り下ろすけど、空を切る――。
言っている内容は最悪だけど、私もそんな服着ているルナ見たいので、心の中で同意する……マジで見たい。
「なんでそう拒否するのかしら? 似合うと思うわよ? なんだったら着せてあげようかしら? それとも他のがいいかしら。待っててね、そこらにあると思うから取ってきてあげるわ」
「着ないって言ってます!」
トロールが背を向けて服を取ってこようとするが、ルナが飛びながら剣を振る――だけどまた躱される。
「ちょっと危なくない? 今、かすったわよ」
「真剣にやってください。やる気がないなら今すぐワイルドボアの群れを止めなさい!」
「なによ、そんなマジになっちゃって……やっぱりコスプレする服が気に入らないの? ちゃんと好きなもの聞いてあげるからこのちょっと露出あるやつ着てくれないかしら? ……それともオプションが不満なのかしら。安心なさい。ちゃんとランドセルっぽいものと黄色い帽子とか揃えてあるからね」
……話が通じねぇ。さっきからルナとのキャッチボールが出来ていない。そんなトロールにキレたのかルナがさらに声を荒げる。
「もういいです!」
「あんまりしつこいと嫌われちゃうわよ〜? そんなことよりも貴方に合う服が……って危なっ」
ルナの渾身の一撃がすんでのところで躱される。惜しい!
今の一撃はさすがにビビったのか、トロールの顔に怒りが見える。
のろのろと立ち上がり、ルナを睨みつける。
「あらあら。もう服に傷ついちゃうじゃない……ほら、どきな!」
「ぐはっ!」
トロールがうんざりするようにやる気なく棍棒を振るとルナに直撃する……ルナ!
「ほんと、もう嫌になっちゃうわ。手加減てしていたらもっと切りかかってくるんだから! 冗談も通じない女ね。貴方もそう思わない?」
吹っ飛んだルナのことなど興味がないのかすぐに私に向き直る。
目の前の光景が信じられない……あのルナがまるで虫を叩くように倒されてしまった。こんなのチートすぎる。
私は悲鳴をあげられず、半ば放心状態になっていると残酷なまでにトロールが近づいてくる。
「あら、どうしたのかしら? おーい」
「……なに?」
「ああ、ちゃんと返事があったわね。壊れちゃったと思って心配したわ……あら、よく見ると貴方も中々に可愛いわね。貴方には何が似合うかしらねー」
楽しそうに私の服を見繕うとする巨人に私は怒りもなく、ただただ困惑していた。それにもう死ぬんだと諦めの気持ちにもなっている。
どうせ死ぬんだ……なら必死になってもしょうがない。こうなったらヤケクソだ。
「なら、ちゃんといい服にして欲しい。ちゃんと可愛い感じのをお願い」
「あらあら! ノってくれるね! いいわ、見繕ってあげる――ああ、なんてことかしら。こんなにいい日は久々だわ! どっかの漫画のような服にしようかしら? それとも地雷系? ああ、服選ぶのって楽しいわね! どびっきりいいのを持ってくるわ。待っていて頂戴!」
思いの外、ノリノリのトロールが住処に帰ろうと手足をルンルンとしていて、疑問に思う。ていうか、こいつって。
「……ねえ、一個聞きたいんだけど?」
「あら、なにかしら?」
「もしかして、あなたって転生者?」
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