第3話 転生者の家に転生者が来るらしい
家に帰ってすぐに私はお母さんにルナの事情を話したのだが。
「あなたの説明分かりにくい」
……話してすぐ言われた。もうやめていいかな。
「すいません」
ルナが色々フォローしてくれて、なんとか話は分かってくれたみたいだ。……なんかフォローしてと頼まれた私がフォローされて、すごく泣きたい気持ちになる。
「と思いまして、隣街に同行して欲しいのですが……」
「そうね。かわいいし、娘と仲良くしてくるぐらい優しい子なのは分かっているから助けてあげたいんだけど……それにかわいいし」
「かわいい何回言うの? あとなんで私と仲良いと優しいってなるんだ?」
「あら、貴方ダメね。かわいい子は何度もかわいいって言った方がいいのよ? 口説く時はまずは掴みが大事なんだから。とりあえず素直に褒めなさい」
……なるほど! 勉強になる。なんか後半は誤魔化された気がするけど!
「ルナ、かわいいよ!」
「……今褒めると下心丸出しだよ」
……なぜだろう。お母さんの口説き文句を実践したはずなのになぜか好感度が上がった気がしない。なぜだ? 何が悪かだだというのだ。
「ルナ、かわいいよ! プリティ! 明日デートしよ?」
「……同じこと言っても変わりませんよ? あとデートはしません」
さらに冷たくなった目に私が落ち込んでいると、そこで今まで考えていたのか、ルナをガン見していたお母さんが結論がついたように口を開く。ってお母さん、ルナのこと狙って……ないよね?
「よし。じゃ、ルナちゃんにはここで少し家事とかを手伝いってもらっていい? そうしてくれたら、ご飯も出すし、泊めても構わないから」
「ホントですか!」
「うんうん。そのままウチの子になっちゃっていいよ」
「……それは遠慮させて頂きますが、ホントによろしいんですか?」
「うんうん。もちろんいいよ」
さりげなくちゃん呼びをし始めたけど、どうやらお母さんは助けてくれるようだ。まあ、お母さんも困っている人を見捨てるほど悪人ではないだろう。それに私もまだルナといたいと思っていたし。
それに私の助手になるってことか……悪くない。
「ルナ、安心して私についてきなさい。色々教えてあげる♡」
「安心できる要素が一個もないんだけど……」
「色々しごいてあげるから、覚悟なさい」
「あんたこそ何言ってんのよ? その分あなたの仕事増やすに決まっているでしょ? 無職なんだから、ちゃんと私のために働きなさい」
私が調子に乗ってできる上司みたいなことを言っていると、さらに上司が無茶を言ってくる……これが中間管理職。ブラックだ。
「とにかく、ルナちゃんこれからよろしく。悪いけど部屋はサクラと一緒でお願いね? 自分の家と思って、くつろいでいいからね」
「……ありがとうございます。今まで馬小屋だったので、助かります」
……マジ? え、馬小屋だったのルナ⁉︎ 過酷すぎないか⁉︎
それを聞いて、お母さんが驚愕に目を開いてルナを抱きしめる。
「ウチの子になりなさい!」
「なりませんから! ちょっとサクラ助けて!」
と、お母さんをなんとか引き剥がしてルナが泊まることになった。了承してくれたのはありがたいんだけど、お母さんもやりすぎるところあるからな……。
そして、待ちに待ったお泊まりイベント‼︎
前世でも全然なかったイベントだ。はっきり言って何をすればいいのか全く分からない。とりあえずもう夜も遅かったので、ベットへと向かう。
「はい。私の寝巻きだけど小さくない?」
「大丈夫なんだけど……サクラって着痩せするんだね」
ルナが自分の胸を見て察する。ははーん。
「ん? なになに? 今頃になって私がダイナマイトボディなんだって気づいてドキドキしちゃった?」
「私より大きかっただけ。で、私はどこで寝ればいいの? 廊下とか?」
「なんで家入って選択肢が廊下なの! どんだけやばい生活を受けてきたの⁉︎」
信じられない……そんな友達いないよ! いたらそれは友達じゃなくていじめっ子だよ!
