第12話 転生者は遭難する

遺言書 サクラ


書き出しが分からないので、とりあえずそれっぽく書きます。

私が死んだら、お墓はゴージャスにして、花を飾って欲しいです。

また知り合いじゃなくてもいいので、めちゃくちゃ可愛い子をお墓の前で泣かすようにお願いします。私はあの世でそれを見て満足します。

大事な財産ですが、正直あまりありません。なのでお母さんのへそくりにでもして、「ああ、これが愛娘のありがたいお金なんだな」って思って使ってください。


「何を書いているんですか?」

「遺言書」

 しくしくと遺言書を書いているとミユちゃんが覗き込んでくる。

 あんま見るもんじゃないよ、こういうの。

 見ていた内容が気に入らないのか自分の名前がなくて拗ねているのか、ミユちゃんは呆れたような顔をする。

「そんなもの、冒険者になるときに書くものです。こんな未開の地で今更書いたところで発見される可能性は無いですよ。それに見つかってもかなり後でしょうから、書くだけ無駄ですね」

 ……私は、無言で書いた紙をくしゃくしゃにして湖に投げ捨てる。

「よし、ミユちゃん! ここから街に戻る方法を考えよう!」

「…………」

 すぐに切り替えてお姉さん感を出した私をミユちゃんが不機嫌そうに私を見てくる。なぜ?

「ミユちゃん?」

「……先輩です。私のほうが冒険者歴が長いです。それにここから連れ出すのだって私なんですから、敬語を使ってください」

「え?」

 なにこの子? めっちゃマウント取ってくるじゃん。

 うわーっていう目で見るけど、ミユちゃんの言い分はもっともだ。私はこっからどうするかとか分かんないし。郷に入ってはなんとやらだ。

「えっとはい、すいません。ミユ先輩。お願いします」

「うむ、よろしい」

 ミユちゃんはマントをバサってしながら、私に背を向けて歩き出す。……ついて来いってことかな? 多分。

 私はミユちゃんの頼もしい? 背中についていくが、黙っていると不安なので声をかける。

「ちなみになんでミユ先輩は魔法使いになったの?」

「かっこいいからです」

「かっこ……え?」

「かっこいいからです。マントやローブもいいですし、それに自分でかっこいい演出をすることも容易です。後ろに雷を落としたり、空に浮いて「誰だ。お前は?」とか言われたいです」

「お……おう」

 なんかめちゃくちゃ堂々と言っているけど、言ってる内容がひどいな。


 私が若干引いていると、草をへし折る音が聞こえた。

 恐る恐る振り向くとそこにはもはや見慣れた猪の姿がある。

 てか、これヤバくない? ミユちゃんも魔力ないし、ヤバい。それにミユちゃん死んだら爆発するんでしょ? 絶対絶命だ……!

「ライトニング」

 先ほど熊を仕留めた魔法が目の前の猪に突き刺さり、倒れる。

 私が驚いて見るとミユちゃんはなんでもないように言う。

「マナタイトも常備しています。ただ使い切りですから、あまり使いたくないですね」

 片手に持っていた宝石みたいな石がパリーンって割れる。

 かっ、カッコいい〜! けど、事前に言ってほしい。報連相ができない新人社員かな? 

 なんか複雑な感情を抱えながらミユちゃんにとりあえずお礼を言う。

「ありがとう……でもよく敵がいるの分かるね?」

「あーそれは「千里眼」を使っているからです。この魔法でなんでもお見通しです。後ろも前も茂みの中さえも」

「そっそうなんだ?」

「はい。なので、そこに隠れて襲おうとしている魔物もバッチリ見えています」

「えっ⁉」

 振り返ってミユちゃんの指を差したところを見ると木に擬態している魔物と目が合う。

「ぎゃあー!」

「ライトニング」

 襲い掛かろうとしていた魔物にお馴染みの魔法で貫かれ、動かなくる……その魔法、チートじゃない?

