第27話 転生者は司令部に戻る

 司令部に行くと冒険者達の姿や騎士達、はたまたプリーストなどありとあらゆる人達がいた。だけど皆んな疲弊しているようで表情は暗い。ランセアやルベリといった見たことある人達もいたが同じように暗い……あっミユちゃんとフェイだ。復活したんだ。

 向こうもこちら側に気づき近づき、フェイが私を抱きしめてくる。

「サクラちゃん、良かった……さっき衛兵の人が教えてくれたんだよ。無事で良かった」

「うん、私もフェイが無事で良かったよ。でもなんか後ろの視線が怖いから離れてくれると嬉しいかな!」

 そう言うとフェイは不思議に思いながらも離してくれる……ルナの目が少し収まってくる。やっぱりルナって束縛が強いのか? まだ私達付き合ってないよ。

「ふふ。私はサクラさんが来てくれると思っていましたよ。こういう展開では助っ人は必須ですからね。見事な駆けつけっぷりです!」

 まるでこうなることが分かっているみたいに言うミユちゃん……私はミユちゃんが馬鹿な事して皆んなの迷惑をかけるとは思わなかったよ。


 私たちが再会を喜びあっているとギルド職員が手を叩き、空気が変わる。

「皆さん、無事で何よりです。しかしまだ事態は鎮圧できていません。どうか皆さんの力をお貸しください……では先遣隊の報告お願いします。」

「はい。村の周りにワイルドボアを確認。数は約二千。第二波は後三十分程と予想されます」

 真面目系騎士の女の人がこの場にいる人達に聞こえるようにハキハキと喋る。言っている内容はだいぶ深刻そうだ……他の戦士達は状況が分かったのかさらに空気が重くなる。

 私も聞いている限り、ヤバそうだ。一刻も早く帰りたい。

 ギルドの職員がさらに報告を促す。

「こちらの被害者状況は?」

「我々の被害として、死者0名、重症者11名、怪我人は200名ほどです」

「そうですか……ギルドが設営している簡易ベッドの数を増やすよう通達をお願いします」

 死者が出ていないようで安心したけど……また来るの、アレ……はあーもう帰りたい。

「また率いている個体を確認しました。トロールです」

 騎士からの報告でルナ達の雰囲気が一気に逆立つ。

「村から一キロぐらい離れた場所にいます。またその周囲にもワイルドボアが百体ほど確認しています」

「承知致しました。報告ありがとうございます。では案がある方はいらっしゃいますか? いたら挙手を」

「……」

 シーンと誰も手があがらない。そうだよね……いきなり後三十分で一杯の敵がくるからどうする? って言われてもね。

 そんな沈黙の中で私の左にいた人が手を挙げる。

「はい。私達がトロールをやります」

 ルナに目を向ける。正気か……! なんか私の方を向いてアイコンタクトしようとするけど、私は嫌だよ! あの猪をけしかけてる奴なんでしょ! 絶対ヤバいって!


「どうやるんですか?」

 冒険者ギルドの人が不安そうに確認すると、ミユちゃんがルナの言葉を引き継ぐ。

「まず大人数でワイルドボアの相手をします。その間に少数で隠れながら移動して、私達がトロールを倒します!」

 ミユちゃんが進言する。

 って言っているけど私は入っていないようね? 入ってます? そうですか……。


「恐れながら……残念ですが、ゴールド冒険者で太刀打ちできるほどトロールは甘くないと思われます。それに人質にでもなったらさらに困難になりますし、なによりあなた達にはできると言われて、最初に強力な魔法をお願いしましたが……あまりいい結果は得られませんでした。確かに貴方の魔法は凄かったですが、もう魔力不足でしょう」

 前に出てきたミユちゃんに並びながら、眼鏡をかけた騎士風の女の人が反対意見を出す。ド正論だ。失敗して迷惑かけているからね。任せるのは危ない。

 その言葉をきっかけに男達が「そうだ、そうだっ!」と便乗して野次を飛ばす。私もそれに乗っかって野次を飛ばす。そうだ、そうだっ!

「であれば、私が彼女達を推薦しよう」

 そこには前に会ったランセアが前に出てルナのフォローをする。確か騎士団長だった人だ。って待て待て、そんな人が推薦するな!

「彼女の実力は見たことがある。騎士団でもかなりの腕前だ。それに襲撃するには、やはり少数のパーティでなければならない。それとも誰か彼女達よりも力と勇気がある者はいるか?」

 ランセアが問いかけるとみんながシーンって黙る。あれ、冒険者の皆んな?

「であれば彼女達しかいるまい。連携がどうしても必要だ。我が部隊も連携には自信があるが、それも部隊単位での話だ。少数で動くとなると冒険者達との練度を考えれば比べるべくもあるまい」

「……確かに少数が最適です。であれば、騎士団長様が」

「あいにく私は個とやるのは向いていない。それにトロールを倒しても街が無事でなければ意味もない。魔物達の足止めは必ず行う必要があり、私は範囲魔法が主な魔法だ。どちらが最適なのかは明らかだろう」

「ですが……ではプラチナパーティのルべリ様は」

 眼鏡の人が形成が悪くなり、助けを求めるべくルベリさんの方を向く。がっ頑張れ、眼鏡の人!

「私達のパーティもどちらかといえば足止めのほうが得意です。範囲も大きい魔法ばかりなので、私達は隠密行動を得意としていません」

 ルベリの言葉でさらに眼鏡の人が俯く。待って待ってもうちょっと頑張って。マジで。ほんとにお願いします!

「ですが……」

「お嬢さんや。ランセア騎士団長がこう仰っているのだ。反対意見は出すものじゃないよ」

「ラング神父」

 あの変態が前に出る。

「彼女にここまで言わせるのだ。これ以上は騎士団長の侮辱になるぞ」

「私はそんな」

「それに彼女達の勇気は私も見ておる」

 私の方を見て神父が優しい笑顔を浮かべる。なんだ。立場を弁えていなかったと言いたいのか? どうせ私は礼儀知らずの田舎娘だよ。

「彼女達は皆良い力を持っておる。どうか私に免じて信じて欲しい」

 ……ホント余計なことを言わないでほしい。というかお前、私の力は知らないだろうがっ! なんだったらパーティの実力も知らないじゃないか、こいつ! あとなんでみんな「あの人達がここまで言うなんて……」みたいな顔するのやめてよ。この神父はただの変態で最低なじじいなだけだから‼


「承知致しました……ではルナ殿たちのパーティにお任せします」

 いや、同意しないでよ! 私達があんなのに立ち向かいに行くなんて嫌だよ‼

 手のひら返しした騎士を睨みながら、私は無言の叫びをあげる……が、後に続く者は出ずにギルドの職員がまとめる。

「……それでは騎士団は街に入ってくる魔物を迎撃。冒険者たちはトロールのところまでルナさん達のパーティの護衛、その後ルナさん達のパーティはトロールの撃破を担当していただきます。皆さんよろしくお願いいたします」

「おおー!」

 皆が雄たけびを上げるなか、私はただただ茫然としていた。

 こんなことならシェルター行けばよかった……。

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