第24話 転生者は避難する
「サクラ、これも。あとこれも!」
「お母さん、無理無理。こんなに持てないから! しかも商店街のクーポンなんてこんな緊急時にいらないでしょ‼」
避難することになってお母さんと一緒に必要なものを選ぶが一向に行けそうにない。というかもうバッグがパンパンなんだから、もういいでしょ! 私の手は千手観音みたいに手がいっぱいあるわけじゃないし、持てても歩けないから!
その後もこれが必要とかあれがいるとかを選んでバッグに詰めていくと、三十分ぐらいで荷物の整理ができた。
「よし、だいたいオーケーね。じゃあ、行くわよ」
「はい」
絶対にいらないものがあるが、もう言っていられない。非難する方が先だ。
母親がバッグ三つぐらい背負って、チラっとスキー台が見えるけど、もう絶対に突っ込まない。
村に警戒のアナウンスが鳴り響く中、私はお母さんに「持ちな?」と言われた荷物を持ちながらお母さんと一緒にシェルターへと向かう。準備が遅かったからか私達以外の村の人の姿が見えない。
「ほら、サクラもっと走りなさい! 悪くなっちゃうでしょ」
「なんで、鍋持ちながら私は村を走らないと行けないのー!」
「しょうがないでしょ。鍋作っている最中だったんだから……ほら、そんなに揺らさないの! こぼれちゃうでしょ!」
だったら無理だよ! 鍋をこぼさず、かつ早くなんて私そんなに器用じゃないよ!
あとせめて走るんだったら私が前と後ろと手に持っているバッグのどれかいらないでしょ。トレーニングしているんじゃないんだよ⁉
「本当にだらしないわね。こんぐらいでへばるんだったらせめて美少女の一人や二人捕まえて私に献上しなさいよ? 例えばルナちゃんとか」
「娘の傷をエグらないでくれない⁉︎ めちゃくちゃショック受けてるんだよ? 私のライフはもうゼロだよ!」
「軟弱ねー。そんな子に育てた覚えはないわよ。ほら、とっとと走って!」
パワハラを受けながら私は懸命に走る。ホントはこの鍋をひっくり返したいけど、やったら殺されちゃうから必死に持ちながらお母さんを追いかける。
というかお母さんはなんでバッグ三つも持っているのにあんなに早いの? 母は強しなのか?
文句を言いながらも必死に走っていると衛兵達が目に映る。どの衛兵も顔が怖い。必死だ……そんななかでこんなに避難遅れてすいません。私の前にいる人が原因です。
「すいません!」
「……っ! こんな時間まで何をしていた! 早く避難しなさい‼︎」
「はい」
あっこの人、八百屋さんの息子さんだ。
私達に警告しながらも辺りの衛兵は世話しなく、動き回っていた。
見ると近くで魔物と戦っているらしく、悲惨な報告や怒号が飛び交っている。「村の近くに迫っている」とか「冒険者がさらにやられて後退している」など、どの内容もヤバいものが多い。
「あの、今ってどんな状況ですか?」
「君に関係ない。早く避難しなさい!」
衛兵は私に構っている暇がないのか相手にされていない。
「お願いします」
「早く行くんだ! 本当にここは危ないんだ。早くしてくれ」
……中々教えてくれな。だけど私も引くわけにはいかない。もしルナ達が来ているんだったら今すぐにでも帰ってもらわないと! 絶対やらかすだろうから。
「教えて下さい……くれないんだったら私はここで座っています。お母さん、ここで鍋パーティーしない?」
「? いいわよ」
私の意図を知ってかそれとも単純に鍋を食べたかったのかお母さんは乗ってくる。本当にやると思っていなかったのか慌てて衛兵が止める。
「おい、何している。早く避難してくれ! それにあんた親だろう? なぜこんな緊急事態で鍋食おうとするんだ⁉︎」
「腹が減っては戦はできぬ……普通にお腹減ったわ。ご飯まだなのよ」
「なんなんだ、こいつらはー!」
衛兵が苦悶の声を上げている。私もこんな奴らの相手なんて絶対嫌だ。まあでも、文句は私を育てたこの母親にどうぞ。
「ほら、早く教えて下さい。教えてもらったらちゃんと避難します。教えてもらえなければここで酒飲みながら鍋を食べ続けます」
