第33話 転生者は冒険者になる

「サクラ、平気?」

「うん。ルナは?」

「大丈夫」

 私とルナは大の字で仰向けになりながら、お互いの無事を確認する。というかルナの魔法を使うのにめちゃくちゃ魔力を使った……しばらく動けなさそう。

「……あいつは?」

「倒したと思う」

「そっか」

 私は貫かれたナギのことを考えてしまう。さっきまでいたところを見るとルナの魔法が凄すぎたようでトロールは跡形もなく吹き飛んでいた。


 ルナも私と同じくセンチメンタルになっているようで、少し無理をしているような明るい声を出す。

「話は聞いていたよ。転生者だったんだってね。あんな風になっちゃったのは魔物になったせいでもあると思う……以前本で読んだけど、転生者が魔物として転生して村がいくつもなくなったみたいだよ」

「そっか……」

 魔物のせいでもあるのか……まあ、話通じてなかったもんね。なんか厄介オタクみたいに自分の妄想で話している感じがしたけど、そういう理由か。……あの性癖は元からだろうけど。

「うん……だからあの人が次転生する時は人間だったらいいね」

「そうだね。あいつはまともじゃなかったけど、話してるだけだったら楽しい奴だったよ……女の敵だけど」

「それはそう」

 お互いに寂しく笑い合う。

 きっと来世では人で転生できることを願おう。今度は女児服とかを進めないようにね。マジでドン引きだから。


 なんとか上半身を起こすと、遠くではフェイがミユちゃんとソフィアさんを治療している……そろそろこちらに来るだろう。

「よいしょ。そろそろフェイが来そうだし、頑張って起きよっか」

「ちょっと待って」

 ……ん?

 なんかルナがこっちを睨むように見ているんだけど何?

「緊急事態でうやむやになっちゃっていたけど、サクラは私達のパーティに入るでいいんだよね?」

 ……いやいや、それは話が違う。

「今回は緊急だったから。もうなくなったから入んないよ?」

「こんな作戦成功させたのに? 今回の功績でランクも上がりそうだし、もうサクラは冒険者界隈で有名になっていると思うけど?」

 なんてことだっ! 今回の作戦はルナ達のリベンジだけでなくて私から逃げ場を奪う為でもあったのか! そこまで計算していたなんてなんて女だっ!

「それに私にはサクラが必要だよ。今回も助けられたし」

「どっちかというと魔力が八割ぐらい占めているでしょ! それに私から魔力奪わないでよ⁉︎」

「それについては仕方ないじゃないでしょ! 私魔力ないんだから! サクラだけなの! お願い!」

「いやだよ! めっちゃ疲れるし、頭痛くなるし」

「おぶって帰ってあげるからいいでしょ」

「死にかけてるんだよ! 今もボロボロだし。私のメリットは?」

「私が守ってあげるから。そんなに嫌がらないでよ!」 

 ガルルってお互いに威嚇し合う。今回でも思ったけどこんな仕事ばっかりとかこの稼業ヤバすぎる!


 睨み合っていたけど、急にルナの顔が赤くなって顔をそらされる。

「それに魔力だけじゃないよ? ……私にはサクラが必要なの」

 ……それは攻撃力が高いっすね。

 ぶっちゃけめちゃくちゃかわいい。でもでも!

「けどさ」

「……じゃ、サクラはどうしたら私のパーティに入ってくれるの?」

「え?」

 私が反論しようとするよらも早く、ルナがとんでもないことを言い出した……こんなのどうしろと?

 反射的にルナの体を見てしまう。いや、こんなのなんか……ね?

「言わせるなよ、恥ずかしい」

「……サクラが私をどういう目で見ているのか分かりました」

 呆れた顔をしながらも笑ってくれる。

 なんかその顔を見ると私まで笑えてくる。

「ははは」

「ぷ・・ははは」

 お互いおかしくて笑ってしまう。

 あんなにも死ぬような思いをしたというのに私達は同じように笑っている。

 

 一通り笑っていると、ルナが慈しむように笑いかけてくる。

「サクラ。私と一緒に居てください」

 ……もう。そんな顔で言わないでよ。

 ルナはまるで私が言う言葉を分かりきっているように笑う。

 これがただのポーズってわかってんだろうな……。

「わかったよ。心配だし一緒にいてあげる。これからもずっと一緒にいようね。あっこれ、告白だから」

「……ホントなんともうんって言いたくないことを言ってくるね。ふふ。ありがとう。これからもパーティメンバーとしてよろしくね」

「そんなのないよー!」


 こうして私は絶対になりたくなかった冒険者になった……まあ、かわいい子とパーティにはなるというできたけどね。

 その後皆んなと合流をして、私が初めて受けたクエストは終わった。



 ――次の日。

 今すぐ冒険者をやめたい。

 私は昨日の今日で後悔した。


 昨日の夜――村が無事に済んで、宴が開かれた。門の修復などが残っていたため短時間で終わったけど、宴の席でギルドの人から死者を出さずに済んだこと、トロール討伐後に猪達の統率が取れなくなり散っていったようで、村の被害はほぼなかったこと、後はそれぞれの功績などが報告された。

 もちろん私達の功績はすごかったんだけど、ランセアを始め、ルベリさん達……おまけにあのクソ神父も無事で、功績もすごかった。あの人達はなんなんだ? 一名を除いて最強なのか。

 そんな祝勝会が終わって昨日帰ったら、雰囲気に当てられてかっこつけたことやキザなセリフを言ってしまって、恥ずかしさにもがき苦しんであまり寝られなかった。

 超眠い――それなのに。

「ほら、サクラ。今日から冒険者になるんでしょ? ルナさんたちが家の前で待っているわよ」

「サクラは死んだ。今の私は冬眠中の熊である」

「早く起きなさい。もうっ! これから出発なんでしょ」

 朝、あ母さんに布団をはぎ取られても抵抗していた私だったが、ベットもひっくり返されて起こされる。

 昨日のうちに身支度は済ませている……多分ここの家に帰ってくるのは 結構先になるかもしれない。見送りをしてくれるお母さんに向き直る。

「お母さん、ありがとね」

「そうよ? 昨日もあんたの服とかを用意してあげたのにお礼なかったもの」

「……それもありがとうだけどね。でもでも愛娘との別れだよ? こう送るものとかあるでしょ? お金とか」

「何言っているの? 私の仕事増やすんだからむしろあんたがお金をよこしなさい」

 ……最後の最後まで最低な母親だった。

「じゃ、またねお母さん」

「はい、またねサクラ。ちゃんとルナちゃんのエッチ写真待っているわ」

「はい、じゃあね!」

 私は勢いよくドア閉めると、服を着替えると家の前にはルナが立っていた。

「おはよう、サクラ……ってなんかクマすごいね」

「あっうん。おはよう」

 あくびを噛み殺しながら、ルナ達を見るといつも通りの姿だ……あんなヤバかった次の日だったのに、どうなってるんだこの人達は。それともこれが日常茶飯なのか?

 うわーって心底気落ちしているとルナが手を握ってくる。

「ほら、行くよ」

「えー」

「入るって言ったんでしょ? だったらもうメソメソしない!」

「なんかルナがお母さんみたいなこと言い出した! 分かったから。自分で歩くから、そんな引っ張らないで! 腕もげる」

 こうして私の穏やかな日常は冒険者の美少女によって粉々に砕かれたのだ。さらば、日常……。

 私は半ば強引に引きずられながら家を後にした――。

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転生したけど、私は冒険者なんてなりたくない! @kminato11

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