第5話 転生者はデートする
「さて、準備はいい? サクラ」
玄関で慣れないブーツに手間取っている私に意外にもノリノリなルナが笑いかけてくる。
「うん、あとちょっと待ってね」
「そんな手間取るの履かなくていいのに……それにしてもサクラは可愛いの着てるね?」
ふふーん。そりゃデートですから、ちゃんと気合いを入れますよ。
「でしょ。ルナは……もうちょっと服装どうにかならない?」
「しょうがないでしょ? 服ないんだからさ」
ただ私が気合いを入れているのに対してルナは普通だ……元々隣街が拠点だから服がないのはしょうがないけど、私の部屋着で出かけようとしているルナはその、なんていうかデートっていう服じゃない。美少女は何着ても似合うというが、私の服なのでなんか……うん。
昨日の死ぬ思いをしてから、次の日――ルナは約束通りデートをしてくれることになった。
……まあ、昨日説明でルナが破壊神であること伝えたので、お母さんも気を利かせて出ていくことを許してくれたのだ。
「じゃあ、まず服から選びに行こう?」
「いいけど……あの、私あんまりお金は」
「いいよ、それくらい……ってなんかその言い方だと奢られる気満々のビッチみたいだよ?」
「そんなことは思っていなかったけど……そうね、じゃあ隣町に行ったらまたデートをしようか。そのときは私が奢ってあげるから」
「……わかった。じゃあその時はドレスとダイヤモンドとかをお願いするね!」
「私帰ってもあんまりお金ないからね! しかも現金すぎない、サクラ!」
――私たちのデートが始まった。ひゃっほう!
「なんかごめんね……ルナ」
「うんうん、大丈夫だよ? ちゃんと楽しいよ」
優しく微笑んでくれているが、辛い……。
デートを楽しもうと色々回ってみたんだけど……この村は辺境のところにあるので、ぶっちゃけデートスポットとか皆無だった。せいぜい村外れに勇者が覚醒したとされる場所っていういかにも怪しいところしかない……というかそれもあまり見応えもない。
でも、とりあえず服は買った。この世界では普通の青色の洋風のワンピースを着たルナが唯一の見どころだ。ああ、目の保養にいい。
「でも、もうちょっと露出した方がよくない? それかピッタリニットみたいなセクシーなの」
ルナの顔が一気に冷める。一秒前にめちゃくちゃ優しかった彼女とは思えない。
「これがいいです」
「あっはい。気に入っていただけたようで何よりです」
何にも言わせないっていう強固な意志を感じる。逆らったら握りつぶされそうなので、これ以上は絶対言えない。
「それともシルクのドレスや宝石付きのドレスでも買ってもらったほうがいいいかな?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。これで勘弁してください」
少し拗ねていたルナが今度はいたずらっ子のようは意地悪そうにニヤリと笑う。
どんどんわがままになっちゃっているよ! そんなルナも可愛いけどさ! 色んな面が見えて嬉しいけどね!
「全く……調子乗らないでね」
「はい」
……完全に尻に敷かれている。
やっぱり付き合ったら女の子に変わっちゃうのかな?
私は話を戻す。
「ルナはどこか行きたいところある? 私は映画に行ったり、デパートでおしゃれに買い物したりしたいな」
「そんなものないでしょ」
……まあ、ないよ。だって辺境の村だもん。
「この辺は寂れてるからね。あんまり目新しいものとか、映えるものってないからな」
「スマホないし、SNSとかないんだから気になんないって……それに、私は結構見ているだけで楽しいよ? 村の人達もいい人ばかりだし」
ルナは目を引くので、結構な人に声をかけられた。あのおじいちゃんとか絶対狙ってそうだ……まあ、手出ししたら即通報するけど。
「この村はみんな表面的には優しいんだよ。腹の中は下心満載だから!」
「だったらルナも下心満載だよ。なんなら表でも見え見えだよ」
なんだとっ……! 私はこんなにも優しくしているというのに。心の声が漏れているのか。
「はあー……まあ、もう慣れたけどね」
ルナは呆れながらも付いてくる……ふふん、ツンデレさんめ。
「そんなことを言いつつも、私から離れらないルナ……なんかいいね」
「帰りますよ」
ホントに回れ右して帰ろうとしたルナを全力で引き止める。
「嘘嘘! お気に入りの場所を紹介するから」
「……どういうところ?」
「人気が無くて、ちょっと村から離れていて、場所分かってないと行かないところ」
「身の危険を感じるんだけど……」
そんな人気の無いところ連れて行くだけじゃないですか〜、そんな警戒しないでよ。そういう流れになったらいくしかないけどさ! 当たり前だよな! 多分なんないだろうけどさ。ちょっとは期待……ルナ歩くの早いよ。
私の妄想に浸っている間にルナがどんどん遠ざかっていく。ってルナ場所分かんないでしょ!
