第2話 転生者は転生者と出会う
毎週の日課として、私はおつかいを頼まれている。「あんた無職なんだから」と言われる日々だ。
お母さんにパシられて村の八百屋さんに向かいながら、これまでのことを振り返る――。
最初にこの世界にやってきたときは色々考えたこともあった。
前世で死んだのか? とか、ゲームのセーブは? とかソシャゲのログインボーナスとか……ろくなものがないな私。
だがそんな考えは一瞬で、すぐに消し飛んだ。
転生を自覚してからは人生の景色が変わった――。興奮して「人生2回目だ! ひゃっほうー!」と言いながら村を走り回ったのも今にしてはいい思い出だ。
転生前は人に声をかけるときには「あっ」と必ずつけたり、しゃべるときに「ゴホン」って整えないと声が出なかったが、成長した私は前とは違う。
八百屋さんに着き、スカートの端を摘み店員に挨拶する。
「ごきげんようマダム」
「あら、おはようサクラちゃん。相変わらず意味わかんない挨拶するわね~」
「いつものをお願いできるかしら」
「買い物メモ差し出してきて、いつものっていう子はそうはいないわよー。あら、今日はシチューなのね。2000円よ」
「おつりはいらないわ」
「はいはい。2000円丁度。また来てねーサクラちゃん」
「ええ、ごきげんよう」
今日も素晴らしい対応だった……。
私は華麗に買いものを済ませ、来た道を帰ろうとしたときだった。
「ちょっといいですか?」
振り返るとそこには同い年ぐらいの美少女が立っていた。
身長は小柄な私とそんなに変わらなくて、腰より長い髪は黒く輝いていた。
目も黒色でどこか日本人のような女の子が私を見ていた。
……えっとどちら様?
「私の名前はルナって言います。ちょっとお話いいですか?」
ルナと名乗った少女は私を人気のないところに連れていく。
「……えっと私お金は全然持っていなくてですね」
「カツアゲとかじゃないですよ。別に傷つける気はありません」
じゃあ、こんな美少女がなんの用があるんだ?
……新手の宗教かなんかか。
私はもう悟りの境地にいるのだ。今更こんな美少女が私を探しくれるような主人公展開など期待していない。
「あなたの名前……サクラって言うんですか?」
「人違いです」
「いや、でも」
「人違いです……ちなみになんの用ですか? サクラにはなにかすごい才能があることが分かったんですか?」
「人違いじゃないじゃないですか……」
あきれた顔をされてしまう。
なぜ? 私はいずれ魔王をもワンパンで倒せるような未来が占われたとかじゃないの?
「もしかして転生者じゃありませんか?」
…………。
「えっと、違いますよ」
「そうでしょ」
「違いますよ! そんないきなり来てなんですか? 証拠あるなら出してくださいよ‼︎」
「……それ、もう認めていませんか?」
さらにあきれたように見る。私の現地人として完璧な変装がなぜばれた⁉︎
私は違う違うと言い続けるが、目の前の女の子は信じてくれそうにない。
ええい、もう! ばれちゃったならしょうがない。
「くくっ、よくぞ気づいたな……人間の少女よ」
「ノリノリですね……私、そんなテンションにはなれないよ」
なんかすごい恥ずかしい……けど、しょうがない。バレたんだもん、どういう対応がいいか分からない。
「ちなみになんで分かったの?」
「もしやとおも思いましたが、あれで隠してたつもりだったんですか。あれだけのことしといて……いいですか? 普通の人は、貴族の人でもないのにマダムなんて言いませんよ」
くっ迂闊だった……この私としたことがっ!
……これから買い物を行く時は婦人って言うようにしよう。私は仕事ができる女。今後の対策に当てよう。
私がPDCAを回しているとルナが私に近づき、耳打ちしてくる。
「私も転生者なんですよ」
「あっ、そうなの?」
「うん。さっき歩いていてらサクラって名前が聞こえて……それにあんなこと言っていたからそうかなって思ったんだけど、よかった。ああ、転生したばっかで混乱してあんなこと言っていたんですよね?」
うん?
