第31話 転生者はピンチになる

「そうそう、私ってば転生者なのよね。あなたも転生者?」

「うん」

「あら、そうなの? だったらあたしたち地元が一緒なのね!? なんかテンション上がっちゃう」

 ………なんか、オカマだわ。あれから私とトロールが仲良く話している。ホントはルナの手当てとかしたいんだけど……逃がしてくれなさそうだし、攻撃が向かないようになんとか話す。てか、動けない。

「ちなみになんて呼べばいい? ママとか?」

「ウフフ。スナックのママじゃないんだから、それはナシよ! あたしはナギ。ナギちゃんて呼んでくれないかしら」

 よくおばさんがする「あらやだ」みたいに私の前で手を振るけど、風圧がヤバい。髪がビュンってなびく。こっこわい。

「えっとナギ……」

「あっ、そうだわ。服だったわね。……やっぱり児女服よね。高校生ぐらいの子が恥ずかしがりながらイタイ服を着るのがもうさいこ~。もういい歳なんだからって一生からかってあげたいわ」

 いい性格をしている。私も着させられる側じゃなくて着せる側だったら激しく同意するけど。

 手に児女服を持ちながら、ナギは笑顔で持ってくる。着るの断ったら殺されそうだ。だけど私はただでは着ない。

「待って。ただで着るつもりはない。一つお願いを聞いてくれない?」

「何かしら?」

「じゃ、お願いなんだけど猪達を止めてくれない? 私が住んでいる村なんだ。無くなっちゃうと困る」

 仲良くなっていると思ったので、提案してみると笑顔でナギが答える。


「ダメダメ、村は破壊する。ここら辺の街もぜーんぶ」

「え?」

「あいつらは昔、あたしがこんな姿だからなんの話も聞かずに切り掛かってきたのよ? ひどくなーい? しかも喋ったら実験台にちゃうどいいとか、ホントやになっちゃう」

 前にやられたことを思い出して話すナギ……けどそれは私の村とは関係なくない⁉︎

「なんで?」

「ああ、やっている理由? そんなの私を襲った人間の復讐に決まっているじゃない。それにこの村なんてほんの手始めよ。次に街を襲うわ。あたし、ちゃんと予習をする頭いい子なの」

