第25話 転生者は転生者のもとに向かう

 暗い道をソフィアさんとひたすら走る。

「ソフィアさん。はあ……はあ……状況は?」

「ルナが一人で抑えているわ。……あなた、足遅いわね」

 そりゃ運動音痴ですから、私。これでも全力なんです。なんだったら抱えてください。

「ていうか、……はあ…ミユちゃんとフェイは何してるんですか」

 あの二人。特にミユちゃんがいれば、なんとかなりそうなのに。

 緊急事態だからかマイペースなソフィアさんも真面目に説明してくれる。助かる。いつもそうしていて欲しい。

「では時系列順に説明するわ。戦うことになって皆んなで集まって作戦会議をしたの。それでミユには強力な一発をかますことになったの。そうすれば敵が恐れて逃げてくれる可能性があったから」

 確かに目の前に落雷とか落ちたら、全速力で逃げるだろう。私だったら腰が砕けてその場から動かなくなりそうだけど……。

「だけど、その思惑は外れて逆にこっちに決死の覚悟で来てしまったのよ」

 ……なんてことだ。

「で、ミユはその一発で終わる可能性があると知って、めちゃくちゃな魔力で撃ったから魔力不足で倒れたわ」

 おい。

「そしてフェイは今回の大規模作戦で気負っていたのか「頑張ってー!」って応援していたんだけど、出しすぎで声が枯れたわ」

 ……フェイは置いておこう。迷惑かけてないっぽいし。

 あとあんま似てないです、ソフィアさん。

「プリーストに回復してもらっていたんだけど、いきなり応援が途切れたことで何かあったんじゃないかって動揺が広がって魔物対応が遅れたわ」

 治療されるプリートストとは。

 しかもしっかり迷惑かけているじゃん。あと冒険者達も優しいんだけど、それで魔物の対応が遅れるのはどうかと思うよ! 

 やばいじゃん。あの二人まったく役に立ってないどころか思いっきり迷惑かけてるじゃん。

 ……まさか。いや、そんなことはなおだろう。ここまで自信満々に、いやでも。

 私はソフィアさんに顔を向けながら、思っていた疑問を口にする。

「ちなみになんで、ソフィアさんはここにいるんですか?」 

「疑いの目はやめて。私は役に立つわ。ミユが倒れたから、マナの実を持ってきていたの。ほら」

 ソフィアさんがバックに入っているマナの実を見してくれる。

 ……。

「それ、マナタイトの方がよかったのでは?」

「…………確かにそうね。いいわ。もう一度取ってきましょう」

「拗ねないでください! それでいいですからとっととルナを助けにいきましょー!」

 私は引き返そうとするソフィアさんをなんとか抱き止める。ぷくって顔はかわいいですけど、ルナが死んじゃうから!


 ソフィアさんをなんとか宥め、走るのを再開する。彼女はちゃんとルナがいるところは分かっているみたいで脇目も振らずに前を走る……前みたいに迷ってないよね?

 てか、走るのキツすぎ。

「はあ……あの……なんか瞬間移動とかできる魔法とかないんですか? テレポートとか」

「あなた相当疲れているわね……言っとくけどミユしか使えないわ……そんなにがっかりしないでよ」

 目に見えて落ち込んだ私を申し訳なさそうに見るソフィアさん。……だってこんなに走んないでいんだと思ったんだもん。ぐすっ。

 私はなんとか早くルナのところに行けないかを模索する。決して私が入りたいからではなくてね。

「ソフィアさん、今すぐ私をルナのところに連れていける方法はないですか? もう走りたくないです」

「あなた、そんな清々しい顔でそんなこと言うの?」

 だってもう限界……ソフィアさんなら……あれ? ソフィアさんってそういえば。

「ってソフィアさんって職業なんなんですか?」

「……さあ?」

「え、えっと?」

「いえ、ホントにわからないのよ。私の職業ってなんなのかしら? 答えて見て?」

「私が質問しているんですよ!」

 なんで本人も分かっていないんだ。最初の挨拶の時に……そういえばソフィアさんには職業名乗られてない!

