第11話 転生者は冒険をするらしい 

 昼下がり、どこか神秘な森で――。

 ガチガチの装備に身を包みながらルナ達も含めた五人でさらに奥へと進んでいる。なお私は普段着で進む。装備ないからね。

 ……勢いに乗せられて来てしまった。私はチョロい女です。

 私は森に入って数分で後悔した。

 森の中は太陽の光がところどころで差し込んでいるとはいえ、かなり暗い。どこかで音が鳴るたびにビクッてなってしまうぐらい、すごく不気味な森だった。

 それなのに――。

「サクラさんを含めた初クエストですね、しっかり応援させていただきます! あと怪我をした際にはお任せを!」

「私は早く魔法を使って倒したいです! 今回はどんな魔法にしましょうか? やっぱり爆発でマントがなびいた方がカッコいいですかね! それとも一撃で知らぬ間に倒しているような魔法のほうがいいですかね!」

 フェイさんとミユちゃんがめちゃくちゃ浮かれている。私はそんなにワクワクできないんだけど。なんならすっごい帰りたい。

 浮かれ気分の二人にさすがはリーダーのルナが注意する。なんか委員長みたいだ。

「もう……フェイもミユももうちょっと緊張感出しなさい。ってソフィア、何読んでいるの?」

「私をあの二人と一緒にしないで。ちゃんと意味がある本よ? この「覚醒の書」っていう名もない転生者の本を」

「そんな本!役に立たないよ!」

 ホント帰りたい。

 相変わらずマイペースなソフィアさんと共に奥に突き進んでいると、一番前にいたミユちゃんがいきなり止まる。

「あっ、近くにワイルドボアの群れがいます。数は十体ぐらいですね」

 ん? なんて言った、ワイルドボア……それって――。

 確認するようにルナを見ると、私が思っていたことが間違っていないとういうように頷く。

「そう。この間倒したやつだよ」

「マジ?」

 あんなヤバいのが十体もいんの? 終わってんじゃん。

「遺言書を書いておけばよかった……」

「大丈夫だよサクラ、こっちにはミユもいるし……そんな絶望した顔しないでよ」

 だって自分を天才とか自称する小っちゃい子だよ。だめだよ、終わってる。

 

 私達は隠れながら、ミユちゃんが言っていた方向を見る。そこにはほんとに十体も猪がいる。しかもあのときよりも大きいのもいるんだけど……詰んでない? ほんとに遺言書を書いておけばよかった。

 そんな私を心配してか余裕ぶったようにミユが声をかけてくる。

「私のことを信じていないようですね?」

「うん」

「…………」


 即答で返してお互いに見つめ合う。悪いけど信用なんて皆無です。

「……まあ、見ていてください。私が天才だということを見せてあげましょう! ほんとは爆発系にしようかと思いましたが、せっかくです。かっこいいのでいっちょやってやりましょう!」

「ミユさん、頑張ってください!」

 フェイさんの声援を受けてミユちゃんが詠唱を始める。隠れているからか小さい声で発せられているが、持っている杖は声とは反比例に光り輝いていく――そして詠唱が終わり、いままで閉じていた目がカッって開く。

「チェインレイジ・ライトニング!」

 杖から3本の稲妻が走った。

 その稲妻は次々と猪を貫き、あっという間に全部の猪達が動かなくなる。

「ふっ、つまなぬものを切ってしまった……」

 バサっとマントをはためかせるミユちゃんの声掛けと共にドサッと音が聞こえ、猪達が倒れる。

 ……かっかこいい‼ でも、切ってないです!


「ホントに全体倒している」

 私はビクビクしながら猪に近づくけど、全員白目を剥いて倒れている。

「当たり前です。私、天才魔法使いですから!」

 えっへん! って聞こえそうなほどのけ反るミユちゃんはさっきのかっこいい姿とは似ても似つかなかった。

「ごめんね。疑ってた」

「わかればいいのです。これからは敬意を持って私に接してください」

「わかったよ。よしよししてあげよっか」

「それはいいです。その代わり思う存分ほめてください!」

 ……やっぱり子供なだけでは?

