第16話 転生者は薬草を買いに行く
「えっルナ?」
昨日デートが無事に終わって朝起きた時だった。
私より早起きなルナの顔が目の前にあり、そのルナの顔が赤い……しかも呼吸も荒い。
さすがにふざける気にはなれなずに覗き込む。
「ルナ大丈夫?」
「ん……大丈夫だよ。サクラかわいいねー」
異常だ……だめかもしれない。
あのルナが起きて一番に私のことをかわいいと言う訳がない。いつも自分の体に何かされていないか確認するルナだぞ? 絶対ない。けど嬉しい。
「熱をとりあえず測ろう」
さすがに病人に向かって何がするなんて気が引けてできないけど、はだけたパジャマとか色っぽい息遣いとか、トロンとしながらこっちを縋るように見る美少女とか。これダメなやつだ。
私はビジネスモード(イメージ)で患者さんの処置に当たる。あの横文字を使いまくる感じだ。眼鏡をしていたら、絶対にクイクイしていただろう。
「では、体温を計らせていただこうと思います。ルナさん、体温計はどこにありますか?」
「その棚の中」
「はい、棚ですね……ありました、ありました。では熱を測って欲しいと思います。ご自身で測れますか?」
「サクラ測ってー」
「そうですか……って、測んないよ⁉︎ パジャマのボタン開けようとしないで!」
ルナがパジャマのボタンを躊躇なく開けできたので、慌てて止める。
私のビジネスモードはめちゃくちゃ脆く、はだけたルナにめちゃくちゃテンパっていた。
ちょっとルナ無防備すぎるよ! これなんかエッチじゃない? キスするぞ。
「これぐらい大丈夫だよ」
そんな私に目もくれずに起き上がろうとするが、うまく立ち上がれていない。やっぱりダメそうだ。
「ダメ。ここで寝てなよ、ルナ。なんか薬買ってくるからさ」
私はそう言って立ち上がろうとするけど袖口を掴まれる。
ルナの方に顔を向けると困り顔で口元に布団を持ち上げながら。
「そばにいてくれないの?」
…………破壊力が高すぎます。
弱っているからかいつもよりも不安そうな顔で見てくるルナはギャップも相まってめちゃくちゃかわいかった。
なんとかルナの誘惑を振り切って(ルナが眠るまでそばにいた)、プリーストのフェイさんと私は大通りに買い物をしに来た。
一応ルナには薬を飲んでもらったんだけど切れたらしい。それと冒険のためにもいくつか買っておきたいそうだったので、暇だったのもあってご一緒した。あんなルナと一緒にいたら理性が吹っ飛ぶ。
「じゃあ、回復魔法でも病気は直せないんだ」
「そうです。回復魔法はあくまで傷を治すだけで、細菌とかを殺すことはできません……なので市販のポーションや薬草は必須なんです」
薬局に向かう道中、フェイさんが回復魔法について解説してくれる。
なるほど。確かにそんな病気を治せるなら薬なんて売ってないだろうし、とっととプリーストを増やした方がいいもんね。
「フェイさんは作れないの?」
「一応薬草の知識はあります……ありますけど、うまく作れないことが多いんです。なのであまりひどい傷でないときは作りますが、風邪とかは悪化させるといけないので買うしかないんです」
日本とは違うってことだよね……。あっちの世界だと風邪の処方薬とかあってすぐ直る病気と言われているけど、こっちの世界だと結構重めの病気なんだそうだ。
「あと、フェイで大丈夫です。私もサクラちゃんて呼びますから」
「分かったよ、フェイ」
私のさん呼びが変だったのかそう言ってくれる彼女に甘えて呼ぶと嬉しそうに「はい」って言ってくれる。かわいい。
「……まあ、ルナが倒れた原因はストレスからくる心労でしょうね。ただでさえ魔物にやられて、一人になってしまいましたし……サクラちゃんが遭難した時も結構取り乱していたんですよ」
「そうなんだ……」
そっか。忘れがちだけどルナってばめちゃくちゃ大変な目に会って、私と会ったんだもんね……そりゃ、疲れがたまっていないはずないよね。
それはそうと取り乱したって?
