第23話 転生者はいつも通り暮らす

 ルナと別れて数日。

 私はいつも通りの日々を取り戻していた。洗濯物を干し、家の掃除をし、二度寝をした。それらは日々のルーティンのように淡白に、そして穏やかに流れていく。


 暇だ……。

 私は地面に仰向けになりながら思う。前の日々が忙しすぎて、いつも通りを願っていたはずなのに……ルナたちと行動していた時の記憶が、ひしひしと蘇ってくる。あのかわいらしい笑顔とか、実は脳筋なところとか、ドライヤーを握り潰すところとか、デートしたときにはにかんだ顔とか……。

 私はいつも通りに戻ったんだ……ただそれだけなのに、なんだか物足りなさを感じてしまう。

 他の三人とも濃密な日々を過ごした。

 天才を自称していて可愛い子供だと思っていた子が実はめちゃくちゃ頼もしい子とか。戦っている時は応援しかしてくれないけど、天使みたいな良い子とか。超マイペースの人の心がない魔物けしかけてくる人とか。

 遭難したり、教会行って変態の相手させられたり、図書館でパシリさせられたり嫌なことはあったけど……良い思い出ではないけど、振り返れば濃い日々だった。

 別れたルナ達との日々はすぐになくなるだろうと思っていたが、それらの体験が衝撃的すぎて私をむしばんでいる。

 何度も数えた畳のシミを数えながら、時計のチャイムが鳴る。あっ買い出しの時間だ。

 いつも通り八百屋さんに向かう道に行くが、隣がすごく寂しい。いつもならルナに軽口を交わしながら、ため息を吐かれるということが今はもうない。


 そういえばルナと初めて会った場所ははここだった。

「あら、しばらくね。おはよう、サクラちゃん」

「おはようございます。すいませんけどこのメモのもの用意してもらえますか?」

「どうしたの? いつもの意味わかんない挨拶とかはいいの?」

「……別に変な挨拶はしてないですよ」

「そんな清楚みたいな挨拶しても、もう手遅れよ? あなた頭おかしい子で通っているんだから」

「私そんな風に思われているの⁉」

 心外すぎる。私はただただある程度の美少女だったはずなのに。

 それに私は今めちゃくちゃナイーブだってのに、なんでこの村の連中(二名)は私をなんか影がある美少女にさせてくれないんだ!

「あら、本当に元気ないわねー。なにかあった?」

 ……あったけど、言いたくない。

 今私は振られた女々しい女みたいなものだろう……まあ、実際は私が振ったようなものなのでもっと最悪なんだけど。

「なんでも。ありがとう、おばさん」

「またね~」

 聞きたそうにソワソワしながらも、聞かないでくれるおばさんに感謝しながら私は八百屋さんを後にする。


 ルナがいた時とは比べ物にならないほど早く日頃の仕事(雑用)が終わる。話し相手もおらず、やることがなさすきてロボットのように手が勝手にやっていた……よくスポーツ漫画に出てくるゾーンやフローだろうか。私は選ばれた女かもしれない。

 超効率的に動いた結果、普段の二倍ぐらい早く終わってしまってどうしようかと考えていると自然に外に出ていた。この道は……あの景色があるところだ。

 なんか自分から振ったくせに女々しいなとは思いつつ――まるでルナとの思い出の道を探るように険しい道を進んて行く。少し筋肉がついている……というわけではないが、こういった道も苦にならなくなっている。ルナ達との冒険の成果だろう。

 少し息切れして到着した景色は相変わらず絶景ではあった……だけど景色を見ても、やっぱり隣がいないことが気になってしまう。

 風が吹くたびにルナが髪を抑えて笑っていたなとかなぜかスカートがめくれないで悔しかったな、と思い出す……ダメだ。ここに来たら気持ちが晴れるかと思ったのに、晴れるどころかもっとルナのことを考えてしまう。

 人寂しく私は日が落ちるまで綺麗な景色を見ていた――。

 

 暗くなってなんも見えなくなって家に帰ると、お母さんがご飯を作ってくれている。今日は鍋かな?

「あら、あんたどこにいたの?」

「外出てただけ」

「そんな暇ならもっと色々やりなさい? 暗い顔していじけている感じ出しているけど、普通にうざいわよ」

 ……ひどくない?

 そっけなく返事した私も悪いけどさ。こんなに落ち込んでいるのにここまでひどいこと言われることある? 私、結構凹んでいるよ。

 私が無言の圧を発するが、お母さんはそよ風程度にしか感じてないらしく「変な目でこっち見ないで」と言われる始末た。ホントに親か、この人。

「ほら、私のために手伝いなさい? しないならどっか消えてなさい。邪魔だし」

「……もうちょっと優しくしてくれませんか? 私、今にも泣きそうです」

 睨んでいるとさらにひどいことを言われたので、素直に言う。「はあー」とため息を吐き、お母さんがジト目で聞いてくる。

「あんた、ホントによかったの?」

「はあー……同じこと言わせないでよ、お母さん。私はここで平和に暮らしたいの」

 まあ、ルナと一緒にって言葉が出てきて私はそれを追い出す。振ったのは自分だ。その自分が思うべきことではない。

「もちろん、美少女とは暮らしたいよ」

 あれほどの美少女を探すってなるとかなり厳しいと思うけど、人生長いしなんとかなるでしょ。今回はその運命の人ではなかったってだけだ。傷心後にきっといい人が現れるはずだ……世界は広いし、女の子はいっぱいいるんだから。

 マッチングアプリで色んな人にアタックをし続ければ、いつかは当たるだろう。宝くじも買わなければ当たらないのだ。さっさと次の女の子を探すのが私のすべきことだろう。

「まあ、あんたのことなんてどうでもいいけど早くルナちゃんを連れて来なさい。あの子はウチの子なんだから」

 ……この人は一体何を聞いていたんだ? ルナを振って傷ついているのに連れてこいとかさ。オーバーキルにも程がある。聞いたら終わりじゃないんだよ! その後も私に優しくしてよ。泣くよ、マジで。

 さらに睨むけどもうお母さんは取りあってくれず、料理をするためにキッチンに行く。

 放置されて私は特にやる事は何もないので、お母さんのご飯ができるまで畳の皺を数える……こういう時にスマホって大事だと思う。私に癒し系の動物の動画を見せてよ。

 私があまりに暇を持て余して、もうすが作り終えそうなお母さんに、料理の手伝いを申し出おうとした時だった。

「緊急事態発生! 緊急事態発生! 魔物達の軍勢が現れたとの報告あり! 村人は至急避難を開始してください! 繰り返します……魔物の――」

 と緊急のアナウンスが鳴り響いた。

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