第15話 転生者は厄介者に絡まれる
「ほらほら、俺達と遊ぼうぜ、お姉さんら」
「そうそう。一緒に遊ぼうぜ」
どうしよう……典型的なやつだ。
ナンパだ、ナンパ。前世では一度だってされたことがないのに、転生したらされてしまった。やはり私は美少女的…罪な女だ。
「嫌です。行くよ、サクラ」
ルナが私の手を引っ張り、ナンパをしてくる男達をスルーして行こうとすると男達が前に立つ。
「いやいや、絶対俺達と遊んだ方が楽しいって。なー奢ってあげるからさー」
「そうそう」
「いえ、私達は二人で楽しんでいるのでお気になさらず」
ルナが低い声で威圧するが、男達は飄々としている。てかルナ、私に向ける顔より怖い。まだ上があっんだ。こっわ。
「いいじゃん。二人とも可愛いんだしさ」
「おい待て、こら」
私は今の言葉を信じられず、男達に向かってついつい口を挟む。
「私とルナを同じ可愛いさで語るんじゃないよ。私は十人……いや、百人に一人の美少女だとしてもルナは百万人の一人の美少女だぞ? 同じ土俵で語るとかルナに失礼って思わないの?」
「あっうん」
「大体さー。ルナみたいな美少女に対等に声をかけることすらおこがましいだよ。一緒の空気吸えるだけでありがたいと思いなさ――いったい!」
私が推しのことを語っていると推しが叩いてくる。
「サクラは一体何言ってるのよ? そんな風に私のことを思っていたの⁉︎」
「何言ってるの! 私の推しを口説こうとしているんだよ? やっぱそれそ相応の人じゃないといけないじゃん! なのにこの人達、私程度とルナを同レベルの可愛さって言うんだよ⁉︎ そんな奴が私の嫁を口説かないで!」
「厄介オタクだよ、その思考は」
「じゃ、どこがかわいいのか言いなさい! ほら、早く!」
「いや……ええっと」
さっきまでの威勢はどこへいったのか、男達はいきなり豹変した私に対してたどたどしい。なんか私を見る目がヤバい奴に対して向ける目だけど知ったことか。
「はーまったく。そんな聞かれて言い淀むとかルナのオタクとしての自覚がなさすぎじゃない? そんなんでルナを語らないで」
「私、アイドルとかユーチューバーとかじゃないから。全然言えなくて普通だと思うよ」
「何言ってるの。ルナは私の嫁でしょ?」
「事実はそんなことないよ。それはサクラの脳内だけだよ」
「そんなー!」
ひどいっ! 私のことは遊びだったのね。
そんな風に推しとイチャイチャしていると呆然としいてた相手がついにキレ出した。
「意味わかんなねぇし、うるせぇな。てめぇの言い分なんて知らねぇよ。とっとと来やがれ!」
「こんな新婚感出しているのに、まだ諦めないの? ルナは私が時間かけて口説いているんだから邪魔しないでよ! じゃ、ルナ後頼んだ」
「なんでサクラがケンカ売ったのに私が買わないといけないの⁉︎」
ルナに全てを丸投げして私は推しの後ろに隠れる。だって戦えないし、怖いもん。
数十秒後――。
「覚えてやがれ!」
漫画のような小物感溢れるような捨て台詞を吐きながら去っていく。ホントに小物だ。
あの後ルナにはかすり傷一つ付くことなく、男達を投げ飛ばしまくっていた。なんなら見ているこっちが可哀想に思うぐらいだった。ご愁傷様です。
「ありがとう、ルナ」
「サクラも喧嘩売らないでよ? 結局私が買わないといけなんだから」
そんな風にルナの勝利を讃えている時に後ろから声がかけられる。
「君達、ここで何をしている?」
物陰から出てきた女性を見て、思わず息を呑む。
すごくきれいな金髪をポニテールにしてまとめており、幼すぎず、でも大人っぽい超綺麗。それに声も透き通っており、完璧超人みたいな人だ。しかもソフィアさんよりも背が高い。最強だ。
……ルナもこの街だったし、レベル高すぎないか? ここ。
「あなたは誰です?」
「いきなり声をかけて悪かったね。怪しい者ではないよ。私はこの街の騎士団長を務めているランセアという者だ」
ランサアと名乗る彼女の職種を聞いて、一気に悪寒が走る……サツだ。
「私たちは何も変なことはしてないですよ⁉︎ ルナがあいつらをぼこしただけです」
「私を売るの!?」
「しっかり罪を償うんだよ……ちゃんと月一で面会に行ってあげるからね」
「ははっ」
私達の悲劇の女ごっこを、笑い声で打ち消す。案外気さくな人なのかも知れない。
「はは。状況を見れば分かるさ。大方しつこくナンパされて、それを撃退したのだろう。特に君たちを罰を与えようなどとは思っていないよ。むしろ騎士として、女としてよくやったと言いたいぐらいだ」
いい人だ……!
よく見る勘違い理不尽状況になったいない……やはり私は豪運の転生者なのかもしれない。
ちょっと調子に乗ってしまう。
「そうですよ。治安どうなってるんですか?」
「ちょっと」
私が隣から肘打ちを食らう。だって怖い目に遭ったんだもん。少しぐらい意地悪したいじゃん。
そんな私の皮肉もランセアは優しく受け止める。
「うむ。それはすまないと思っている。騎士が近くにいながら何も出来なかった……すまない」
ランセアが深く頭を下げる。
……こうちゃんと謝れるとホントに申し訳なく思っちゃう。というかこの人はなにも悪くないので、私の理不尽すぎる八つ当たりも受け止める。なんか、ホントにすいません。
「いえ、調子こいてすいません」
「ふふ。いやいいさ。困っている人を助けられなかったのだ。責められても文句は言えないよ」
聖人かな? なんか目の前にあまりにもすごい人がいると相対的に私がクズ人間に見えてしまう。
「すいません。ありがとうございます」
「君たちは素直な子だね。それに最後の方に見えたが、君はなかなか強いね」
ランセアがルナの方を見る。
「冒険者をやっているので」
「なるほど……でも君の動きはどこか騎士学校の面影を感じたのだが」
「はい。私の父は騎士でしたので、父から教わっております」
「なるほど……通りで似ているわけだ。しかもかなり鍛錬されているように思える。君がいると騎士団もありがたいのだが……」
ランセアがルナをチラッと見る――これって勧誘ってこと?
ルナはびっくりしていたけど、すぐに申し訳ないと言ったように頭を下げる。
「……お誘いは誠にありがたいですが、今の冒険者として過ごす日々が楽しいのです」
「そうか……残念ではあるが仕方ない。ではまた任務で共にするときもあるだろう。そのときはぜひぜひ頼りにさせてもらおう」
ランセアがカッコよく去って行った後に私は少し俯いているルナに耳打ちする。
「良かったの?」
「はい」
「騎士は小さい頃目指してたんでしょう?」
「昔の話だよ。それに冒険者として生きる方が気楽だし。それにあの子達の日々はホントに楽しいしね」
どこか吹っ切れたように笑うルナはホントに後悔したいようだ。
「それにサクラが入ってくれればもっと楽しくなるだろうし」
「まだ諦めてなかったの⁉︎ 私、入んないって言ってるじゃん‼︎」
私のことはまだ諦めていないのか調子が戻ったルナがまたいじめてくる。ホントにやめてほしい。いじめ、ダメ、絶対。
そんな波乱も起きながら二度目のデートが終わった。
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