第20話 転生者は村に向かう

 翌朝、早速ギルドに集まった皆に事情を説明する。

 お母さんに説明してもらった反省を生かし、基本的にはルナに話してもらった。反省って大事。

「ってルナに説明してもらったけど、みんないいかな?」

 説明をしてもらった一名以外が考え込んでしまう……その一名は説明を私からぶん投げられて不満そうだ。ごめんって。

「事情は分かりました……サクラちゃんのためです。行きましょう」

 そんな風にフェイが言ってくれてミユ、ソフィアさんの順番で同意してくれる。皆んな……!

「では、向かいましょう! 衛兵がいても私に任せて下さい! 全て蹴散らします‼」

「犯罪じゃん! 捕まっちゃうよ!」

「そうですか? では皆さんで仲良くぼこしましょう! なんなら負けた姿を写真に撮って口止めしましょう!」

「だめだよ!」

「ミユ、さらって恐ろしいこと言わないで! ダメに決まってるでしょ!」

 私とルナが珍しく反対で一致する。

 さすがに皆んなを犯罪者にするのはマズイけど、なんでこんなにミユちゃんはノリノリなんだ⁉

「そうよ、ミユ。見つからないようにサクッてっちゃうべきよ」

「さらにダメだよ! 何言ってんのソフィアさん!」

「いいですね! なんなら、フェイにそのあと回復して貰えばいいんじゃないですか? そうすれば衛兵達も「俺たちは一体何を……」ってなりますし、私たちがやったとは思われません」

「もっとゲスくなっちゃった」

「ミユ、天才ね。その案でいきましょう」

「でも、私……蘇生魔法なんて使えませんよ?」

「そういうことを言ってるんじゃないよ!」

 フェイまでも⁉︎ ちょっとここのパーティ、ちょっと血の気が多すぎるよ! 全員、犯罪者になりそうなんだけど!


 私とルナはなんとか犯罪をしないように議案を回しているとルナから提案される。

「まず冒険者カードがいります!」

 私はルナを見るが、なんかそっぽを向かれる。おい、こっちを向け。無言でルナを見つめているとミユちゃんが納得したように頷く。

「え? なにミユちゃん」

「私たちは幸いにもゴールドランクの冒険者です。ゴールドランクのパーティメンバーであれば、偵察とでも言えば街を出れる可能性があります」

 そっそういうものなの? じゃあ、なんであんな危ないことしか提案してこなかったの? 普通に外に出れそうじゃん!

「確かにそうね。ここはプラチナランクの冒険者までしかいないし、普通に可能性はあるわ」

 ソフィアさんまでも同意してくれる……いや、ソフィアさんの言うことはあんま期待できないな。だが意外にもいい案だ。普通に通してくれそうだし、何より犯罪臭がしない。

「なので、すぐにサクラさんを私達のパーティに入れて、偵察に出ると言って門に行きましょう。大丈夫です、プレゼンは私に任せてください」

 ミユちゃんが自分の胸を叩いて、方針が決まった。

「……ねえ、それってこれを口実に私をパーティに引き入れようとしてない?」

「……さあ、早く行きましょう」

「ねえ、答えてよルナ! ねえ!」


 冒険者カードの登録後、私達はすぐに門へと向かった。

「ねえ、衛兵がいるよ? どうするの。向こうに回るとか?」

「何を言っているんですか? 普通に堂々と行きましょう。コソコソしながらの提案なんて怪しさ全開です。なのでここはさも当然のように行きましょう」

 ミユちゃんの言い分に皆んなが同意して後に続く。当然のように衛兵に止められる。

「なんだ、君達は? 早く街に戻りなさい」

「私達はこういうものです」

「君たちは、ゴールドランクか……そしたらここから行かせるわけにはいかない。この先は本当に危険なんだ。偵察隊にはプラチナランク以上との命令が出ている」

 えっそうなの? いきなり躓いたんだけど。

 ミユちゃんもそう思ったのか、少し驚愕していたがすぐに持ち直す。さすが天才少女!

「ですから提案です」

「提案?」

 訝しむ衛兵達にミユちゃんは自信満々に詐欺師のように提案する。パソコンがあればプレゼンのパワーポイントを見せてそうだ。

「はい。今回の任務はプラチナランク以上が提案となっていますが、現状プラチナランクのパーティは一パーティしかありません。それでは効率が悪すぎますし、そのパーティに何かあったら何もできません。ですのでゴールドランクのパーティも偵察に加えて頂ければと思うんです!」

 私からすると完璧と言えるようなプレゼンだ。てか、プラチナ以上とか言っておいて一パーティ以外いないの? そのパーティしかいないってどんだけブラックなのよ……。

 ミユちゃんの指摘は的を射ているのか、衛兵達も「そうだな」と納得している感じはしている。いけそう?

