第13話 転生者は帰りたい
遭難して翌日――。
ずっと焚き火をしていたからか、ミユちゃんが防御魔法をやっていてくれていからか虫にくわれたり、魔物が襲ってくるということはなかった。
「おはようございます」
ミユちゃんが少し眠たそうに挨拶する。
「おはよう……」
私も寝れてない……体のあちこちは痛いし、時々魔物の声はするし、ミユちゃんは離れて寝るしで最悪の目覚めだ。ホント布団は偉大だ。
「ねえ、ミユちゃん。トイレはないの? あとは鏡と化粧水は? あっ、髪の毛ボサボサだからお風呂に入りたいし、なんで私の近くで寝なかったの?」
「そんなもの森の中にはないですよ……化粧水ならその辺の水があります。お風呂もその辺の水で沸かせばいいですし、鏡もその辺の水で……で、寝なかったのはなんか危ない感じが……ぐう」
昨日の夜とは違いミユちゃんは頼りにならない。
さすがに私もロリコンじゃないけど、危険視されていたようだ。悲しい。
「とりあえず起きよっか、ミユちゃん」
「……そうですね。起きましょう」
川の水で顔を洗って身なりを整えると二人共頭がはっきりしてきた。
「よし、とりあえずだけど……」
遭難してやるべきことって何があるんだろう? 食料の確保? 見晴らしのいい場所に移動? ……やべえ、わからん。
「で、ミユ先輩。これからどうするんですか?」
「はあー私だよりなんですね……まあいいです。ではとりあえず上を目指しましょう。魔力も少し回復しましたし」
私の投げやりな発言にも、ミユ先輩はいつも通りに返す。これが冒険者。面構えが違うぜ。
「そういえばなんか手っ取り早く帰れる魔法とかないの? テレポートみたいな?」
「ああ、あれは場所を決めていても、半径二キロぐらいしか移動できないんですよ。しかも上には行けません。なのでここでやっても意味わかんないところに飛ばされるだけです。使われ方の基本としては歩くのがめんどくさいときと戦闘中に瞬間移動するためですかね」
「えっ、登録さえしていればどこでも行ける魔法じゃないの⁉」
「……何を参考に言っているかわかりませんが、そんな魔法あったらどんな人でもその魔法を真っ先に覚えますよ」
そっか。というか確かにそうだな。冒険者や騎士だったら絶対に覚えさせるはずだ。
ゲームとかによくある魔法なのに……そんな便利な魔法はないか。
「まあ、転移門っていうものはありますから、あながちないというわけではないですよ?」
「そうなの?」
「はい。けど設置するには一兆円ぐらいかかるそうですが」
「あっ結構です」
そんなお金はありません。
もうこの森を抜けるしか道はないようだ。
よしっ! と声をかけながら足を叩く。
「じゃあ、行こっか」
「はい。水はとりあえず大丈夫だったこの川の水で……食料はそこら辺の魔物を倒していただきましょう。ワイルドボアも焼けばおいしいですし」
「はい。お願いします!」
私は全部ミユちゃんに丸投げしながら支度を整える。
「よいしょ。あれミユちゃん、何しているの?」
「安全の確保です。テレポートのマーキングをしましたし、飛んできたときの保険として最低限の準備をしようかなと……この先何があるかわからないのですからね。冒険者の嗜みです」
めちゃくちゃすごい冒険者だ。昨日のハイキング気分で森に入った冒険者とは思えない。
「ありがとう……でもそんなフラグにしかならないこと言わないでくれない? なんか起きそうじゃん」
「そうは言っても、一応安全のために……あっ魔物です」
「え?」
ザブンって音と水しぶきをあげながら、鯨みたいな超巨大魚がこっちに飛び込んでくる。
フラグ回収が早すぎる!
「エアウイング!」
間一髪のところでミユちゃんが魔法を発動し、私達は突っ込んできた魔物の横を通り過ぎる。
「ってミユちゃん飛べるの?」
「いえ、これは飛んでいません。横に吹っ飛んでいるだけですぐに地面に落ちます」
「ミユちゃん!」
墜落すると思ったけど、緩やかに着陸する。良かったけどちゃんと言ってほしい!
「ライトニング」
そう思って横を見ると人差し指を鯨に向けて魔法を発動させている。瞬く間に地面にいた巨大魚に直撃する。
そしてバタバタと動いていたが、当たった瞬間にピタリと止む。やっぱりあれ、最強だ。
「倒した?」
「フラグ立てご苦労様です」
私がフラグを立てたことに呆れているのかミユちゃんがめんどくさそうに言う。
「えっ倒してないの?」
「はい。なのでとっとと逃げましょう」
ミユちゃんからそんな声が聞こえてすぐにダッシュする。数十秒後にボンって音が聞こえてきて、ホントに倒していなかったんだと実感する。あの最強魔法でもダメなの? あの魔物。
「あの魔法は対象が大きいと効果が薄くて倒すのは難しいんです。せいぜい一瞬の隙を作るか動きを鈍くさせるぐらいです」
「弱点的な?」
「はい。まあ大魔法を使えば倒せると思いますが、ここで魔力をたく消費するのは避けたいです。私達は帰ることが目的ですから」
「確かに……」
「緊急時に登録しようと思っていましたがダメですね。とっとと先に進みましょう」
「そうだね」
あんなのが襲ってくるなら、緊急時にこっちに戻ってもリス狩りさせるだろう。やめよう、絶対。
そんなこんなで森の中に私とミユちゃんは進んでいった。
上にとりあえず向かっているが、一向に景色が変わってこない……まあ森だからそうなんだけど。
「どうミユちゃん。なんか見覚えなところあった?」
「まだ一時間ぐらいですよ。こういう時は我慢が大事です」
ミユちゃんはプロっぽいことを言いながら歩いていく……疲れが見えない。これが若さか。
「ただ魔力が少し心配ですね。現状私しか戦えませんから、ある程度温存する必要がありますね」
「いざとなったら私の魔力を渡すからね」
「渡してくれるだけなんですね……まあいいでしょう。必要になればいただきますね。あれ? この辺の上で落ちませんでした?」
ミユちゃんが指を差す場所は確かに昨日落ちたところだ。やった!
