第9話 転生者は冒険者になろうと誘われる

「なんでよ! 冒険者なろうよ、楽しいよ!」

 断ってから数十分……あれからも勧誘が続いている。

「嫌だよ! さっきあんな死ぬ思いしたのに、なりたいなんて思わないでしょ! それに私魔法だってほとんど使えないし、それに運動センスなんてないんだから‼」

「ホントにお願い! 運動センスなくても後衛なら……でも魔法もあんまり使えないなら……なんとかなるから!……多分なんとかなるから!」

「さっきならなかったじゃん! ルナが求めているのは私じゃなくて、魔力でしょ!」

 私は少し突き放すように言う。だけどルナが少し悲しい顔になったので、もしかして言い過ぎちゃったかなって思ってくる。でも、流石にこれは譲れない。そんな中学生の進路決めみたいなあの子があの大学行くから私も行くみたいノリで命をかけた冒険するなんて出来ないから!

 私のはっきりした拒絶を受け、ルナは少し口を尖らせて小声で呟く。

「サクラだって、冒険者に興味あるくせに……」

 かわいい……じゃなくて。そんな顔してもなりません。

 ……そりゃ、冒険者には興味がある。私だってせっかく異世界に転生したんだから、そりゃ自由に生きたいし、無双できたり、美少女達を侍らせたい。でもできない……私の才能は予備バッテリーだから。

「死ぬ可能性高いじゃん! それにクエストが収入源なんだから不安定すぎるでしょ! 私は家で、こたつ入りながらテレビを見ていたいんです!」


「あっルナだわ」

 私達は言い合いながらこの辺を回っていると後ろから声をかけられる。

 そこにいたのは長い金髪をストレートに下ろした美少女だ。しかも背も高いし足も長い……モデルみたいだ。

 その美少女は買い食いをしていたのか揚げパンのようなものを食べている。

「ソフィア!」

「無事そうね、良かったわ。そちらのお嬢さんは?」

「えっそれだけ?」

「あっサクラです」

 いきなり振られたのでボケる暇もなくて普通に返すんだけど、どういうこと?

 なんかルナが全然相手にされていないんだけど……えっと同じパーティなんだよね? はぐれたのにまったく心配してないじゃん。

 私が名乗ると「そう」と言いそのまま冒険者ギルドに入ってしまう……どういうこと? マイペースすぎないか?

「えっと、ソフィア?」

「なにかしら?」

 ホントもうなんでもないように普通に話しているソフィアは、もうなんというか意味わからなすぎて怖い領域に入っている。

「えっと……まあ、いいや。他の二人は?」

「ああ。あの二人ならそろそろ帰ってくるはずよ。今クエスト中だったから」

「そう。じゃあ、ソフィアは何をしていたの?」

「他二人にクエストの後処理を任せて、お腹がすいたから食べ物を買っていたわ」

 ……え?

「えっと、ソフィアさんでいいんですか?」

「ええ」

「二人に後処理させて、ご飯を食べているんですか?」

「そうね。そうなるわ」

 自信満々に言うソフィアさん。

 この子からは一切の罪悪感というものを感じない……てか天然だ。この子。それも悪気なく色々押しつけてくるタイプ。なんでこんな子をメンバーに選んじゃったの、ルナ。

 私がルナの方を見るとさすがにルナも呆れている。

「……わかった。じゃあ、とりあえず一緒にギルドに行こっか」

「うん」

「わかったわ」

 私たちはそれぞれ返事して二人がギルドに入っていく。

 とりあえず冒険者になるならない問題がうやむやになったのはいんだけど、別の心配が出てくる……ルナのパーティは大丈夫なんだろうか。

 私は二人に遅れてギルドに向かった。

 

 それからルナはソフィアさんを連れて冒険者カードの発行やソフィアさん達が受けたクエストの報告などを行っていた。

 私は暇だったからその辺に座っていたんだけど、そしたら二人入ってきてルナとの再会を泣いて喜んでいる姿が目に入る。そうだよね、あれが普通だよね。あんな「あっいたの?」みたいな反応にはならないよね。

