第8話 転生者は冒険者ギルドに行く
どうも、電池です。
なんとなんと私にも転生特典があったんです。いやー。信じてみるもんですね、ええ。どんな能力だと思います。なんとなんと「自分の魔力を上げる能力」なんですよ! ……なんで、なんで。
こんなことある? 普通の主人公とかだったらチート級のもののはずじゃん! 私にもそんな力ちょうだいよ! しかもルナの例えも悪い電池だよ?
そう、電池……換えがきく予備バッテリー。しかもこの世界にはマナタイトと呼ばれる魔力を肩代わりしてくれるものがあるらしい……私はマナタイト。
もう終わりだ。
電池と言われて永遠と泣きわめいているとルナが呆れながら言ってくる。
「いい加減泣き止んでよ」
「だって、魔力譲渡するだけだよ! しかもさっき試してもルナから魔力はもらえないし。これはギブアンドテイクじゃなくてギブだけ……私の存在価値はマナタイトと一緒だよ! うっう……」
さっきやってみたが、「ドレインタッチ」のように魔力を吸い取るということはできなかった。ほんとになにこの魔法?
しかもルナに聞くと「ドレインタッチ」といった魔法は吸い取ることしかできないようで、魔力をあげる魔法はこの世界では存在しないらしい……唯一の能力だけど嬉しくない。
めちゃくちゃへらりながら、ルナの後ろをついていく。
「そんなめそめそしないでよ。まだまだ隣町は遠いんだから……」
「じゃあ、ルナもっと慰めてよ……ずっと一緒にいて私を甘やかしてよ? あの時の誓いは嘘だったの?」
「めんどくさいこと言っていないで、とっとと行くよ? あと勝手に記憶を改善しないで。私は何も誓ってない」
そんなヘラっている私をスルーし、ルナはズケズケと進む。
「じゃあ、何か面白い話をして」
「要求事項のハードルが高い……じゃあ、冒険話で聞く?」
「お願い。今夜は何もかも忘れて飲みたいの……」
「今は昼間だし、お酒飲みながらこれから何キロも歩けないでしょ……まったく、じゃあこの間の討伐の時の話だけど……」
ルナの冒険話をBGMに聞きながら、私たちはひたすら歩いた。その話はわくわくさせるものだったり、逆に泣きたくなるような悲しい話だったり、手に汗握る話だったり、バカみたいな話だったけどどれもルナは懐かしむように語る。
絶対嘘だろ! ってツッコミたくなる話もいくつかあったけど、どれも結構真面目に話しているから嘘じゃないとわかる。そんな充実しているルナは何というか輝いていた。
陽キャだ、陽キャ。陰キャには眩しいぐらいの話が聞こえてきて、時々心に謎のダメージが入る。
話題が尽きることなく話していき、私はタブーかなと思っていたことを聞いてみる。
「ちなみにパーティメンバーには転生者ってことは言っているの?」
「言っている。さすがに言った方がいいと思ったから」
……そうなんだ。私はお母さんに転生者ってことを明かしていないのに、ルナは明かしたのか。まあ、初めに私のことを転生者って言ったんだから当たり前か。
「話してみてどんな反応だった?」
「転生特典がなくてがっかりされた」
「あっそう」
「冒険者になっているから不幸をもたらす者っていうものよりも、単純に能力が気になるみたいだったよ」
どうやら冒険者にとっては力が全てみたいだ。ルナの力でがっかりされたんだったら、私なんてツバをぺってされることだろう。
そんなことをしながら歩いていると――。
「さあ、見えたよ。ここが私達の拠点。ようこそ希望の街、リアライズへ!」
「おおー! って何回か来てるけどね」
着いたことでルナはテンションが高いけど、私は対照的にめちゃくちゃ冷めている。ぶっちゃけ疲れたからもう寝たい。
「台無しだよ……ここではちょっとノっておこうよ」
って言われても……だって、来たこと結構あるし。
希望の街……そんな大層な名前が付いているが、その語源はとってもシンプルで、この国の王様が「あー。なんかあそこの騎士達の士気が低いから、適当に良い感じの逸話付けといてー」って言って付けられたものだ。別にこの街がなにかしたとかではないらしい。超適当だ。
「で、最初どこ行くの? 私はもうとっとと寝たいんだけど」
私の弱気なセリフを言うが、ルナは行き先が決まっているように私の前に立つ。
「ルナ?」
「あっごめんね。まずは冒険者ギルドに行きたい……いい?」
「……そっか、そうだね。じゃあ行こっか」
ルナはそう言うとすぐに歩き始めるので、慌てて追う。事情が事情なので、さすがに行かないとは言える雰囲気ではない。
ここに来た一番の理由だからね。早くパーティメンバーの無事を確認したいのだろう。
私とルナは街へと踏み出した。
「いやーやっぱり活気づいてるねー」
「まあ、サクラの村より比べたらね」
私達は商店街を歩いている。大きい街ということで村なんかよりも活気づいており、まるで祭りに行っているみたいだ。着物とかだったら完璧だったが、それでもいいだろう。なにせ前世だったらボッチでの祭りだったけど、今は違って美少女と一緒だ。いつもより楽しく感じる。最高!