改めて脅迫内容がひどい。なんだ、ここで鍋パーティーされたくなければ状況を教えろとか完全にヤバい奴だ。そしてお母さんはさらに鍋パーティーの準備をし始めた。ヤバいよ、あんた。
「ならばいい、避難しないのならせめて邪魔はするな」
「何言っているんですか? 教えてくれるまで永遠とあなたの邪魔をします。戦っている時だろうが避難させている時だろうが側で結構キツめの匂いの鍋パーティーをし続けます!」
私の渾身の脅迫に屈したのかこんな奴を相手にするのは時間の無駄だと思ったのか衛兵が諦めたように項垂れる。
「わかった……今兵も冒険者も総動員で事態の対処に当たっている。分かったら早く避難をしてくれ」
「冒険者はどこからですか?」
「隣の街からだ。騎士団にも要請して来てもらっている」
「ちなみにその中でルナ……私と一緒にいたパーティは来ましたか?」
「総出だと言っただろう。当然来てもらっている。これでいいか? いいんだったらとっとと避難してくれ」
私が「ありがとうございます」と言うとしっしって手でやらながら去って行った。そっか、ルナ達来ているのか。
私は行くべきか迷ってしまう。ルナのことだろうから大丈夫だとは思うけど……最初にこの村に来た時はボロボロになってはぐれたと言ってた。そのことが今は頭から離れない。
「サクラ、ちょっと止まりなさい」
そんな私の悩みを見透かして、お母さんがあまり見せないような真剣な顔で私の目を見る。
「いい? 後悔しても遅いのよ。人生は意外と短いんだし、素直になりなさい。あなたが今ほんとにしたいことはなに?」
「私は……」
私が今やりたいこと……迷いがあるけど、きっと答えは出ているのだろう。だからこんなにも苦しんだ。
私の後押しをするようにお母さんがさらに言葉を足す。
「それに今のうちに美少女捕まえておくとその先の人生楽よ? 相手探さなくていいし、他の女共が結婚していって慌てるとかないし。それにもし別れても次の女、引っかけやすいしね」
理由が最低すぎる……さすが私のお母さんだ。カッコいいで終わらない。残念すぎる。
「あなたが不幸になるのは全然構わない――どころか爆笑してあげるけど、可愛い子を不幸にするのは許さないわよ」
「うん……だけど爆笑しないでくれない? 引きこもりになるよ」
「それにいつまでもいじけて……ホントに女々しいわ。働くから家にいさせてあげたけど働かないあなたなんていらないわよ」
なんてひどいんだろう……普通ここはカッコよく送り出してくれるものじゃないの? なんで私は緊急事態に迷っているというのに私追い出されて行くの?
「もう迷っているフリするのはやめなさい。あっ、でも鍋はシェルターに持っていってね。私が食べるから」
「台無しだよ!」
ホントにシェルターまで鍋を運ばされて、外に出る。辺りから炎が上がっている……さっきよりも状況が悪いのかも。だけどルナの場所は分かっていない――。
「あっ、サクラじゃない?」
と、考えていると声をかけられる。
振り向くと、長い金髪を黄金のように輝かせた少女が現れた。
「ソフィアさん……」
「うん? なに、あなたシェルターに向かっているの?」
ソフィアさんの質問に胸がチクっと痛む。
「ルナ達は?」
「前線よ。私も必要なものをとりに来ただけ」
「まずいんですか?」
「そうね。あまりいい状況ではないわ」
「……」
なんでいつもこうなんだ。
ただ平和に穏やかに暮らしたいだけなのに、魔物に襲われるなんてある?
だけど今の私には魔力をあげることができる。それにまずい状況だったら尚更だ。ルナには魔力がないから。私の魔力が必要なはずだ。
もう何もできない女の子ではないのだ。
それにきっとこれでルナが死んだら、きっとめちゃくちゃ後悔しそうだから。お母さんにも今のうちに彼女作っておけと言われているしね。
覚悟が決まり、ソフィアさんに向き直る。
「私を連れてって……」
「何? もっと大きい声で言ってくれないかしら? 全く聞こえないわ」
気負いすぎて声が上手く出なかった……なんでいつもこうなるんだ! ああーもう!
「私も行く……! ルナのところに案内して!」
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