「はい。この通り」

「バッチリ見えてるんだったらもっと早く退治してよ!」

「だってこっちのほうがかっこいいじゃないですか! こう、絶対絶命のときに助けた方がヒーローっぽいじゃないですか!」

「こっちの心情的にはかっこ悪いし、心臓にも悪いわ‼」

 

 ぎゃあぎゃあ騒いでいるとまた魔物が出てきたが、同じみになった魔法でワンバンで倒す。マジで最強だ。

「ねえ、ミユちゃんその魔法教えてよ。さっきの」

「ライトニングですか?」

「うん」

 そう、さっきからのチート魔法だ。発動も早いし、発射も早いし、当たれば死ぬ最強魔法……覚えられるんだったら覚えておきたい。

 私はワクワクさせながらミユちゃんに教えてもらおうとするけど、そのミユちゃんは難しそうな顔をする。

「教えてもいいですけど、これ中級魔法です。普通の人であれば杖を使わないと発動すらできません。マナタイトで撃っているのもあって結構大変なんですよ?」

「なに? めちゃくちゃむずいってこと?」

「はい。正直、魔法使いでもないサクラさんがこの魔法を覚えようとしたら一年はかかります。さらに緊急時、発動するのにら少なくとも二年から三年は練習しないとこのくらいの発動速度は出ませんね」

 マジか……そんなに大変なんだ。

 というかそれができちゃうミユちゃんは何者なの? しかも千里眼も使っているらしいし、ホントに天才なのか?

 私はミユ先輩を尊敬のまなざしで見ながら尋ねる。

「じゃあ、ミユ先輩。まず私が覚えた方がいい魔法ってなんかありますか?」

 ミユ先輩は顎に手を付けながら考える……あっちゃんと考えてくれてる、先輩。

「そうですね……まず、初級魔法を使い続けた方がいいです。戦闘中、慣れない人だと魔法の発動はおろか動けない人が多いんです。それに動けたといってもかろうじて動けている人が大半なので、魔法を正しく発動できるのは結構経ってからですよ?」

「そうなんだ……」

「まあ、そういう意味でも最初の戦闘で石を投げたというのは適正的にはかなりいい方です。魔法学校や騎士学校でもとりあえず最初に戦場に放り出して適正を見抜くらしいですから」

「こっわ! 学校恐ろしすぎるでしょ……不登校になる自信があるよ」

「なので、まずは簡単な初級魔法をテンパっていても発動出来るようにしましょう。こればかりは反復練習です」

 何事も一歩ずつってことか。まあ、私は冒険者にならないんだけど、やっぱり世界はチートをすぐに使いこなせるような最強主人公の小説のようには甘くないということだ。


「あと気休めでが、一応マナの実を食べておきましょう。多分、魔法を一、ニ回ぐらいは使用できます」

「マナの実?」

 私は渡された実を見る。サクランボのような見た目の木の実だ。色がサクランボとは違って少しオレンジのような色をしている。

「はい。これを食べると少しだけ魔力が回復します。こういった時には非常食になりますし、マナタイトが減ったときとかに重宝する木の実です」

「なるほど……あっおいしい」

 食べてみるとみかんのような味がしてくる。おいしい……これなら非常食で出たとしても全然食べて行けそうだ。しかも魔力が回復するとかそりゃあ重宝しそうだ。


 そう言って外を見るといつの間にか太陽が落ちている。確かに魔物が出たらヤバそうだ。

「魔力も回復しましたし、ここらで野宿にしましょう」

 ミユちゃんが洞穴を指差す。

「ここ?」

「はい。水辺が近いですし、洞穴なら虫とかはそんなに来ませんし」

 ……なんていうことだ。今まで歩いていたのは今日の泊まるところを探していたのか……ミユちゃん、有能すぎっ! えっすっご。

「さすが、ミユちゃん! ちなみになんでマナの実食べたの?」

「お腹がすいたからです」

 ……そっか。

 現実は小説に出てくる人のように行動一つ一つになんでも意味があるわけではないらしい。

「それと寝床の準備のためです。寝ているすきに襲われないように気配遮断の魔法と音が出ない魔法を使います」

「ミユちゃん……!」

「床は堅そうですが我慢してくださいね」

 そう言いながら立つミユちゃんはマジで頼もしかった。ちゃんと意味あったんだと私は感動しながらミユちゃんの背中を見つめていた――。

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