ここを登れば昨日のところには帰れそう……なんだけど。
「でも、どうやって登るの? 崖の角度やばいんだけど。もしかしてロッククライミング?」
私はげんなりしながらミユちゃんに尋ねる。正直言ってここを登るとかできそうにないけど、ミユちゃんはルート探している感じだ。え? ここ登るの?
「サクラさんがしたいならロッククライミングしているの見ていますけど……」
「嫌です。したくないです」
「ではテレポートで行きましょう。多分いけます」
え? だってあれって登録してないといけないんじゃないの?
私が信じられないっていう目で見るとミユちゃんが説明してくれる。
「昨日は魔力がなくてできませんでしが、テレポートは見たところに一瞬で移動することができるんですよ。なので何回かテレポートを使って登っていきます。登れそうでしたし」
クライマーが絶句するような登り方だ……そんなことできるんだ、やっぱりミユちゃん最強じゃない?
そう言ってミユちゃんの近くに行くとテレポートの魔法を使ってくれる……というか一瞬で上に着く。クライマーは泣いてるよ、こんなの。
「ありがとう、ミユちゃん」
「いえいえ。でもおかげで魔力がなくなりましたので、ここからは慎重に進みましょう……ってあれ?」
「どうしたの?」
「どうやら大丈夫そうですね……千里眼で見えました。そこにいますね」
ミユちゃんが指差したところを見てみると、女神がいた――。
私は見つけた瞬間に駆け出す。
「ルナー!」
「サクラ!」
「会いたかったよ、ルナ。ルーナ〜〜!」
「無事でよかったよ、サクラ……って色々触りすぎ! あとそんなにすりすりして来ないで」
そんな冷たいルナもいいー。
遭難して心細かった私はいつも通りの対応してくるルナがとてつもなく嬉しかった。私は今泣きながら笑っているだろう……考えたらめちゃくちゃ気持ち悪そうだ。
「皆さん、ご無事でよかったです」
「ミユも無事でよかった。えらいえらい」
「えへへ」
ミユちゃんがルナになでられて喜んでいる……私もなでるべきかと思ったんだけどなんか怒られそうなのでやめておく。
それにミユちゃんには感謝だ。かなり場面で助けてくれた。感謝してもしたりない。最後のやつがずるい感じがするけど……まあミユちゃんはチートすぎただけか。
「ミユちゃん、ありがとう!」
「ふふん。天才の私ですっからね! これぐらい当然です」
胸を張って、ドヤ顔で言うミユちゃんに少しイラってしながら私は改めてお礼を言う。
「うん、ありがとう」
「お二人共無事でよかったです。ここに泊まった甲斐がありました!」
フェイさんも合流して私とミユちゃんを抱きしめながら心配してくれている。ただそこに入らない人物が一名。
「二人共無事でよかったわ。では早く帰りましょう。シャワー浴びたいわ」
この人は人間の心があるのだろうか……。
そう思いながら私達は昨日の道を帰っていった。
帰り道はなんとも平和で魔物と遭遇することはなく日がまだ高い時に街が見えてきた。
やっと帰って来れた……やっぱ冒険者なんてやるものじゃないわ。
私の心にはいくつもトラウマが植え付けられてしまった。魔物をけしかけてくるパーティメンバーに際限なく襲ってくる魔物。この二日間で三回ぐらいは死にそうな思いをしている。ルナ達には悪いけど、やっぱり私は冒険者にはなりたくないかな。
そんな風に私が改めて決意をしていると街の近くの衛兵の人が声をかけてくる。
「君たち大丈夫か?」
「あっはい。大丈夫です……何かあったんですか?」
その衛兵たちはかなり取り乱している様子だ。
「実は魔物たちの動向が少し妙でな……先遣隊からの話では千体以上のワイルドボアが確認されている。なので、冒険者や観光客含め安全のために依頼や街の外に出ることができなくなったのだ」
そうなんだ……確かに魔物がいっぱいいて危ないし、もし刺激して千体の魔物が街に来ちゃったらやばいもんね。
しかもワイルドボアってあの猪のことでしょ? あんな一体でも木をなぎ倒すやつが千体とか……やばい、絶対死ぬな。
……えっということは?
ルナも同じ結論に立ったたようで衛兵に質問してくれる。
「つまり街に出ること、村に行くこともできないということですか?」
「そうだ……悪いな」
お母さん、私はまだ家に帰れないみたいです……。
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