第32話 転生者は転生者と戦う

 轟音と炎が上がる暗い森の中、ルナが青く光りながら私をお姫様抱っこしている。

「あの……ちょっと恥ずかしいから、下ろしてくれない?」

「重くはないよ?」

 多分この光は前にルナが使っていた「ソウル・パワー」っていう身体強化魔法だ。だから重くないのは知ってるんだけどさ。いや、私はそんな重くはないはずだ……多分。

「いや、あの絶対絶命の時に助けられてですね、その上お姫様抱っこって……あの……あの」

 どんどん顔が赤くなっているのを隠す。だってこれ、女の子的には憧れのシチュエーションじゃん! それに好きな子にこんなのやられたら……もうさ。私って意外と押しに弱いかもしれない……。

「サクラ……いえ、後で帰ったら話をしましょうね。その顔かわいいですよ」

「なんも話すことない! 別になんともないから!」

 両手を隠しながら、必死に叫ぶ。

 デートの時みたいにルナが意地悪に笑う。みっ見るな!

「……あの、そろそろいいてすか? 今結構ピンチなんですけど」

 私達に追いついたミユちゃんがすごく言いにくそうに声をかけてくる。……わっ分かってます。

 ルナが私を下ろしてくれるが、お互い顔が見れない。今すぐにでも逃げ出したいけど手を離してくれない。

「ほら! 言ったでしょ。やっぱりこの「覚醒の書」は間違っていなかったのよ!」

 その隣ではソフィアさんがテンション高く本を掲げている……って、それ私に対して使っていませんでしたか? 覚醒したのルナなんですけど。

「というかなんでルナは魔法を発動させているの? 魔力ないんじゃないの?」

 今も魔法が発動させられているのかルナの体はまだ青く光っている。私はまだ魔力を渡していないっぽいんだけど、なぜか発動できている。これが覚醒か。

「わかんない……けどあんまり発動できそうにないかな? もう消えそうになっている」

 そう言われて見ると確かに少しオーラが揺らいでいて、少し光が弱くなっている。もう時間がなさそうだ。


 そう騒いでいると空ぶったナギがと起きこちらの方を向いてくる。もう爆発寸前っていうぐらいにキレている。

「やってくれたわね……何をするのよ! 私が頑張って作った児女服が破けちゃうじょない⁉︎ これ、作るのにどれだけ大変だと思っているのよ!」

 よく分からないことを言いながら、棍棒を持ってナギはこっちに走ってくる。

 なんか場違いだけど、最終決戦感が凄い……こう全員集合(一人は応援のため、少し離れているけど)しているし、あと三十分もしない内に決着がつきそうだ。

 だけどアニメとかのようにはいきそうにない。というかあの怪物はどうやったら倒せるんだ? ……こういう時はいつものあれだ。丸投げだ。こういう時はミユちゃんかな?

「どうするの?」

「うーん……正直、私はもう魔力がきついです。あと一回ぐらいしか発動できないませんし、その一発で倒すことは厳しそうです。ソフィアさんはどうですか?」

「私も魔力が厳しい……あと一発、二発だけね。それも決定打にはならないと思うわ」

 ナギが追い付いてきて棍棒を振り下ろすけどルナが抱えて飛んでくれる――地味に今、ピンチじゃなかった⁉ やばい。感覚が狂っている。

 さっきまでいたところがクレータみたいになっているが、皆んな紙一重で避けている……けど、ルナの光がまた弱くなっている。ホントにもう時間がない。

「私がやる!」

 ルナもそう思ってか皆んなに向かって宣言する。確かに覚醒しているっぽいし、ミユちゃんもソフィアさんもダメってなるとルナしかいないけど。

「サクラまた、魔力を貸して! 今ならあいつを貫けるぐらいの魔法が使えそうなの。ただ、サクラの魔力を結構使いそうだけど……大丈夫そ?」

 きついのか……いやでも!

 迷ったのも一瞬。

「いいよ! 持っていって! あいつにぶち込もう!」

「うん! やろう!」

「じゃ、皆んな援護して!」

 私とルナが飛び出すと私達に追いついたのか後ろから頼もしい返事が聞こえてくる。

「任せて」

「おいしいところを持っていかれるの癪ですけど……任せてください!」

「わっ私も応援しています!」

 あっフェイは応援なんだね……まあ私もルナに手を引かれてついていくだけだけど。


 ナギも二回も避けられたルナを敵視したのか、こちらをロックオンしたようる穴を目で追う……よく見るとナギは傷だらけだ。多分だけどミユちゃんとソフィアさんの攻撃されてもうボロボロになっている。だったら私は逃げないように挑発……というか心の内をぶちまける。

 迫りくるナギを睨み返しながら叫ぶ。

「あんたの女児服とかマジでキモイんだよ、この変態がっ! どうせ倒されるんだからもう諦めなさい! ロリコンがよっ‼」

「なんですって……もう完全にブチギレよ、サクラー‼」

 見事、狙い通り? にナギはこちらに迫ってくる。先ほどから二段階から三段階ぐらい顔の凶暴さが上がっている。マジ怖い。

「とりあえずお前はぶちのめす‼ じゃ、ルナ。頼んだ!」

「あんな挑発していたのに結局私なのっ……!」

「いやいや、私は無理だって。さっきも魔法撃ったけど片手で払われたもん」

「だからって……もう!」

 ルナとイチャイチャし始めるとさらにナギが怖い顔をしながら詰めてくる。

「あたしはトロールよ! あんた達人間になんかには負けないわ‼ 私の思い通りにならない子なんて……いらないわっ!」

「女児服なんて着ないわ!」

 私はツッコみつつも、ルナに手を引かれて距離を保つけど、もうナギが目の前にいる。

「なら死になさい! 皆んな死になさい!」

 ナギが棍棒を振り下ろす寸前――。

「テレポート!」

 ミユちゃんが魔法を発動させて移動させられる。

 ヒィー危ない。

 でも、まだまだ言い足りないだよ!

 土煙が上がる中、精一杯大声で叫ぶ。

「私たちはお前の思い通りにはならないんだよ! なんでも思い通りになるなんて甘ったれたこと言ってるんじゃないよ!」

「このッ!」

 私達の方を振り返り、再び棍棒を振り回そうとした時――棍棒が宙に舞う。

「くっ!」

「下ろした直後なら、そんなに力は入れてないわよね」

 銃から煙をあげながら、ソフィアさんがニヤリと笑う。

 ありがとう! めっちゃ役に立ってるよ、ソフィアさん!

 遠くではフェイの「頑張れー」って声が聞こえる……あっ、フェイのカッコいいところはないんだ。

「あたしは……あんたらなんかにッ!」

「とりあえず、お前はもう一回転生し直してこい‼ ルナ!」

「うん。ソウル・エクスプロード‼」

 私が叫ぶと同時にルナの剣が昼ぐらいに眩く光って、ナギの腹を貫いた――。

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