「もうちょっとで着くからさ。頑張って」
「いや、別にこれぐらいの道はよく通っているし、何ともないんだけど……ってルナの方こそ大丈夫そ?」
私はぜはーぜはー言いながらなんとか山を登る。
「うん。久々だから、ちょっときついだけ」
子供の頃はめちゃくちゃ行っていたのに、めちゃくちゃキツく感じる……これが老いか。
やっとの思いで森を抜けると、小さい頃何度も行った景色があった。
そこには湖があり、よく絵画とかで描かれていそうな神秘的な光景が広がっていた。
「いい景色だね」
「ごめんね……こんなのしかなくて」
「うんうん。全然」
ありがとう……こんなの喜んでくれる。天使かな? 最高にコスパがいい彼女……マジ天使。
「でも、ここ村から出てるけど魔物は?」
キョロキョロとルナが辺りを見回す。
「ここには基本出ないよ。あの険しい山を登ってきこないといけないし、それに登っても景色いいぐらいしかないしね」
ここは小さい頃に見つけたお気に入りの場所だ。その頃の私はもっとやんちゃでよく村を抜け出してはお母さんにキレられて泣いていた。それでも何度も抜け出しても、この景色を見るのが私にとって楽しみだった。大人になった今もたまにここに来ている。
「そう。ホントにいいところね」
風になびく髪を押さえながらルナは柔らかい笑みを浮かべる。
その姿に私は目が離せない――なんてことはなく、ただただ可愛い! って思うのとこんなに可愛いのにあんだけ力強いんだよなーってことしか考えていなかった。
暗くなるまで私達は景色を楽しんだ。
その後、私が家に帰るとそこにはまたしても仁王立ちしたお母さんがいた……なんで⁉︎
「……サクラ、遊んでいいとは言ったけど流石に何もしないのは違うんじゃない?」
理不尽すぎる……! あんな出かけていいよって言ってくれたのに!
「確かに言ったけど、その後に言っていたわよ? 聞いてないだけでしょ?」
ひどい! ひどすぎる。そんなの言ってなくても私が悪くなるじゃん。後出しすぎるでしょ!
「まあ、いいわ」
お母さんはやれやれといった感じで私をシカトし、ルナの前に出る。
「じゃ、お金が貯まったから……ルナちゃん」
「はい」
「隣街にサクラ連れてっていいわよ」
「え?」
ルナに顔を向ける。
お互いびっくりしたような顔で見つめる。
……そっか。ルナは隣街に行くのが目的だったもんね。じゃ、もうここには戻って来ないのか。
私が少し微笑むとルナもお母さんに向き直り。
「ありがとうございます」
「うんうん。頑張って良かったよ。それかホントにウチの子になる?」
「なっならないです……」
衝撃的だったけど、決まっていたことだ。
少し寂しいけど、いつも通りに振る舞おう。
というか相変わらずウチの子になりなさいハラスメントをしているお母さんに疑問を持つ。
「ちなみにお金って?」
ため息をつきながらお母さんに呆れられる。
なんで? てか、お母さん今まで何してたの? ただルナと一緒に暮らしてみたいとか思ってただけじゃないの!?
「あなたのためにお金を稼いでいたのよ。あんた隣街に行ってお金ないじゃ、困るでしょ?」
「確かに……!」
なんてできた母親なんだ!
「ついでに私のお土産も買ってきて欲しいし、挨拶とかもしていってちょうだい。はいこれ手紙と買い物メモ」
……これただのパシリでは?
さっきまでのできたお母さんっていう評価を取り消したい。
「滞在はニ、三日していいわ。少しぐらい遊んでもいいけど、ほどほどにしなさいね? あと荷物がいっぱいになるだろうから宅配してもいいけど、一番下の価格までだからね。それから……」
私はお母さんの長い説明を聞き、寝室に向かう。もしかしたらこの家でルナと一緒に過ごすのは最後かもしれない……なら、やることは決まっている。
私が自分の服に手をかけていると。
「何やってるの、サクラ?」
「せめてもの思い出に……私を刻みつけようかなと……」
「そんなことするんだったら気絶させるよ?」
ルナが笑顔で片手を上げてボキボキ鳴らす……暴力反対です。
私は仕方なく服を元に戻す。
「こうして寝るのも最後だね……」
「だからって変なことしようとしないでよ……」
最後までこの呆れ声である……いつデレデレになってくれるんだろう。
「だって、私はルナのこと好きだしー」
「はいはい、そうだね。サクラはいつも私を口説いてくるぐらい大好きだもんね」
背を向けながらそんなことを言うルナは……なんかぐっとくる。きっと照れ隠しに保育園の先生みたいな対応をしてくるけど、まあまあ恥ずかしがってそうだ。すごく表情を見たくなる。
「ねえ、ルナこっち向いてよ」
「……いや」
なにこれ、絶対赤くなってるやつじゃん! ルナかっわいいー!
「ルナの今の顔絶対かわいいと思うから見してよ!
ねえねえ。赤くなってるんでしょ? ほらほら、暗くて分かんないからさ!」
「うるさい、うるさい。とっとと寝るよ、もう!」
「ただそんな可愛いらしいこと言ってくれてるけど私は可愛い子がいたら、口説くから。今んところルナが一番ってだけだから」
私が調子に乗って最低なことを言ってしまうとルナがバッと振り返る。その顔は赤くなっていたけど別の赤さも混ざって感じがする……ちょっと怖いです。
「最低すぎるよ! そうだとしても言っちゃったらホントに最低すぎるよ!」
そんな怒号が混ざりながら私たちは眠りについた……というかお母さんが怒りにきて寝ざるをえなかった。
これがこの家の最後の夜……なんか思ってたのと違う。
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