 私がルナのパーティメンバーに安堵しているとルナと一緒にこっちに来る。

「ありがとう、サクラ。みんなと再会できたよ」

「それは良かった――ってパーティーメンバー全員美少女じゃん! ハーレム主人公じゃん!」

「私含め全員女なんだけど……」

 私はルナに「よかったよかった」おばさんをやろうと思っていたのに驚いて声を上げる。メンバー全員が美少女だ! なんだ、この街。レベルがすごすぎる……私の村の人と何人か交代してほしい。目の保養になるから。

「とりあえずパーティメンバーを紹介するね。じゃあさっき会ったソフィアから」

 先ほどの金髪天然美少女が前に出る。

「ええ。さっきも会ったソフィアよ。最初に紹介されたからには私が副リーダーということでいいのかしら?」

 私を見て聞いてくる。

「えっ、私? えっと……分かんないです」

 私があわあわしていると。ルナが助け舟を出してくれる。

「……えっとソフィア。自己紹介なんだから、質問しちゃダメでしょ」

「確かにそうね……ごめんなさい。少し気になっただけよ。よろしく」

 残念美人だ……さっきも思ったけど残念すぎる。

「では、次は私ですね。ミユと言います。天才魔法使いです」

 次に自己紹介してくれたのは赤い髪をツインテールの小学生ぐらいの女の子。

 自分で天才って言ってるところがかわいい。大人になったら恥ずかしいやつだ。

「よろしくね」

 私が挨拶すると、握手を求められる。

 もちろん手を握る。相手が差し出してきたのだ。握る以外の選択肢はない。というか握りたい。

 私がミユちゃんの手の感触を味わっていると。

「ちなみに私が死ぬと、爆発するので運命共同体になります」

「危険すぎる!!」

 笑顔で何言ってんの!?

 物騒なことを言い出して、離れようとするが離れられない。意外と力強いな! ミユちゃん。

「前々から死ぬんだったら敵を巻き込み、爆発してやろうと魔法を仕込んでいます。その結果、何年も魔力を注いで爆発範囲も非常に増えていますから、恐らく近くにいる仲間も死にます。トリガーは私が心臓の鼓動を止めた時なのでくれぐれも守ってください」

 物騒すぎるよ! 怖いこの子!

 私がなんとか手を離すと最後の女の子が名乗りを上げる。

「最後は私ですね。フェイと言います。プリーストです」

 茶髪のボブカットが特徴の女の子。さすがにミユちゃんよりはやばくないだろう。

「ちなみに私は回復魔法しか使えません。なので戦闘中はずっと応援していますので存分に戦ってください」

 チアガールが持っているポンポンを鞄の中から出す……え? 応援だけ。

「はい。ゾンビとか悪魔とかは任せてください! ……ただ普通の敵だと回復以外は役に立たないので、私はそっと隠れて「頑張ってー!」って言っています」

 ……うわあ。

 私は思わずルナを見るが、気まずそうにそっぽ向く。

 何このパーティ……使えない人しかいないんだけど? 残念美少女の巣窟だよ。

 ここに私が万が一にでもここに入ったとしてと残念美少女パーティからからお荷物を抱えた残念美少女パーティにしかならないよ。

「これからよろしくお願いしますね。サクラさん」

 ……ん?

 何かおかしくない?

 私はフェイさんが言ったことに疑問を感じてルナの方を向く――けど、目をそらされる。お前、まさか。

「……えっと、自己紹介ありがとね。けど私は冒険者にならないから」

「えっ? パーティに入る人じゃないんですか? だってルナさんが……」

 私はルナに近づくが、ルナは目を合わせたがらない。こいつ。

「私は入んないっていったよね? ルナ」

「いや、さっきうやむやになっちゃったからさ。きっと入るんだろうなーって思って」

「入んないよ!」

 私は少し大きい声で言ってから少し後悔する。ここは冒険者ギルドだ。つまりは冒険者たちが一番集まっているところ……あんまこういうことは言わないほうがいいかも。今も睨んでいるし。もしかしてそれも狙ったのか⁉︎ そしたら結構悪い女じゃん!