「仲良くデートしてるんかい?」
八百屋さんのおばちゃんが声をかけてくる。
少しからかっている感じだが、私は余裕の笑顔で答える。私はもう、一人じゃないから!
「そうなんですよ。先週結婚したばかりで」
「あらーおめでとう」
「勝手に結婚していることにしないで……」
「ルナ、愛してるよ」
「はいはい」
私の愛の言葉ではもうルナの心は動きそうに無かった……これはもう熟年夫婦なのでは?
二人の世界に入りながら、営業をしてくるおばちゃんをスルーする。別に買いたくないんで話しかけてほしくない。
「ちなみになんでこんなところを通っているの?」
私は人混みに少し酔いそうになりながら、ルナに尋ねる。
「まあ、冒険者ギルドの通り道っていうのと……あっいた」
「やあ。ルナちゃん久しぶり」
「お久しぶりです。あの一つ質問がありまして」
「なんだい?」
「冒険者のことです。この街から見かけなくなった冒険者はいらっしゃいますか?」
「そう言われても、多分見かけなくなった子はいないと思うけど……冒険者の顔なんて覚えてないしね。そういうのはギルドに行った方がいいよ」
「そうですか……ありがとうございます。このパンを二つください」
「毎度ー」
ルナとおばちゃんとの会話を待つ。私は仲良さそうな人の間を割って入るなど空気を読まない行動はしないのだ。空気とまで呼ばれているサクラさんだぞ。
「なんで、あそこで聞いたの? 実はあの人がギルドの諜報員で、なんかの暗号を言うと教えてくれる的な?」
「違うよ。あの店のご飯が好きな子がパーティにいるから、もしかしたら知ってるかなーって思っただけ」
「そうなの?」
「そう。後普通にあそこのパンが好きだから、買ってきたかったの。一ついる?」
「ここはアーンさせるべきところだよ?」
「パンをアーンさせるって絵面的に結構悲惨になるけどやる?」
「……いや、すいません。想像できてませんでした。ください」
「はい」
うん。アーンじゃなくていじめられている人に見られそうだ。うん、やめよう。
ルナからパンを受け取り、食べながら歩く。あっおいしい。
食べながら歩くと大きい建物が見えてきた。
「あそこが冒険者ギルドだよ。あの子たちはいるかな?」
そこは大きなアパートのような作りだった。
漫画とかでありがちな荒くれ者とか、普段飲んだくれているのに実は超強い人とかそんな人たちが集まる場所。
ジャランと鈴が鳴り、奥に入る。
私は息をのみ、ルナの後に続く。
「じゃ、まずは受付にって……ちょっとサクラ、そんなガン飛ばさないで」
急に小声になりながら、ルナが注意をしてくる……だが、私はやめない。ここでやめたら舐められるのだ。最初の印象が全てを決定するってどっかの面接書にも書いてあったし、私はルナの後ろからギルドにいる人を睨みつける。
こっちにはスイカ潰せるルナさんがいるんだぞ! 普通の人なんか相手になんねえぜ!
なんとか誰にもちょっかいをかけられずに受付に着く……ふっ、このルナさんに恐れをなしたか。
「あのーすいません。冒険者で探していただきたい人がいるんですが……」
「依頼でしょうか?」
「あっ、いえ私冒険者でして、メンバーの……」
ルナが事情説明やめんどくさそうな手続きをしていて私はやることがないので、すぐに冒険者ギルドを出る。
だっていても怖いし、何もやることないし。
暇を持て余して二十分後、ルナが冒険者ギルドから出てくる。後ろに連れがいないところを見るとどうやら会えなかったみたいで、表情は少し暗い。
「サクラ、お待たせ」
「どうだった?」
「一応、無事みたいなんだけど今はクエストでいないみたい。あと一時間ぐらいしたらもどってきそうだからもう一回来ようかな」
「分かった。とりあえず無事でよかったね」
「うん。よかった……ねえサクラ」
「ん?」
ルナは言いにくそうに少し言いづらそうに言っている。仲間の安否で安堵していたが、いきなり雰囲気変わった。いったい何をされるんだろう。告白か?
「よかったらさ」
「うんうん」
なんかムードが高まってくる。何を言ってくれるんだ? 結婚か? ご両親への挨拶か? なに?
「……私と一緒に冒険者になる気ない?」
…………。
……絶望へと落とされた私は一言。
「絶対嫌です」
私が言うと、ルナは驚愕な表情で固まった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます