第10話 転生者は隣街に泊まる
ギルドでみんなと別れて、私はルナと一緒に宿に向かう。
あの後も誘われ続けた私だったが、私の鋼の心は落ちることはなく、なんとか冒険者の誘いを断ち切ることを成功した。やったね!
「サクラはどれぐらいこの街に泊まるの?」
「三日ぐらいかな……お母さんにも挨拶とかお土産頼まれてるし」
というか頼みすぎだ、お母さん。ぶっちゃけこれをちゃんと回ろうとすると平気で一日かかりそうなんだけど。
「そっか、じゃあその間は私の宿に泊まって。二人だと安いしさ」
「そうだね。甘えちゃおっかな」
正直お母さんに渡されたお金は心許ない……デートしてくれるにしてもある程度節約は大事だ。それにルナとお泊まりだったらそっちの方がいい。
街に来るのに疲れたし、ギルドで初めての人と話しまくって疲れて気落ちていたけど、気分が上がる。というか時間も相まって深夜テンションである。ひゃっほう!
「それともルナ。私と二件目行っちゃう?」
「お酒なんて飲んでないでしょ。もう暗いし、とっとと帰るよ」
つれないルナ……。私のハイテンションもこの一振りである。
「それか行ってもいいけど……」
「なになに?」
いつも付き合わないであろう私の絡みについてきてくれて、なんか嬉しい。ルナ深夜テンションか?
「もちろん、さっきの話の続きね? サクラ、冒険者になろっか」
「いやいいです。というかそれはもう強制になっているじゃん!」
さっきもやったじゃん、もうやだよ!
その後もルナの深夜テンションに付き合いながら宿に着いた。最初は私が絡んでいたはずなのに……なぜ?
「なんか普通……」
「そりゃ、ただの宿だもの」
着いたところはただのアパートだ。二階建てで上下四つの部屋があり、そこそこ新しそうな感じの一般的な宿だった。
ルナも深夜テンションが終わったのかいつも通りのテンションに戻っている。助かる。
「こういう宿って、めちゃくちゃ豪華かめっちゃ古くさいものじゃないの?」
「冒険者で不安定なんだから豪華なところなんて住めないでしょ。それに古くさいところなんてあんまり泊まりたくないでしょうが」
確かにそうだけど……これじゃ難解事件も使用人にいたずらとかのテンプレが起こりえないじゃん……これが現実か。
まあ、起きたら私が被害者になるんだろうな。うん、起きない方がいい。
「緊急時は馬小屋とかに泊まるけど……やっぱり普段は普通の暮らしをしたいし」
「緊急時に馬小屋に泊まるという判断をするのは普通じゃないけどね」
釘を刺しておく。女の子が馬小屋に泊まるのは、圧倒的異常なんで。
受付を済ませ、部屋に入る。角部屋だ。
見てみるとルナが泊まっている部屋は普通にキレイなところだった。結構長く泊まっているようで、色んなところで女の子を感じる。
「ルナって意外とぬいぐるみとか好きだったんだね」
「まあね……でも、あんまり見ないでね」
「エロ本とかないの?」
「……」
いや、無言が痛いなー。
こういう時ってそういうこと言うのがお約束じゃん?
「深夜テンションが続いていただけだからさ。冗談だよ、冗談……すいません」
どうやらそんな冗談を言うテンションではないらしく、ルナはご機嫌斜めだ。
私はルナに背を向けて、荷物を出していく。
後ろで顔は見えないが、めちゃくちゃため息を吐いているのは分かる。
「じゃ、お風呂沸かすから。サクラ、とっとと入っちゃって」
……え? 今なんて言った?
私は信じらんないって目でバッて勢いよく振り返る。だって信じらんないもん!
