第26話 転生者は転生者と一緒に戦う

 森に入ると、そこは悲惨な光景が広がっていた。地面は盛り上がり、ところどころで赤い血が広がっている。木も何本も倒れており、まるで別世界のようだ。いつも入っていた森なはずなのに、初めて入ったような感覚に陥る……不気味だ。

 ソフィアさんもさっきのおちゃらけた雰囲気などない――あっソフィアさんがこけそうになった。あらあら、私に振り返って「見た?」みたいな目を向ける。かわいい。

 そんな危ない道を二人で黙々と歩いていくと、近いところで金属音が聞こえてくる……! 誰かが戦っている――って、ルナだ!


「ルっむぐっ!」

「声を出さないで」

 いきなり口を押えられて茂みに倒される。ソフィアさん、こんなところでなにするつもりですか⁉

「いい。声を出しちゃダメよ。あいつらが来るわ」

 ソフィアさんの目の先を追うとそこには五体ぐらいの猪に囲まれたルナが剣を構えている――ってこんなことしている暇ないよ。マジでピンチだよ!

「ソフィアさん、早く助けないと」

「ダメよ。そうした場合こっちに来るし……来なくてもこいつらを一瞬で倒す術が私にはないわ」

 確かにハンドガンじゃ厳しそうだ。それに前にも見たが、ソフィアさんの銃は単発だ。でもこのままじゃ……あっ。

「私を移動させられないの⁉ 私がルナに魔力をあげれば!」

「そうね。ルナならなんとかしてくれそうだけど……でも魔物を飛び越えないといけないわ」


 ルナは魔物を挟んだところにいる――そこに行く手段だけど……だめだ、私には思いつかない。こうなったらソフィアさんに丸投げだ!

「ソフィアさんお願い!」

「そんなこと言われても……あっじゃあこれいいんじゃない?」

 と私の無茶ぶりに答えられるのかおもむろに辺りを見回すと落ちていた鎧を私に渡してくる……丸投げして申し訳ないですけど、意図が分からない。

「えっと……これなんですか?」

「私の銃は魔法銃なのよ。つまり魔力によって銃弾が変形することができるのよ。この能力を使って貴方を撃ち抜かずにあっち側に飛ばすわ」

「……つまりそれは、ソフィアさんの気分一つで私を殺すことができるということですよね?」

「そうね」

 嫌だ。絶対に嫌。

 あのソフィアさんだよ? だめだ。私のなかで信用がなさすぎる……! なんでこんな時にミユちゃんがいないんだ! ミユちゃんがいればテレポートですぐに行けるのに! なんなら一人で全部倒せそうなのに‼

 丸投げした手前、なんとか堪えた私だったけど迫り来る不安に駆られて口にしてしまう。

「嫌です! なんかすごく嫌です! ソフィアさんに命を預けるとか自殺行為もいいところです! お願いで他の方法をお願いします。それかソフィアさんとミユちゃんをチェンジしてください‼︎」

「貴方中々に失礼ね。それにここには私しかいないし、安全にここを渡る方法は他にないわないわ……早くしなさい。ルナが襲われるわ!」

 確かに状況は切羽詰まっている。でも……ううっ。


 ルナ達はまだ睨み合って動いていないけど、いつこの均衡が崩れてもおかしくない……ええい、サクラ。覚悟を決めろ! それに私は力がないんだから、誰かの力を借りるしかないんだ! 命の一つや二つ懸けろー‼︎

 

 私は半ばヤケクソになって、素早く鎧を身に着けると――ソフィアさんが鎧に銃を当てる。ううっ、怖い……! これじゃ映画でよく見る主人公が頭に銃を突きつけられる状況だよ。「ここを撃て」とか私カッコいいこと言えないよ……むしろ「撃つな、撃つな」って言っているモブだよ。

「行くわ」

「お願いします。できれば優しくお願いします」

「そしたら届かないわよ?」

「じゃ、いい感じでお願いまーす!」

「でもなんかこの状況って悪くないわね。私の指一つで二人の命運を握っているなんてなんだか熱い展開だわ」

「早くしたいんです! とっととお願いします!」

 本当にこの人は! ふざけるのやめて欲しい。ってなんか拗ねちゃったけど……あれだよね? ちゃんと飛ばしてくれるよね?