私は自分のベッドを叩きながら答える。
「ここ! ベッドで寝ていいから!」
「じゃ、サクラはどこで寝るの?」
「もちろん! ルナと一緒のベッドに……って引き返さないで! 廊下に行こうとしないで‼︎」
ルナが疑いの目で見てくるけどホントに心外だ。私が寝ている女の子にいたずらをするような度胸があるとでも思っているのか……こちとらチキンやぞ?
ルナは警戒心マックスな目で見てくるが、やがて観念したように私の布団に入ってくる。少し距離があるが、入ってきてくれたからよしとしよう。
とりあえず声をかける。
「もう寝た?」
「……入って10秒と経っていないのに寝れるわけないでしょ」
おっと、緊張して意味わかんないこと言ってしまった……。てか、これはなんていえばいいんだ? こういうシチュエーション、私は経験ないぞ?
「えっと……お嬢さん、寒いから肌と肌で温め合わないか?」
「他のところで寝るね」
「冗談だって! ホントに出ていこうとしないで! ワンモア! ワンモアチャンスプリーズ‼︎」
どうやら選択肢を間違えたようで、ルナが出ていこうするのを必死に止める。
「……ほんとにセクハラ発言か頭おかしいことしか言わないね、サクラは」
布団を顔にまで持ってきてルナが罵倒してくる。
そんなことはないと……ないと……思うよ?
「でも、ルナが私を選んだんだよ? だったらルナも頭おかしいのでは? あとデートしよ?」
「しない……それに自分が頭おかしいと認めたわね、あとサクラ基準で私を語らないで」
私の誘いを秒で断る……手強い。カウンターもスルーされたし、それにひどい言いようだ。
ルナは苦笑いしながら続ける。
「……私もまあおかしいんだろうね。冒険者なんてやっているし」
「そうだよ、おかしいよルナは」
「そうかもしれないね……ここに来た時も、魔物にやられちゃって来たわけだし」
「そういえばそう言っていたね。どんな魔物だった?」
「トロールって言う巨人」
「おう」
……聞いたことあったけど、そいつってけっこうやばいやつなのでは?
確かめっちゃ力強いし、棍棒持って暴れ回るイメージがあるんだけど。
「概ね合っているよ……あいつに棍棒で装備が壊されちゃったんだ……まあ、なんとか逃げることはできたんだけどね」
私は恐る恐る尋ねる。
「……怖くなかったの?」
「怖かったよ。でも次は負けない」
ルナの目には確かにリベンジの炎が灯っていた。
私だったら絶対にもう一回倒そうとは思えない。ってかトラウマになりそうだけど……。
「ルナはいつから冒険者になったの?」
不意に聞いてみたくなって聞いてみる。
「10歳ぐらいかな? ホントは騎士とかになりたかったんだけど、魔力が全然なくて……まあ、自由にできてるけどね」
「だから冒険者はやめないの?」
「うん……やっぱり2回目の人生だから、前の人生とは違う人生を送りたい。だったらやってみたいことをしたい。……それでもし、死んじゃったとしても前の人生のようになんでやらなかったんだろうっていう後悔はしないと思うから……」
「そっか」
……覚悟がすごい。
私は異世界に来て、「ひゃっほう!」とか言っていただけなのに、ルナは死んでもいいから憧れていたことをしようと言っているのだ。
めっちゃ眩しい。
本気ですごいと思ってしまう。きっとこういう人が魔王とかを倒すんだろうか。
……ほんとにすごい。でも、私はそんな風にはなれないかな。
そう心の中で呟き、私はルナに背を向ける。
死んじゃってもいいとか思えるのは、その人がそれに人生をかけているほど熱中しているということだ……私はもうあきらめた人間だ。
このまま、穏やかに暮らして行こう。
これが異世界転生を自覚してからの私の結論だ……今更変えようとは思わない。
私の結論を再認識すると、ルナの寝息が聞こえてきた。
彼女と私の人生は違う……私はそう思いながら、まどろみに身を任せた。
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