「なんで、疲れてるでしょ! 背中流すから、一緒に入ろうよ!」
「入りません」
きっぱりと否定されて折れかけるけど、今日の私は深夜テンションだ。まだ舞える。
「だって家に泊まった時も一緒に入ってくれなかったじゃん! 私と裸の付き合いしようよ! 体洗いっこしようよ‼︎」
「サクラは私のこと、狙いすぎですよ! 家に泊まったときも覗こうしていたし、なんなら入ろうとしていたじゃないですか! どんだけ私の裸、見たいんですか!」
「そりゃ、裸見たいし、なんなら触りたいよ! なんでどっちもやらせてくれないの! ルナのケチ‼」
「ケチじゃないでしょ! そんな変態なこと言う人に見せたくも触らせたくもないよ! ほら、とっとと入る! 一人で入らないなら、風呂にぶち込みますよ!」
「暴力反対! 暴力反対‼︎」
だめだよ、暴力は。理性ある人なんだから話合いをしようよ!
そう抗議運動をしたが、取り合ってくれず、私は往生際悪くチラッチラッとルナに目配せやフラグ立てを行いながら、脱衣所に向かった。
一時間後――。
「ホントに一緒に入ってくれなかった……ぐすっ」
「入らないって言ったでしょ、全く。それにこんなにくだらないことでのぼせそうにならないでよ」
あの後長風呂をしたけど結局来ず、ぐったりしていた私はルナに早く上がれと言われた。
今は無様にも横たわっている。あの時とは違って膝枕ではない……最悪だ。
「寝巻は一応あるよ。大丈夫」
いや待て。ここは借りて普段ないルナの香りを味わうのが最適ではないか?
洗濯はされているけど、そっちのほうがいい。というかそっちがいい!
「やっぱりほしいかな」
「……なんか嫌になってきた」
「なんで⁉」
「いきなり変えたから、なんか変態的なことを思ったんだろうなって思ったから」
私の考えはお見通しみたいだ……。
結局、自分の寝巻きを着て寝床に案内される。
「ありがとう。ベッドまで用意してもらっちゃって」
「うんうん。私も泊めてもらっていたんだし。これくらい平気だよ」
「今夜は寝かせないぜ!」
「ほら、早く詰めて。私が入れない」
……私のボケなんてもうスルーである。近所の八百屋のおばちゃん並みの対応だ。
私は言われた通り、壁側に詰める。
「こうして一緒にいられるのも最後になるしね……」
「いや、サクラが入ってくれるからまだまだ一緒だよ」
「最後になっちゃうからさ!」
深夜テンションが復活したのかそんなことを言ってくる。私が入るわけないでしょ。
ルナに目線で訴えるが、ルナはどこ吹く風である……ちくしょう。
月明かりに照らし出され、少し拗ねたルナの顔が映り出す……なんか雰囲気が変わった。ムードがあるというか……これってデジャブ?
「明日のクエストぐらいは行かない?」
ほら、見たことか……結局は告白とかではないのだ。
「行かないって」
「でも、私は明日もサクラと一緒にいたいよ?」
ルナは困ったように上目遣いで笑う。
……それはずるじゃん。
期待していたものと違って拗ねていた私だが、その言葉をずるすぎる。はっきり言ってクリティカルヒットだ。
そんな私の心情を知ってか知らずか、ルナが畳みかけるように少し唇を尖らせながら私に囁いてくる。
「それに明日のクエストはデートに行くためのお金集めでもあるだよ? せっかくのデートなんだから、お金あった方が楽しいよ?」
誘惑の言葉が……! 誘惑の言葉が強すぎる! そんなの可愛いすぎるじゃん! そんなの断りずらすぎるじゃん! いつからルナはこんな小悪魔になってしまったんだ!
「ねえ、サクラ……」
「おやすみなさい!」
さらに続けてくるルナの言葉を遮って、ルナに背を向ける。
危ない! 誘惑されるところだった。相手は私の魔力が目的ないわばキャバク譲みたいなもんだ。
騙されないぞー。騙されない。
私そんなチョロくないので!
トドメとばかりにルナが後ろから近づいてくる。
「明日、一緒に来てくれないかな? 私まだサクラといたい」
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