最後の言葉に疑問を持つ。
「えっと……確かに私は転生者だけど、赤ちゃんからだよ」
「えっ……⁉︎」
ルナがとんでもなく冷めた目で見てくる。……なんで⁉︎
「……赤ちゃんから転生したのに名前がサクラなんですか? それに、その……この世界で10年以上も生きているに、あんなことやっているんですか? それにそれで転生者ってこと隠しているんですか」
「……そうですけど?」
「……」
なんか沈黙が痛い。
「あと、敬語はいらないよ。歳近いだろうし」
「あっうん」
まだ若干引かれているっぽいので、話題を変える。というか気になっていることでもあるし。
「ちなみにルナはその姿のままで?」
「うんうん、私も赤ちゃんからだよ」
「まあ、そうだよね。ルナって名前で赤ちゃんからじゃなかったらイタイ人だもんね」
「バカにしているの?」
一切バカにしてないのに、そのように言葉を受け取ってしまったようだ。今後のPDCAに組み込もう。
「じゃあ、転生特典は……?」
ルナが首を振る。
やっぱり転生したといっても、チート能力をもらえるのは稀なようだ……。
見て見たかったし、後天的なら私にもワンチャンあるのかなって思ったけど……人生はそんなに甘くないか。
「本とかに書かれているような能力は私にはないかな……」
「そっか」
「一応、スイカを握りつぶせるけど……この世界じゃ普通らしいし」
そっか。スイカを……ん?
「……握りつぶせる? スイカを?」
「うん。でも騎士とか冒険者は魔力使えば余裕らしいから、そんな特異な能力じゃないかな」
……やっぱり人生は不平等かもしれない。
しかも魔力ありでってことは魔力を使わないでスイカを割るらしい。この子こんな清楚な見た目をしているのに、腕力ゴリラなの?
私なんてほんとに簡単な魔法を数回しか使用できないよ。
「で、話変わっちゃうだけど……サクラにお願いがあって……」
「なに?」
落ち込んだ私をしり目にルナが真面目な顔で言ってくる。
なんか重い話っぽい?
「私、実は冒険者をやっているの……」
「そ、そうなの?」
そうなんだ……清楚な感じだから、ぶっちゃけお姫様とかだったら納得しそうだったけど、冒険者か……まあ、でもスイカ握りつぶせるぐらい強いしな。
「それで、クエスト中に魔物にやられちゃってね」
「そっか……って大丈夫なの⁉︎」
私は気になってルナの体を触ったり見たりして確認するけどそういった外傷はなさそうだ。
「もう傷は癒えているよ……で、そのときにパーティメンバーがいたんだけどはぐれちゃって……だから隣町まで同行してほしんだ」
なんか話が読めない……。
もしかして護衛とか? いや、私戦えないよ? ただの一般人だもの。
それともまさか……。
「もしかして、私が勇者を上回るほどの魔力があることが分かっちゃった?」
「うん、全然違う」
「それとも山を吹き飛ばすほどの力が目覚めたとか……」
「だから違うって!」
だとするとなんでだ⁉︎
「護衛とかじゃなくてね……その街に入るための許可証がないの。だから再発行するために私と来てくれないかな?」
別に私の才能が開花したとかではなかったのは残念だけど、うーーん。
……ぶっちゃけめんどくさい。
隣町は馬車で移動して片道6時間ぐらいだ。はっきり言ってちょうめんどい。
私は他の提案をする。
「手紙とかは?」
「手紙はもう冒険者ギルドに出しているんだけど、なかなか返事が来なくて……それにあの子たちがどこにいるかもわかんないんだよね……それに街に行くにも冒険者カードもないし……」
なるほど……だから付き添いが必要ってことね。
隣の街に入るためには通行許可証っていうのが必要なんだけど、許可証がなくても同行者としてであれば、数日間だけ入ることができる。そうすれば冒険者カードの再発行もできると……でも。
かわいいし、困っているから助けてあげたいんだけど……こればっかりはお母さんの意見を聞かないとな。
「……うーん。お母さんに聞かないとなんとも言えないなー」
「……お願い。さすがに知らない人だと怖いからさ」
そうだよね。街では許可証の犯罪がかなり多くて、許可証を餌に行方不明ややりたくものないことをされているとこないだもニュースになっていた。しかも被害者はほぼ女の子……ルナみたいな美少女だったら、なお危ないだろう。
「……わかったよ。とりあえず相談してみる」
「図々しいけどお願い。できればサクラからもフォローしてくれると嬉しい」
そう、困ったように笑いながらルナは頭を下げてくる、
……美少女の困り顔ってなんでこんなに絵になるんだろう。断ったらホントに私が悪者になりそうな感じがする。
私たちは家に向かった――。
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