 

「ね? 言ったでしょ」

 私がよしよししようか悩んでいるとルナが微笑んでくる。

 確かに私の遺言書は見送られた。

「うん。強かった」

「ミユはほんとに天才だからね。今はまだできない魔法はあるけど、いずれホントに歴史に名を遺すようなすごい魔法使いになっていくよ」

 そうかもしれない……のか? 私はすごい魔法使いがどんなものなのかわからないのでなとも言えないけど、そう言うルナは娘の成長を祝う母みたいだった。やはり子供だわ、あの子。

「それと……少し試したいこともあるの。サクラ、手を握って貰える?」

「あーうん」

 私は言われた通り出された手を握る ……手袋してるから感触がイマイチだなー。

「行くよ」

 ルナが魔法を発動させようと剣先が青白く輝く。

「マナ・ブレイド!」

 シュンってルナが勢いよく右手を横薙ぎに振るうと斬撃が飛ぶ――。

 一瞬なにが起きたか分からなかったが、すぐに周囲の木が音を立てて地面に落ちる。

「おおーー!」

 とパーティメンバーからの拍手と歓声が聞こえたが私はそれどころじゃない。

「って、サクラ気をしっかり」

「だっ大丈夫……じゃないよ」

 この間よりも吸い取られた魔力が少なかったからか気を失うことはなかった。

 百メートルを全力ダッシュしたぐらいの脱力感に襲われながらもなんとか体を起こす。

「それがルナの言っていたサクラの能力なのね。自身の魔力を与える魔法だっけ?」

「そう。やっぱり私の方で魔力を制限するみたいだね。これがやっぱりマナタイトとの大きな違いかな」

「それにしてはマナタイトを使った時よりも発動しやすそうね?」

「うん。サクラの魔力は制御しやすいんだよ」

 なんかソフィアさんとルナが私の能力について考察している……って私のことマナタイトと比較してないでよ。私、モノじゃないんだからさ‼︎


 そんな私のことは無視されながら、ルナ達が次々に討伐をしていく。今回のクエストは採集系じゃなくて討伐系らしく、それはもうどんどん討伐していった。

 私は観客として見ていたが、皆んな冒険者って感じで大変手際が良かった。フェイさんも言っていた通り応援しかしていなかったが、皆んな(主にルナとミユちゃん)の連携が凄かった。私は邪魔にならないように、あと解体とかはグロかったので見ないよう移動していると普通にはぐれた。

「誰もいない……」

 そんなには離れていないと思うんだけど、辺りを見回しても誰もいない。正直心細すぎて泣きそうだ。

「ぐすっ……うん?」

 半分泣きながら歩いていると、熊が目の前にいた。しかもこっちを向いて。

「えっ、ちょちょっ。こっちこないでー」

 目が合ってしまい、こっちに来た。ヤバすぎる……! 完全に獲物として見られてるんだけど‼︎

 とりあえず走り出すけど、すぐに息が切れてくる。私体力無さすぎ‼︎ ってなんで私を追ってくるの! というかなんで皆んな助けてくれないの⁉︎ 

 私は泣き叫びながら走るが、石につまづいてしまう――やばい。

 倒れながら見上げると無情にも熊が手を振り上げていた。

 

 あっ、これ死ぬ。


 人生二度目のもう終わりかと思った瞬間……私の前に立つ小さな人影が……!

「ライトニング」

 一直線に電撃が走り、追っていた熊を貫通する。

 貫かれた熊の目が大きく見開き、やがてドスンと地面に横たわる。

「ミユちゃん……!」

「大丈夫ですか?」

 ミユちゃんが振り返り、頼もしい笑顔を向けてくれる。その姿はホントに漫画とかで絶体絶命のヒロインを助けるヒーローみたいだった。

 この子ホントにかっこいい!