 考えこむようにソフィアさんは顎に手を当てる。

「でも、ホントになにかしら? 盗賊、銃士、狩人、魔法剣士……どれも私であり、どれも違うわね。そもそも職業っていうひとまとめにしようとしてるのが間違いね。私は職業というもので一括りはできない存在よ」

「なんかめんどくさいこと言い出しましたね……」

「だってほんとにそうだし」

「確かに。では便利屋とか……すいません。ソフィアさん顔怖いデス」

 地雷だったのかソフィアさんがめちゃくちゃ怖い顔で見てくるが、謝ったらため息を吐かれる。案外優しい。

「はあ……そうね。あえてつけるなら万能者ね。近・中・遠距離対応万能アタッカーじゃないかしら」

「なるほど。いろんなものに手を出して、全部中途半端になっちゃった感じですね?」

「……喧嘩を売っているのかしら? 今あなたの周りの空気を薄くすることぐらいは私でもできるのよ?」

「すいませんでした。ほんとすいませんでした!」

 ほんとにやめてほしい。しかもピンポイントで嫌な奴だ。ガチでやめて。

「なら、やっぱりモンスターのほうがいいかしら? 今度は何体もけしかけるわね」

「マジ舐めたこと言ってすいませんでした! トラウマが……私のトラウマが!!!!」

 頭に手を当てながら絶叫する。やめて、本当に! ホントに外に出れなくなっちゃう‼︎


 そんなことを言っていると前線に着いた。衛兵達が沢山いるが、私達に気づいた一人が怒号を発する。

「止まれ! ここからは魔物がいて危ないんだ。すぐに引き返せ!」

 どうすればいい……ってソフィアさんはゴールドの冒険者だ。見せれば通れるか。

「ソフィアさん、冒険者カードは?」

「どっかにあるわ」

 え?

「えっと……ソフィアさん?」

「どっかにあるわ。どっかに」

 絶対無くしたな! なんでこんな時に使えないんだ⁉︎ 入れないんだけど……

「どうかいたしましたか? あら、あなた達は……!」

「ルベリさん!」

 と、ここで女神が現れた……! ルベリさん、最高ー! 隣にいる人とは大違い‼︎ マジ頼れる!

「……なんかひどいことを考えてないかしら」

 ソフィアさんの捨て台詞を聞き流しながら、衛兵達がルベリに事情を説明している。私もところどころ補足しようとするけど「うるさい」と言われて言うのをやめた。泣きそうだ。

「……なるほど。事情は把握しました。彼女はゴールドランクパーティです。行かせてください」

「分かりました」

「ありがとう、ルベリさん」

「いえいえ。今は一人でも戦っていただける仲間が必要です。なので、どうか力をお貸しください」

 助けてくれただけでなくて、お願いまでされてしまう。なんでいい子だ……いや待て、これって詐欺の常套手段じゃないか? 人を助けた後に少しきついお願いをすると受け入れやすいって。私、心理学で見た。案外、この人小悪魔なのかも。

 私の反応を見てルベリさんがペロって舌を出す。

「あっ、バレちゃいました? ですが、お力を貸して頂きたいのはホントです。それほど状況は緊迫としています。あなた方もルナさんと合流後に司令室にお願いします」

 お茶目にしながらも最後の言葉は真剣そのものだった。話の緩急がうますぎる……! もちろん断ることなんてできる感じではない。しかも悪い気しない――これが本当に仕事ができる女。最強だ。

「はい! 合流したらすぐに向かいます」

「ではお互い司令部で。私たちは魔物の足止めに向かいます」

 ルベリさんが私達と別れる。ホントは頼らないので一緒に来て欲しいけど言うことはできないだろう。人気者はどこでも取り合いなんだ。ルベリさんにはにはルベリさんの仕事をしてもらおう。


「さて、行くわよ」

 ルベリさんが離れてソフィアさんが先導してくようと前に出るが……比べるのすっごい悪いんだけどできればチェンジして欲しい。

「はい……お願いします」

「なんか嫌そうな顔ね? まあいいわ。このまま森の中に入るわ。貴方は私の囮になってね」

「嫌ですよ! なんてこと言うんだ‼」

「私は中距離が得意なのよ? なら前線に行くのは貴方。後方は私。適材適所よ。覚醒するかもしれないんだし、遠慮なく走り回っていいわよ?」

「後ろからが怖いんですって! あんた私が魔物に襲われたときも助けてくれなかったじゃないですか⁉ そんな人に背中を任せたくないですよ!」

 ホントになんてことを言い出すんだ! この間のこと私は忘れてないぞ、私は! 

 私が突っ込むと「むぅ」と悔しそうしててくる……ほんとに私を助けない気だったのか、こいつ!

「とにかくふざけている暇はないわ。早くルナのところに向かいましょう」

 ふざけていたのはあんただよ! って言いたかったけどこれ以上遅くなるわけにはいかない……これでルナが死んじゃったりしたらさすがに申し訳なさすぎる。

「行くよ!」

 私達は森に入った――。

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