「ソフィアさん」

「いいわ、行くわ。これ言ってみたかったの。爆発オチなんてさいてー」

「それ爆発させて殺すやつですからって――あぁぁあー!」


 銃声が鳴り、私は宙に投げ出される――って結構飛んでる! 良かった。撃たれなかった、私!

 しかもちょうどいい具合に撃ってくれており、魔物の頭上を超えてルナに一直線だ!

「ルナ!」

 私の声にルナが振り返る。

 今まで苦しそうだったルナだったが、私を見るなり目を細めて口元を綻ばせた。

 私は空中に舞いながら、なんとかルナに向かって手を差し出す。

「サクラ!」

 ルナが私の手を掴む。

「やった! 手をって、痛っーーー!」

 私の手に遠心力と全体重が乗る。

 やばいって!肩外れる。

 私の手を掴んだルナはその場で器用に一回転し、体を引き寄せる。恐らく、私に負担をかけないように力を逃がしてくれたんだろうけど、それでも肩ヤバいよ! 私か弱いんです!

 ルナはそんな私をチラ見で確認しつつ、剣を前に構える。

 魔力が剣に集中し、光り輝く。

 ルナが目をカッと見開く。

「ソウル・ブレイド!」

 技名とともに剣を一閃――。


 群がっていた魔物たちは全て真っ二つになり、ぐちゃりと倒れる。

「よし、一掃できた……って、サクラ! どうしたの、そんなぐったりして! 怪我した⁉︎」

「ま……魔力が…」

「あーそっか。ごめん、結構使っちゃった」

 ルナが私の背中を誘ってくれる。でもこうなったのってルナが原因なんだから、マッチポンプなのでは? なんなら自分で暴力して慰めるようなDV男なのでは?

「大丈夫……よっと」

 なんとか意識を保ちながら私は体を起こして、周りを見渡す。一応、この辺の魔物は今のルナの魔法で倒されているようで、襲ってきそうな雰囲気はない。

「で、ルナ怪我ない? なんかもう絶対絶命みたいな感じだったけどっ!」

「うんうん、大丈夫、サクラも無事でよかった……」

 私を抱き締める手が震えていた。それだけ怖い目に遭ったのだろう。私も抱きしめてルナの無事を確認する。鎧とかは削れちゃっているけど、目立った外傷はない。良かった。

「ルナ、抱きしめてもらうのはいいんだけど、めっちゃ汚れた……ひょっとして私で拭いた?」

「……そんな最悪なことしないよ。私の心配した気持ちを返して」

 感動の再会なはずなのに空気が最悪すぎる。だってそう思ったんだもん。

「一緒にお風呂入んなきゃだね!」

 土とか血とか付いた服を見せびらかしながら、私は笑う。

「それはないけど……ほんといつも通りだね。結構な感じで私振られたんだけど」

「いやーそんな日もありました……すいません、マジすいません。反省しています。気まずい関係でした。ごめんなさい」

 ルナの目がすごく冷たいものになっていったので慌てて謝ると、すぐにため息が聞こえた。マジすいません。

「……まあ、とりあえず今はいいよ。まずは戦いに勝たないと。サクラ、後でお話ね」

「はい」

 ……お供させていただきます。

 私はイエスというだけのbotのように頷く。もう怖すぎてなんも言えないです。


 一度怖い目をしたが、すぐに後ろで暇そうにしているソフィアさんに目を向ける。

「ソフィアも無事でよかった」

「ええ、楽勝だったわ」

 そりゃ村にとりに行っただけですしね。しかも服はきれいなままだ……ほんとに戦ったのか? あやしいんだけど。

「とりあえずここの魔物は撃破したし、司令部に行こう。きっとみんな集まっているはずだ」

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