第22話 転生者は転生者とお別れをする

 ルナとのイチャイチャを見られてから、今日。

 私達は黙って歩く。

 昨日の恥ずかしさもあるけれど、どっちかというと村に近づくにつれて不穏な空気が漂っているせいだ。不気味すぎる。

 今朝から歩いているが、村に向かうまでに誰とも会わない……それに普通の道でもところどころで魔物の足跡が増えていき、私はあの手紙が本物かもしれないと思い始めている。

「ミユちゃん、どう?」

「確かに魔物の足跡はかなりありますが、反応はないです。それにこの足跡的に走っている感じですね。こう、追い立てられているみたいな」

「そっか」

 ミユちゃんは何やら考え込むように言う。襲いに行っている訳ではないらしいけど、こんなに沢山の魔物が追い立てられるって普通にヤバくないか? ヤバい魔物が来て住処を追われたのか? それとも牛飼い的なのがいるってこと? ダメだ。分からん。

「ただ、道を横断していますね。この道的に村を襲っているとは思えなさそうです」

「そうなの?」

「はい。どちらかというと村から離れるように動いています」

「そう。良かった」

 私を心配していてくれていたのか、村を襲っていら可能性が低いと教えてくれるミユちゃん……優しい。後でお菓子とか買ってあげよう。


 その後、偵察も含めて少し魔物の動向を調査しながら村に向かっていく。どうやら報告がてきるぐらいには分かったらしいけど、私にはよく分からなかった。冒険者じゃないしね。

「そろそろ見えてくるよ」

「うん」

 ルナに言われて体が強張る。この先は高台になっており、村全体を見通すことがてきるところだ。

 多分無事だと思うと天才少女のミユちゃんに言われているが、見ないと分からない……私は意を決して進む。


「あれ?」

 村が見えた――がそれは以前のようではなく、鉄檻みたいな立派な柵で囲まれている……私のいない短期間で何があったんだ⁉︎

「なんか、要塞みたいになってる……」

 皆んなも私と同じ感想なのか困惑気味だ。

「どういうこと?」

「まあとりあえず無事そうだし、行ってみよう」

 ルナの声かけに反応し、体を動かす。

 ホント無事で良さそうだったけど、いったい何がどうなっているんだ。


 そんな頭が「?」で埋め尽くされながら門のところまで行くと、若い感じの男の衛兵に声を掛けられる。

「君達、こんなところで何をしている?」

「私達は冒険者です。偵察任務のため、この村に寄らせていただいています」

 ルナ冒険者カードを見せながら説明をしていると衛兵もご苦労様と言った感じで労っている。

「そうか、承知した……そこの君もか?」

 いきなり私のことを見ながら言ってくる。なぜだ? そんなに私冒険者っぽくないか? それとも私を知っているとか……いや、私はこんな人知らないぞ? 衛兵がオレオレ詐欺か?

「なんでですか?」

「いや、君はウチの村にいた子だと記憶している。いつも変な挨拶をされると母が言っていたので覚えている」

「……」

 ルナを含めて皆んなが私を見ている……なるほど。あいつはよく行く八百屋さんの息子なのか。確かにどことなく似ている気がする……そんなことより皆んな私をそんな目で見ないで。別に変な挨拶はしてないよ? ただご機嫌ようって言っていただけだから。

「ええっと……彼女も帰りたがっていたので、偵察のついでに送ってありました」

「なるほど……であれば断る理由はない。入ってくれ」

 衛兵が納得して入れてくれたが、私はこう思う。

 もうこの門は通りたくないと――。


 村に入るとそこには変わらない日常があった。映画みたいに村が焼けているみたいな状況じゃなくて良かったけど、だったらあの手紙なんだったのか……。

 と思っていると手紙を出した張本人が目の前に現れた。

「あら、サクラ帰ってきたの?」

「お母さん、ただいま」

 そこにはいつも通りのお母さんがいて、軽いパニックだった。夢オチか?

 後ろのメンバーが唖然としている中、お母さんはテンション高か言ってくる。

「あら、あんた、良い女ばっか引っ掛けて来たわね! いいわいいわ‼︎ 全員レベル高いわ」

「そこはホントにそう思うんだけどさ……さすがにあんまりだよ!」

 私の叫び声が村中に響いた。


 ここじゃなんだからと家に入ってお母さんに事情聴取をする。

「で、どういうこと? ヤバかったんじゃないの?」

「ん? 私は結構ヤバかったわよ。主にルナちゃんがいなくなって、目の保養がなかったわ」

「いや、そういうことじゃなくて」

 私はお母さんに手紙のことを話すと納得したように。

「ああ、あの手紙ね。あなたが調子に乗ってルナちゃんと結婚するとかお金を要求してくるからでしょ? とっとと帰って欲しかっただけよ」


 私含めパーティメンバーは絶句だよ。

 皆んな、違反してまで来てくれたっていうのにただ寂しかったから愛娘に帰ってきて欲しかっただかなんて……あんまりだよ。

「というか襲われたんじゃないの?」

「そんなこと一言も書いてないてじょう? 確かに何体か魔物が付近に出たらしいけど討伐していたわよ? なんなら皆んなで魔物の肉を分け合っていたわ」

 ひどすぎる……私あんな覚悟決まったって顔したのに……これじゃあ私、ただのバカみたいじゃん。

「あんな鉄檻みたいな柵あったじゃん!」

「何体か来たって言っているでしょ? 壊れちゃったからじゃあもうちょっと良いのにしようと新しくしたのよ」

 理由もそんなに大した理由じゃない! あんなの見たら普通に結構ヤバめの奴が来たっておもうじゃん! 