「……確かにそうだが、それは私の一個人の判断ではなんとも言えない。ギルドに一度提案してくれ」

「はい?」

 完璧なプレゼンに思えていたが、思わぬところを突かれる……というかど正論だ。確かにギルドに提案すべきだろう。衛兵に提案するような内容じゃない。

 ミユちゃんも反論できる言葉がないのか拳を握っては下ろしている。

 私はミユちゃんに「じゃあ、ギルドに行こう」って言おうとするんだけど、ルナが止める。

「ギルドに提案はまずいんです」

「なんで?」

「私達は一度任務を失敗していますし、サクラは入ってすぐに偵察任務ってなるのは難しいんですよ」

 なるほど……入ってすぐに危ない任務をするなんて確かに危なすぎる。それも高ランクの冒険者の内容だ。うん、無理そうだ。

「どうした? 早くギルドに行ってきなさい」

「そうですか……そうですね」

 ミユちゃんは諦めたのか私達のところに帰るべく衛兵達に背を向けるが……なんか口動いている。えっ、ダメだよ? さっきの提案、冗談じゃなかったの⁉


 ミユちゃんが瞳孔を開いて衛兵に魔法を使おうとしたその時――。

「どうかされましたか?」

 プリーストのような格好をした美少女が現れる。茶髪のウェーブがかかった長い髪に、白い肌。どこか儚げな美しさを持ち、清楚な感じの振る舞いがところどころ見られる、それはもうすごい美少女だった。

「ルべリ様」

「はい」

 ルベリと言われた少女は衛兵と私達の事情を話しているようでチラチラとこちらを見てくる。

「ルナ、あの人って?」

「あの方はルベリさん。この街唯一のプラチナランクの冒険者です。つまりこの街で最強の冒険者でもあります」

 あの人がこの街の冒険者……女なんだ。この街の強い人はきれいな人ばっかなんだけど、どうなっているんだ。

 衛兵とルベリの話に交じってミユちゃんも会話に加わる。

「ルベリさんのパーティだけでは大変だと思いましたので、私たちも偵察をしようかと提案していました」

「そう仰っていますが、そういう訳にはいきません。規律に従って出すわけには」

 お互いの言い分を聞き終えて、ルベリは手を叩いてにっこりと笑う。

「いえ、それは良い提案でしょう。私たちしか偵察がいないのは問題でしたし、彼女達はゴールドランクで実力も知っております。街から出しても問題ないでしょう」

「ですが……」

「ギルドには私から報告しておきます。今は一刻を争いますので」

「……承知致しました。ルべリ様がそう仰るなら」

 ルベリの言葉に衛兵は納得していなかったようだが、やがて渋々頷き、私達は外に出ることができた。

 

 街を出た後すぐにルベリ達にルナがお礼を言う。

「ありがとうございます。ルべリ様」

「いえ、かまわないですよ。偵察隊が少なかったのは確かです。それに少しぐらい偵察隊の報告が遅れてもに二パーティのみなら仕方ないでしょう」

 ルベリはキッチリしていたのは崩して、人差し指を手に当てていたずらっ子のように笑う……そんな風にするのはやめてほしい、惚れちゃうから。

 ただこちらが言う前に私たちの目的を知っているのが、少し怖い。

「ふふ。そんなに怯えないでください。ただの推理ですし、見ていればわかりますよ。そちらの方が村に帰りたいのでしょう?」

 怖い怖い……! 怖すぎる。

 めちゃくちゃ当たっているんだけど! 何この子⁉ 心を読むの⁉ 

「ふふ、これ以上はやめておきましょう。可愛い方にこれ以上怖がられたくはありませんからね」

「サクラ大丈夫。この方はソフィアと違ってほんとに洞察力が高すぎるだけだから」

「私も高いわよ?」


 みんながソフィアを見て固まる。あのルベリさんまでも。

 ルナが硬直から逃れて、ルベリさんにお礼を言う。

「ほんとにありがとうございます」

「いえ……ですが偵察もお願いしますね。報告を期待しております」

「ふーん。私のこと無視するんだ。ふーん」

 帰りそうになるソフィアさんをなんとか宥めながらルベリ達と別れる。

 こうして最初の関門を突破できて私達は村に向かった。

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