「……大勢死んじゃうんだよ?」

「それがどうかした? 確かにサクラは優しいから、お願いは聞いてあげたいんだけどそれだけはダーメ」

 ばつ印を手で作りながら私に笑いかけてくる。ダメだ……これは私がいくら言っても聞いてくれそうにない。

 項垂れながら、トロールに問いかける。


「もう、人の心はないの?」

「? あるわよ。ちゃーんと。だがらこのフリフリの服を着て欲しいんじゃなーい。絶対可愛いわ」

 だめだ、話が噛み合わない……。ナギにはもう可愛い服を服を着せるぐらいにしか人間の心が残っていない。もう多くの人を手にかけた魔物なんだ。

 ルナがやられていることも思い出し、許さないという気持ちが込み上げてくる。ダメだ、私はこいつとは分かり合えない。もう、我慢の限界だ。

 顔を上げてナギを睨む。

「あらあら、どうしたのサクラ。そんな怖い顔しないで、もっと楽しくおしゃべりをしましょう。それにこの服だって――って何かしら」

 私は初級魔法を繰り出す……けど当たる寸前に手で払われる。

「触らないで。貴方には同情する余地があるかもしれないけど、村も街も壊すなら私は戦う……なにより、女児服を着る趣味は私にはない!」

 私の魂の宣戦布告を聞き、ナギが肩をすくめる。

「貴方が私に勝てるわけないでしょ? 大人しく私の言ったように服を着なさい。そしたら貴方だけでも助けてあげるわよ?」

 優しく言ってくれるナギだけど、それは裏を返せば私以外は殺すということだ……私は私一人で生きていくつもりはないし、着せ替え人形になるなんてごめんだ。

 決意を固めて尚もナギを睨むと面白くなさそうにナギが棍棒を持つ。

「はあー……貴方となら仲良くなれると思ったのに残念だわ」

 後悔はない……なんてことはないけど、私は震えながらナギを見る。


 そうしていると、ルナが茂みから飛び出して斬りかかる――。

「もう、また貴方!」

「やらせません……っ!」

 剣を棍棒で受け止められ、ルナは器用に着地する……けど、血だらけになったルナはなんとか立っているような状態だ。とても戦える状態じゃない。

「もう、本当にしつこいし、丈夫ね……とっととくたばりなさいな」

 トロールがやる気ない感じに棍棒を回すと、案の定避けられずにルナに当たって鈍い音が鳴る。

「ぐあっ」

「ルナ! ルナ!」

 ヤバいヤバい! ヤバい! ルナが死んじゃう。


 こっちの方向にルナが飛ばされたから、なんとか受け止める。

「がはっ……くっ」

 私に耐え切れるような力はもちろん無いので、飛んで来たルナと一緒の結構飛ばされる。

 地面に転がりながら体を起こすと隣にルナがいる。

「ルナ……」

 呼びかけても……返事をしない。けど息はしていそうで、呼吸音は聞こえている。

 ルナのことを確認するとドスドスとナギが近づいてくる。ホントにこんな奴どうすればいいの⁉︎


「ライトニング!」

「ぐっ」

 絶望に打ちひしがれていると一筋の光がナギを貫く。

「ミユちゃん!」

「ピンチのようですね!」

「……まさか見てて救う機会を待ってた訳じゃないよね?」

「流石に私もルナがこんなにボロボロになるまで助けないなんてことしませんよ。普通にもっと早く着けたらって後悔しています」

 そっか……私の時もちゃんと傷つけられる前に助けてくれたもんね。

「しかも相手は因縁の敵です。あいつのせいでルナとはぐれたんですよ、何がなんでもぶち倒します」

 ……怖い怖い。

 ミユちゃんは目の前のナギを見てガンギレである。

「それにあいつ、私の服を破こうとしたんです。子供なんだから、女児服を着ろだなんだと言って……」

 ミユちゃんの周りの大気が揺れる。

 ホントにブチギレ状態である。マジで怖い。

 マジギレのミユちゃんが怖くて目を背けると蹲っていたナギが立ち上がる。

 マジでどんだけ強いの? 幾多の魔物を一発で倒した魔法だよ? チートすぎる!

「いったいわねー……って貴方ね。もう、だから言ってるでしょ⁉︎ あなたは大人っぽい服着なくていいの! 今の内だけしか着れないこの女児服を」

「ぶっ殺します」

 手に持った服を見せつけるナギにミユちゃんはさらに雷を降らす。ダメだよ、それは。ミユちゃんは子供というのをめちゃくちゃ気にしているんだ。そんなミユちゃんを煽るとさすがにキレるよ。

「ここはミユちゃんに任せましょう。サクラちゃん、ルナをこちらに運びますよ」

「フェイ、それにソフィアさん!」

 フェイだけで、なくソフィアさんも無事だった。


 三人がかかりでルナを木陰に移動させ、フェイが回復魔法をかける。

「サクラちゃんも……ヒール」

 光に包まれ、擦り傷が癒えていく。

「ありがとう。ルナは?」

「とりあえず、意識を失っているだけです。すぐに起きるでしょう」

 とりあえず良かった……。

「じゃ、私はミユの援護をしてくるわ、ルナをお願いね」

 と言いソフィアさんが飛び出す。だったら私達は何をすれば? とりあえずフェイに聞く。

「じゃ、私達はどうする?」

「サクラちゃん、私達がやることは決まっています。ルナが目覚めるまでここで守って、あとはひたすら応援です。さあ、サクラちゃんも続いて、フレーフレー」

 どうやら私達に出来ることは無さそうだ……。

 そんな風にフェイの応援を聞いて諦めていると近くで爆発音が響き――私は吹っ飛ばされる。

「ぐはっ」

「サクラちゃん!」

 飛びながら私に手を差し伸べるフェイが見えたけど、その手を掴めずに地面に叩きつけられる。

「くうーー! いったーってうわっ」

 私がなんとか上半身だけ起こすと目の前に膝をついたナギが目に映る。

「もう、あの子達。ホントに……! ってあれサクラじゃないの」

 私を見ながらもミユちゃん達にやられてイラついているナギが私の目をじっと見てくる。その目は先程まで仲良く見ていた目ではなく、敵を見つめるような目だ……そうだっ、こいつに喧嘩を売ったのは私だ! だったら震えている場合じゃない。

 なんとか立ち上がって辺りを確認する……どうやらミユちゃんもソフィアさんもいない。でもやるしかない。

「はあー。もうサクラもやる気なのね……もういわ」

 ナギが立ち上がって私に棍棒を持ち上げて私の前に立つ。

 さっき確認したけどここは勇者が覚醒したとされる場所だ。だったら……。

「私達はお前を倒す!」

「遺言は受け取ったわ。じゃあね」

 もし、私が主人公なら覚醒させてよ! そう思いながら、振り下ろされる棍棒を見つめ――やっぱり怖かったので目を閉じると誰かに包み込まれたような感覚が襲う。え?

「ん……ルナ!」

「無事で良かった、サクラ」

 目を開けるとそこには水色のオーラをまとったルナの顔が見える。どうやら私を抱えてくれているみたいだ。

 そこで直感する。


 あっ、覚醒するのルナなんですね。

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