第19話 転生者は故郷を想う
拝啓 自意識過剰の娘へ
お母さんです。
あなた相手に挨拶するなんてごめんですので、このまま本題に入ります。
遊んでないで、とっとと帰ってきなさい。
なのでお金を送るなんてまっぴらごめんです。
それに今、お母さんはかなりやばい状況になっています。あなたのような親不幸娘に頼らなければいけないほど、切迫しております。
なんか体調も悪い気がするので、早く帰って私のために働きなさい。
P.S
ルナちゃんのエッチな写真は送るといっていたのにまだ届いていません。
ホントは撮ってあるんでしょう?
あるんだったらとっととよこしなさい。
お母さんの手紙をもう一度よく読む。
……ふざけているようにしか思えないが、万が一の状況でもお母さんならふざける可能性が高い。
「どっちだ……これはマジなやつか? それともルナの写真が欲しいだけか?」
真剣に悩むが、お母さんに聞かない限り分かりようもない。それにホントに行かなかったら、私は人の心がない最低な娘になってしまう……この手紙を出された時点で行く以外の選択肢がない。
「サクラ、ここにいたんだ」
私がうーんうーんとテラスで意味もなく歩いているとカーディガンを羽織りながら、ルナが出てくる。絵画とかにありそうだ。
「ルナ……」
「やっぱり心配?」
優しく聖母のように声をかけてくる彼女。どうやら私の挙動不審な動きが相当気にさせちゃっているのだろう。
「うん」
「そうだよね。心配だよね……」
「……まあ、あの人のことだから何でもないようにいそうではあるんだけどね」
ホントに何でもないような感じもする。というか九割ぐらいは何でもない感じするんだよね。とっとと私に雑用を押し付けたいからこんなのを出している可能性の方が高い。
「ふふ。ほんとに元気なお母さんだもんね」
「うん……でも、そんなお母さんがこんな手紙よこすからさ」
私を育ててきてくれた母親だ。心配じゃないなんてやっぱり思えない。でも、うーん。
そうして心配していたルナが打って変わって、にっこりしながらこちらに向き直ってくる。
「はい。どうぞ」
「えっなに?」
ルナが手に持っていたクッキーにフォークを刺して私の口の前に運ぶ。好きな子にアーンしてもらえるということで大変いいんだけど、急にやられたら怖い。なに、マジで。
「ほら食べて?」
「えっと」
「食べる」
「はい」
有無を言わさず食べさせられる。少し警戒していたけど……別に薬とかあやしいものは入ってないようで普通においしい。まあ、判定なんて出来ないけどね。
自分が倒れないことを確認しながらルナに尋ねる。
「なんでこんなことを?」
「まずは腹ごしらえ。たくさん悩んでカロリー使っただろうし、一旦休も?」
「あっうん。ありがとう」
「それにソフィアともデートしてアーンしたんでしょ?」
…………。
「さっき聞いたよ? サクラにアーンしてもらったって」
いや、あのですね? したくてした訳じゃないんですよ? それに本を読んでいるからと食べ物を買わされて、食べさせただけです。あと私は食べさせられてはないんですが。
なんかルナの笑顔が逆に怖い……というかソフィアさんは何言ってるんだ。冷や汗が止まんない……こんなの浮気の原因を聞かれる彼氏みたいだよ! まだ、付き合ってないのに!
「しかも、その前はフェイとだもんね……サクラはかわいい女の子だったら誰でもいいのかな?」
少し前かがみになりながら後ろに手を組んで微笑むルナ。単純に怖い。
かわいいんだけど……あの、あの。
言葉を忘れてしまったように頭がショートした私を見て、ルナがおかしそうに笑い出す。
「冗談だよ……この間も言ったけどサクラがメンバーと仲良くなってくれるのは嬉しいよ」
「ルナ」
「まあ、仲良くしすぎると嫉妬するけど」
上げて落とすのがうまくなったね、ルナ。
さらにいじわるをされて、泣きそうになる……ルナってやっぱりヤンデレ系?
さらに冷や汗をかいて背中がビショビショになっている私とは対照的にルナは楽しそうにように笑う。
「ふふ、嘘だよ。もっと仲良くしてくれていいんだよ? パーティから離れられないように」
「それはそれで嫌です!」
どれだけ私をパーティに誘いたいんだ! そんなかわいい顔しても入んないし!
前の清楚なルナから小悪魔なルナにジョブチェンジしている。しかも外堀を埋めてくるタイプ。厄介この上ない。
二回目のデート以降、殻が向けている。私の思いとは全然違うほうにね!
お互いに言い合っていると途端に沈黙が訪れてしまう。どうやらルナには私の思いなんかも筒抜けのようだ。
私の言葉を待ってくれているルナに言う。
「……帰ろうと思う」
「そう」
「多分何ともないとは思うんだけど、やっぱり帰ろうかなって」
「わかった」
私がルナに近づくとルナが手を広げようとしてそしてやめる……なんで?
「……こういう時はハグして欲しいんだけど」
「そういう口実を作ってあわよくば私のこと触りたいくせに」
「そりゃ、いつだってルナには触りたい……触りたいけど、ここは普通にハグして欲しいです」
「そういうの言うからいけないんだよ?」
しょんぼりした私を見てルナが笑いながら、手を広げる。
「ふふ。意地悪してごめんね。はい、どーぞ」
「わーい」
私は言われた瞬間にすぐに飛び込む。こんな機会ないからね。こんなことを言ってくれたルナの提案を無下にできないよ。私は恥をかかせない女だ。
「触ったりしたら、分かっているよね?」
耳元で囁くルナの声にビクってなってしまうが、私はルナを離さない。もちろん手は動かさない。私は無闇に人の体を触るようなデリカシーがない女ではないのだ。うん。
「柔らかい……」
「なんでこんなときでもそういうセクハラ発言するかな……普通さみしいとか言う場面だよ、まったく」
お互いにさっきよりも少し力を入れる。
村に帰ったらもうこうすることもないのだろうから。
何分かたってからお互いに無言で話して向き直る。
「一応連れて行くことはできる……すごく危ないかもだけど……それでもいい?」
ルナがそう言ってくれてているのに、連れて行ってもらう側の私がク良くそしていられない。ルナもきっと心配なはずだから。
私も覚悟を決める。
「お願い。私を村に連れてって」
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