「取り乱したの? ルナが?」
「はい。それはもう」
後でルナを抱きしめに行こう。
私がそう誓っていると街の薬局に着いた。
「すいません。ポーションを買いたいのですが」
「ああ、はいはい」
フェイがテキパキとポーションを買っていく。
……なるほど、店に行くときは「ごきげんよう」ではなくて「すいません」なのか。
「これで結構買いそろえましたね」
それからあちこちのところで薬草やポーションを買うとすっかり昼頃になっていた。
「そうだねー。とりあえずどっかでご飯食べよっか」
「はい!」
私とフェイは流行りのカフェに行く。
これは浮気じゃない。単に可愛い女の子と買い物に来てご飯を食べているだけだ。
私はなぜか浮気している最低女みたいに思っちゃったので一人で言い訳を繰り返している。一体私は誰を納得させたいんだろう。
「じゃ、もう帰る?」
「あっでも、教会にも寄っていいですか?」
「いいけど……なんで? もしかしてお祈り?」
「それもそうですけど、聖水をもらってきたいんです」
聖水……なんだっけ、それ。
前世のゲーム知識だと……悪魔とか?
「悪魔退治にでも行くの?」
「冒険していると不測の事態は常に予測しておく必要があるんですよ。それに私は普通の魔物との戦闘では役に立てません……それなら専門のアンデットとかがいつ現れてもいいように準備だけは済ませておきたいんです」
意外といい子だ……冒険している時はまったく助けてくれない子だとしか思っていたのに……いい子だ。
どっかの魔物をけしかける人や絶体絶命の時しか助けてくれない子供とは違うのだ。
「私は何もできません……であれば囮役や声が枯れるほどの応援も苦ではありません。役に立つのであれば私はなんでも喜んで行います」
はにかみながらフェイに癒されながら思う。囮役もともかく、声が枯れるまで応援しちゃうと魔物が音に寄って来そうだけど……きっとそんな状況あんまりないんだよね?
少し疑問には思いつつも私はフェイをいい子認定して教会に向かった。
「おおー。ここが教会か」
着いた教会はなんというかRPGでよく見かけるような普通の建物だった。
フェイは着いた途端に聖杯を取りに向かったけど、はっきり言って私は懺悔とかする気はなかったし、教会内で何をしたらいいか分からないので、教会付近をぶらついていた。すると。
「うえーん。うぁああー!」
「泣いてもダメです! 真実から目を背けてはいけません!」
見て見るとプリーストの格好をした大人が子供を泣かせている⁉︎ 虐待じゃん!
「そうやって泣いているのも、子供のうちだけで、ぐはっ!」
私はとりあえず子供を泣かしているやつを引っ叩く。
「大丈夫? 僕」
「うぇぁああーー!」
大号泣である。どうしたらいいか分からず、オロオロしていると叩いた男が立ち上がってきた。意外とでかいな、こいつ。
「ちょっとあなた何するんですか! 今信者の子に説法と称した怖い話をしていたところなのに!」
「最低! 泣いてるんだからやめてあげなさいよ!」
「後叩くだったら言ってください! そしたら私も叩かれるのはやぶさかではありません!」
「ドMじゃん! きもいわ!」
「ありがとうございます!」
私がもう一度ぶっ叩くとそいつは満面の笑みでお礼を言う。マジできもい。
マジでドン引きしていると、聖杯を取りに行ったフェイが迎えに来る。
「何をしているんですか、二人とも」
「聞いて、フェイ。こいつ変態なんだけど!」
「そんな風に言っちゃダメですよ? ってその人は」
「ふははっ。いやーいいお嬢さんだ。叩かれて気持ちいいよー」
「ほら、ヤバいやつだよ! 早く偉い人呼んできて!」
「サクラちゃん、その人神父」
「えっ?」
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