「……ちなみに皆さん。なんで冒険者になったんですか」

 私はこのきまづい空気を打開すべく初心者が聞くだろうTOP3ぐらいのものを聞く。

「もちろん。魔王を倒すた」

「チヤホヤされたいです」

「お金ね」

「お金ですね……」

「……みんな、ここは嘘でもいいこと言っておくべきだよ」

 …………。

 ルナはみんなの発言を受けて目を見開いている。アニメとかだったら「ガーン」って効果音がついていそうだ。

「? 何を言っているの。私とフェイは同じだったから、多数意見が行動指針ととるべきよ」

 とソフィアさん。

「すいません、ルナ。たとえルナの言うことだとしても、私はプリーストなので嘘はつけないんです」

「動機が不純すぎるよ」

 二人ともひどい理由だなと思っていると、ミユちゃんが立ち上がって力説する。

「そうですよ。そんなものよりも名声です。名声さえあれば、お金は後からついてきます」

「ミユのほうが不純だよ!」

「……なるほど。一理あるわね。ミユに一票」

「ソフィア!?」

「私もお金がもらえるならそれで」

「フェイまでも!?」

「えっと、つまり?」

 ミユちゃんがまとめてくれる。

「このパーティの活動理由として一番は名声のため、次にお金のために活動しています」

 私は一言。

「じゃあ、あたしはこれで」

「待って、待って! サクラ。待ってってば!」


 止められてしまい、席につかされるけど、ルナ達はまだ話し合っている。

「何を言っているの? 名声もお金も今後も活動するなら必要なものよ?」

「それが目的になったら本末転倒でしょ!」

 やっぱり離れた方がいいかも、このパーティ……と思っているとルナがこっとを向いてくる。

「待って、サクラ。これは違うの……とにかく違うの」

「うん。とりあえずなにかが違うってのはわかった。あれがこうして、こう違うのね」

「何も分かってないじゃない!」

 ルナのツッコミを受けるが、私自身も何を言っているのかわからない。

 きっとあれがこうして、ああなのだろう。

「確かに癖のある子ばかりだけど、実績はまあまああるのよ」

 ルナは再発行した冒険者カードを見してくれた。

 冒険者カードにはランクがあり、下からアイアン、カッパー、シルバー、ゴールド、プラチナ、そして最上級としてダイヤモンド級という風に分かれている。ルナの手にはゴールドランクと書かれている。

 ……なんか微妙だ。

「えっと、うん。そうなんだ、すごいね」

 ジト目で見られるが、私はランクがどれぐらいの難易度か知らないので、なんとも言えない。

「まあ、いいや……でもほんとに入らない?」

「入らない!」

 私は頑なに拒絶する。だって平穏に暮らしたいしね。なってたまるもんですか。

 そう思っているとフェイさんが前に出る。

「ルナさん、無理に誘うものではないですよ。冒険者は危険がつきものですから」

「フェイさん……」

 なんかいい子かもしれない……戦闘中に応援しかしないヤバい奴だと思っていたけど意外とまともかもしれない。

「確かにそうね。無理誘うものではないけれど、誰にも運命というものがあるわ。サクラと言ったわね。ここに来たのも何かの縁のはず……少しぐらいやってみるのっもなにか意味があるはずよ」

「ソフィアさん?」

 フェイさんのいい子加減に心打たれていたけど、なんか神官みたいなことを残念美人が言ってきた。

 なんか急に流れが変わったんだけど?

 私が混乱しているが、ソフィアさんはそれが当たり前のように堂々と告げる。


「あなたには何か力がある」


 なんかやべえと言い出した……。

 漫画のワンシーンのようにソフィアさんの目は真っすぐにこちらを見ており、ふざけているようには見えない。

 その言葉は私の厨二病心にすごく刺さる言葉だ。ほんとに私は冒険者になるべきなんだろうか? なんかと雰囲気にあてられて思っているとルナが呆れ声で一言。

「なんか大袈裟に言ってるけど、別にそんなもの見えてないでしょ」

「ええ。見えないわ」

「えっ、そうなの?」

 なんかっ急にはしごを外された。というか置いてきぼりを食らった感じだ。返してよ、私の葛藤を……。

「言ってみたかっただけでしょ?」

「うん」

 めっちゃ可愛くうなずくけど、内容ないの⁉︎

 危なすぎる……! 危うく入ってしまうところだった。とんだハニートラップだ!

「なりませんからね! 私」

「やらず嫌いはよくないですよ?」

「ミユちゃんも黙ってて! 人生は一回しかないんだから、命をそう安々とかけてたまるもんですか!」

 四人からのアプローチをものともせず、私はその後も必死の抵抗を続けた――。

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