第21話 村に向かう道

 ルベリと別れて、数時間――。

 私達は村に向かう道をひたすらに歩いていた。村から出れないということで馬車も乗ることができなかったので徒歩だ。めちゃくちゃめんどくさいけど、私が泣き言を言っていられないので、少し暗くなってきた道をひたすらに歩く。


「けっこうこの辺も魔物がいますね……ライトニング」

 本日、四匹目となる猪を倒しながらミユちゃんが世間話を振る。ほんとにミユちゃんがいてくれてよかった。

「そうだね。この間サクラと言ってたときも襲われたけど、この数は異常ね……ってサクラもう少し離れて歩かない?」

「やだ。だって離したらまた魔物が襲ってくるから」

 私は断固放さないっとさらにルナの腕を掴みながらソフィアさんを見る。私は過去から学ぶ女。あんなトラウマもう一回させられるもんですか。

 見られていたソフィアさんが何のこと? みたいに首を捻っている……許せねぇよ、あの女!


「……魔物がいます。三体ほどあの木の影に」

 ミユちゃんが指を差しているがけど、どこにいるか分かんない。まあ、ミユちゃんいたら余裕でしょ。私がたかをくくっていると。

「すいませんが、これからは私の魔法を発動させません。もう日が落ちますので、ソフィアさんお願いします」

「わかったわ」

 ミユちゃんは下がると同時にソフィアさんが前に出る。え? ミユちゃんがやるんじゃないの?

「ねえ、ルナ。なんか応援団の一人のソフィアさんが前に出たんだけど、何しようとしてるの?」

「……サクラ、ああ見えてソフィアはウチのメンバーだよ? あれくらい余裕だって」

「ああ見えては余計よ」

 ソフィアさんがルナの言葉に反応してジト目になっているけど、私からしたらそれどころじゃない。あのソフィアさんだぞ? ホントに任せて大丈夫なのか?


「信じていないようね……良いわ、見せてあげる」

 そう言うと腰にあった銃を両手に前に構える。なんかクルクル回しているけど、こっちの銃弾がこないか心配になる。

「ミユ、標的は?」

「二時の方向。距離三百です」

「分かった」

 パンパン! と光を帯びた銃弾が勢いよく飛び出す。最初にミユちゃんが指差したところら辺に当たり、猪の叫び声が聞こえる。

「おー!」

「命中ですね」

「ざっとこんなもんよ」

 ふっ! っと銃口に口を当ててウインクするソフィアさん。普通にかっこいい。

「あっ、でももう一体います。ソフィアさん、銃仕舞わないで下さい」

「……ええ」

 なんともダサい感じになるが、ソフィアさんはもう一度銃を抜く。再びファルスターから取り出される銃はクルクル回っていなかった。

 もう一度放たれた銃弾は普通にまた命中したが、もう歓声はが上がらなかった……というかダサかった。


 その後もソフィアさんが魔物を狩っていった。あの後もソフィアさんは百発百中で撃ち抜いていたので、冒険者としては優秀なのかもしれない……魔物けしかけてくるけど。

 完全に日が落ちてしまったため、野宿になったが、今回はちゃんとテントと寝袋を用意している。この間と違って気持ちよく眠れそうだ。皆んなもいるし。

 テントの準備ができて、ルナが捌いてくれた猪の肉を食べていたけど、結構ジビエいけた。こんなところでルナの力強さの伏線回収をするとは思わなかった。確かにさばく手際は良かった。


 食事を終え、それぞれ寝床につく。けど中々寝付けない……というか人がいっぱいいるところで眠れない。私は皆んなを起こさないようにテントから出る。

 涼しい風が当たる。気持ちいい!