 私が項垂れているが、お母さんは気にしない。

「ふふ。紛らわしくしてしまってごめんなさいね。あとで依頼料として処理してもらうようにするわ」

「あっいえ、それは良いんですけど」

「あのバカが早とちりしただけよ。私はルナちゃんだけ連れ帰って来てくれれば良かったんだけど、こんなに大所帯になるとは思わなかったわ。良い働きよ。バカ娘」

 感謝するのか罵しるのかはっきりしてよ、お母さん。それにルナを連れ帰らす気満々だったの?

「いえいえ、私もお母様のことは気になっていたので、ご無事でなによりです」

「そんなお母様なんて……やっと決意してくれたのね?」

「えっと……いえ、そう言う意味ではなくでですね」

「あの言葉は嘘だったの? ルナ」

「ややこしくしないでよ! 私がサクラの家族になるなんて言ったことないでしょ、もう!」

 私がお母さんに乗ると、即答でルナにも振られる……私のメンタルはボロボロだよ。私に優しい人はどこ?


「それにしても困ったわね。こんなに来るとは思わなかったから布団が足りないわ」

「いえ、すぐにお暇します。衛兵にもそう伝えておりますので」

「あらいいのよ? 遠慮しなくて。なんならずっといなさい」

「えっと……」

 途中から命令になってるし……理不尽すぎるよ。

「お母さん、皆んな忙しいから」

「……そう? ごめんなさいね。ワガママ言って。だったら明日また来てくれればいいわよ」

「それちっとも譲歩してないよ、なんなら言ってること変わってないよ」

 要求がひどい。私よりも悪質すぎない? ここまで来させておいて自分のために泊まってとか……普通に反省してほしい。

 うわーって若干引きながら見るけどお母さんは気にしない。メンタル強すぎるでしょ。

「一々うるさいわね。そんなに突っ込まないでいいでしょ? それにあなたルナちゃんのエッチな写真は? それがなくても撮って入るんでしょう?」

 ホントに反省して欲しい。


 お母さんが泊まれ泊まれとパワハラしていたが、ルナ達は泊まることなく家を後にする。

「ルナ、ごめんね。こんなくだらないことで来させちゃって。皆んなもホントにすいません」

「いえ、良いわ」

 初めにソフィアさんがフォローしてくれる。あんなに冷たかったのに……好感度は稼げたようだ。

「ギャラはいくらかしら?」


 ――結局は金だった。

 お金は全てを救う。私は誰も救えない貧乏人。

「ミユちゃんもフェイもごめんね」

「ねえ、ギャラは?」

 お金を要求してくるソフィアさんを置いておいて、他のメンバーにも謝る。

「まあ、何体か倒せてお金になりましたし、私としては良かったです!」

「私もミユちゃんと同じだよ。何事も無くて良かったです」

 二人とも天使だよ……どっかの人とは大違いだ。主に右にいる人だけど。

 皆んなに改めてお礼を言ってルナに向き直ると微笑んでくれる――女神だ。

「私も二人と一緒。無事で良かったよ」

 微笑みかけてくれるルナはマジで女神だった。何度でも思う、女神すぎる……。

 それでも懲りずに「ギャラは?」と言ってくる人を無視してルナ達は荷物を待ちあげる。

 どうやらもう街に帰るようだ。


「じゃ、私達は行くけど、……サクラはどうする?」

 ルナは真っ直ぐ見つめながら尋ねてくる。きっとこれが最後の誘いなのだろう。

 もう答えは決まっている。

 こんなに優しくしてくれたみんなに私は望む答えを出すことができない。

 誠意を見せるために今までは冗談みたいに言っていたけど、ここで改めて宣言しておくべきだ。

 ふざけた空気を消して私はルナに笑いかける。

「……私はそっちにはいけないや」

「……わかった」

 少し寂しそうに笑うルナにチクッといた痛みが胸を貫く。

 だけど行くことはできない。だって私はお荷物だし、みんなのように力もなければ自分の生き方を変えてまで冒険者になろうとは思えないから。

 出来るだけ笑いかけながら、手を振る。

「じゃ、元気でね。サクラ」

「うん。じゃ」

 

 ルナ達は振り返らずに村からでて行った――。

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