 あんな巨大な熊を一撃で倒すなんて! しかも狙ったように、腕が振り下ろされる寸前の時に、この子は……!

「まあ、ほんとはもうちょっと前から助けられましたが、やっぱり直前で助けたほうがカッコいいですからね。狙った甲斐がありました!」

「え?」

 私は一気に地獄に突き落とされたように感情が冷えていく。

 ミユちゃんの言ったことが信じられない。今なんていった?

「もしかしてけっこう見てた?」

「はい。皆さん総出で」

 ミユちゃんが指を指したところを見るとみ皆んないた。てか、ルナも⁉︎

「あれ、おかしいわ。「覚醒の書」の通りなのに」

「もう、それ捨てなさい……ソフィア」

「ミユさん。そういうのは言わない方がカッコいいですよ」


「もう、誰も信じない」

「いや、私は助けようとしたよ? でも私じゃ間に合わなかっただけだからね⁉︎ どっか行こうとしないで!」

 私が皆んなと逆側に行こうとするとルナに引き止められる。

 せめてルナは助けてほしかった! 私ホントに死ぬかと思ったのにー!

「ホントにおかしいわ。せっかくモンスターを誘導したのに、覚醒しないなんて……これぐらいじゃダメなのかしらね」

「お願いです。ほんとにやめてください……ってあんたがけしかけたんかい⁉︎」

「全てはこの本の通りに!」

「今すぐ捨てろ、その本!」

 私はソフィアさんから本を捨てようと必死に手を伸ばすが触れさせてくれなかった。これが冒険者……なんて厄介なんだ。

 命懸けの冒険者だったが、なんか思っていたのとはだいぶ違っていた。

 というか私もはぐれちゃったのは悪いけどパーティメンバーも酷くないか? 絶対絶命にならないと助けに来ない魔法使いに、見守る狩人? そして応援するプリースト……ルナ、どうやったらこんな人たちを見つけてこれたの?


「今日はここまでにしよっか。もう日も落ちてきたし」

 私がそんなことを思っていると、ルナからそんな提案をされる。大いに同意する。

「了解です。私も魔力がもうキツいので、早く帰りましょうか」

「私もオーケーよ。早く帰りましょう」

 他の人も同意してくれる。まあ、私トラウマになったし……ってソフィアさん、なんか活躍していたか?

 私がトラウマを植え付けられて震えながら歩いていると足を踏み外す……私、こんなのばっかだな。

 ため息を吐きながら足を戻そうと時だった――足が滑ってしまい、崖から落ちてしまう。


 え?


 視界の端ではルナたちが驚愕の顔で固まっている。その表情を見て、一気に顔が青ざめていくのが分かる。

 あれ? これ死ぬんじゃないかな? 今度こそヤバいんじゃない⁉︎


 私は宙に投げ出され、空が見える。

 走馬灯を見るより早くミユちゃんの顔が、飛び込んで……って、え⁉︎ 私の後に崖から飛び降りてきたの⁉︎

 私は何も考えられず叫ぶ。

「ミユちゃん!」

「エアフラット!」

 ミユちゃんが魔法を使いなんとか私を浮かせてくれる。

 ゆっくりと下がっていき、ルナたちがどんどん小さくなっていく。やっば。めっちゃ遠くなっちゃった。

 でも大丈夫! こっちには魔法使いのミユちゃんがいるし。

「ありがとう。じゃ、上に行ける?」

「あっ、すいません。さっき助けるために無駄に魔力消費のでかいのとかっこいい魔法を同時に使ったのでガス欠です」

「ミユちゃんのばかーーー!」

 私ももう魔力はないからあげることもできない。

 他に上に行く方法は?

「地図は? 助けが来るとかは?」

「ここは未開の地ですから、薄いでしょう……なので地図なんてものはありません」

「うそ?」

 これは遭難というやつなのでは?

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