 ただミユちゃんの防御魔法より外に出ると襲われかねないので、その辺をぶらつく。すると見慣れたシルエットが目に映る。

「ルナ?」

「あっサクラ。もしかしてサクラも眠れない?」

 長椅子のように丁度良いサイズの木に座るルナに「おいで」と招かれたので隣にお邪魔する。

「ルナこそ」

「まあ、私だって心配だし……」

 そう言うと村の方にルナが顔を向ける。私もそれにならって目を向けるけど、よく分からない。

「魔物に襲われるってホントに怖いだろうから……」

「私は森の時に一回味わったけどね」

「あの時はほんとにどうしようかと思ったよ。ほんとに無事で良かった」

「皆んなで私を見送っていたくせに……」

「いや、あの……助けたじゃん」

「はあーまあいいよ」

 なんか釈然としないけど深夜に入ったからか、夜空が綺麗だからか酷いことをされたのにどうでも良くなる……これが深夜テンションの魔力。

「こんな夜で……不謹慎かもしれないけど私は皆んなと冒険できて良かったよ」

「そう?」

「だってサクラはもういなくなっちゃうって言ってたし、一緒に冒険したいなって思っていたんだよ?」

 そっか……まあ、いくら誘われても私はやる気ないけどね。これだけは譲んないよ。


 そう決意しているとルナが肩に頭を預けてくる……ちょっとルナさん、あの……ドキドキします。

「えっと、ルナ?」

「いいでしょ? 最後になるんだから……今はちょっとサクラに甘えたいの……ダメ?」

「あっはい。いいです」

 なんか甘えるのうまくなっていませんか、ルナさん!

 普通にクリティカルヒットです。今にも落ちてしまいそうです!

 ……それとも誰かにも試しているのか。

「えっと、ルナさん誰にもこういうのは良くないと思います」

「……こんなのことするのサクラが初めてだよ? それとも疑ってるの?」

「いえ、私はルナの言うことをすべて信じます」

「信仰心が熱すぎるよ……」

 呆れながらもルナが上目遣いで見てくる……あれなんかこの雰囲気ヤバくない?

 ルナも顔が紅潮しているし、距離も近い。しかもその目も何か期待している感じだ……。え、どうしよう?

 こういう時の経験なんてないよ、私。

 ここは行くべきか……いや、チャンスだったら行くしかない‼


 私はルナにさらに顔を近づける――。

「お楽しみですね、お二人さん」

「きゃああ」

「ぎゃああ」

 二人で叫んで離れる。ちなみにかわいくない声の方が私。当たり前だよね。

「こういうときはキスするぐらいになったら、ドッキリするのがいいんですよ」

「してないよ!」

 ルナが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「そうですよ? やるんだったらもっと遅い時間の方がいいですよ?」

 フェイが優しく言ってくれるけど、そういうことじゃないよ。あともっと遅くなってもどうせ見るんでしょうが!

 ……てか、いつから見ていたんだ? もしかして最初から?

 ルナも同じように思ったのか、恥ずかしそうに皆んなに聞く。

「ちなみにどこから見ていたの?」

「ええ、皆んなで見ていたわ。肩に頭を預けるところもバッチリよ」

 ルナと私の顔が真っ赤になる。

 みっ、見てたの?


「はい、ちゃんと音を立てないように気配を遮断する魔法を使っていましたし、魔法の気配も消す魔法と二つ使っていましたから」

 こういうときのミユちゃんは有能すぎない? ほんとに厄介だ。

「えっとルナさん。すっごく甘えていましたけど……私達にもあのぐらい甘えていいですからね? なんなら膝枕しますか?」

「されないよ……」

「あっルナがしないなら、私がいい?」

「あっはい!」

「なんでサクラがされるのよ⁉」

「膝枕で寝ないとやってらんないよ! 寝ればこの恥ずかしさも忘れられるからし、フェイの足も堪能できるから一石二鳥じゃん! お願い寝させて‼」

「理由が最低すぎる‼ そうやってすぐ触ろうとしないでください‼」

 そんなこと言ってもしょうがないじゃん! 恥ずかしさでキャパオーバーだよ‼︎

 キレ気味でルナの方を向く。

「別にそしたらルナでもいいよ、私は‼」

「そんな理由ならしません!」

「ううっ……!」

 ひどいよ! なんでよ……。

 ルナはもう私の方を見ていない……ても聞いたからな? 理由がダメだと。だったら、なんか理由がいい感じだったらしてくれそうだから、村に帰ったら最後だしとかなんとか言ってやってもらおう。

 私がこれからのことを心の中でメモるとソフィアさんとミユちゃんが呆れ顔だ。

「ほら、二人とももう夜遅いですし。イチャイチャしていないで寝ますよ? 」

「違うわよ、ミユ。こういうときはお二人共、ごゆっくりっていうのがマナーよ」

「そうなんですか?」

「そんなことしないよ!」

「していいんですか⁉」

「もうサクラは黙っててくれないかな⁉ さっきまでの雰囲気台無しだよ!」

 私はフェイの膝枕をされることは叶わずに、騒がしい夜が過ぎていった。

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