転生したけど、私は冒険者なんてなりたくない!

@kminato11

第1話 転生者は悟る

 ――異世界転生。

 それは別世界(主に日本)から死んだ人間が、剣や魔法が発展した世界に転生すること。


 私――サクラも例にもれず、日本から転生を果たした。

 しかも前世よりもかわいく生まれた。自分で言うのもなんだが、誰から見てもかわいくないとは言われないほどの美少女だ……まあ、ある程度の美少女には生まれたことには成功した訳だ。

 しかしそんな美少女(ある程度)に生まれてはみたが、はっきり言ってなぜ転生したか分からない。

 めちゃくちゃかわいい女神様も変な女神様なんてものは現れなかったし、王様から「魔王をぶっ飛ばしてこい」とかも言われなかった。

 そう、チュートリアルがない転生だ。不親切だ。それに目覚めてすぐに美少女と出会わなければ、ついでにすごい能力や装備というものももらえなかった。「神様、私は何のために転生したの?」と疑問を抱かなかった日はない……マジで、私は何のためにここに来たんだ?

 そんな私がその後どうなったかなんて? 決まっている。


 家でニート生活だ。


 …………。

 穏やかな日差しに照らされながら、私は洗濯物をパンパンと広げて、物干し竿に干す。

 いや私も異世界来てそれはどうかなとは思ったよ? でもしょうがないじゃない?

 私はまだ15歳だし、この世界では学校というのは大きな町にしかない。私の生まれたところは田舎だし、女の子というのもあって、私ができるのは家事だけしかないんだもん……はっきりいってニートになるしか道がなかった。

 まあ、それでも職業によってはできるものはある。

 

 異世界に転生したなら誰もが憧れるであろう職業――そう、冒険者だ。

 冒険者であれば女だろうが、身分が低かろうが関係ない。というか、私も子供の頃はそう思って、冒険者になろうと思っていた。まあ、せっかく異世界に行ったしね。


 だいたい、転生したらすごい才能とかもらえることが多い。あらゆる魔法が使えるとか、パンチで山が吹き飛ぶとか。

 そんなラノベとかでありがちな展開が自分にもあると信じていた……。

 あまたの数の魔物を一発で倒したり、自分に好意的な美少女パーティーに声をかけられて、「私、何かやっちゃいました?」みたいなドヤ顔を頭の中でイメージして、毎日ワクワクしていた。お母さんからうちの娘は気持ち悪い笑いをよくすると言われたほどだ。


 しかし現実はそんなに甘くなかった……。

 私だけしか使えない能力なんてないし、剣技だって使えない。っていうかそもそも剣なんて重くて持てない。あれを振り回せるのなんてゴリラだけだ。

 それに前世では運動ができなさすぎて、いつも体育を休んでいたのだ。体を変更しても運動のセンスは元から変わっていないので、あいかわらずダメダメだった。

 そんな運動がダメだった私はまず、この世界の常識から調べた。力が無ければ智だ。そうして分かったことはこの世界も例に漏れず、パワーこそ正義だということだ。怖すぎる。

 そしてさらにに調べていって分かったことだが、この世界では転生者が多いらしく、至る所で日本を感じさせるものがある。

 お金の単位は円だし、料理や果物も日本語のものが多い。

 ただ、さすがに言葉や文字は日本語じゃないことが多くて子供の頃は苦労した。「fuck」とか「ok」とかしか使えない私でも英語ではないと気づくぐらいには意味が分からず、勉強して覚える必要があった。

 結局転生しても、人は勉強からは逃れられないのだ……。


 そんな勉強をしていく中で思った――私は学校に行きたいと。

 日本にいた時は考えられなかったが、勉強に必要な本とか情報が圧倒的に足りなかった。お母さんが教えてくれてはいるが、お母さんも本業ではないので、うまいはずもなく、かつ同い年の子もいないからモチベーションもきつかった。

 この村が悪いかもしれないけど、ホントに同じぐらいの年の子がいない……私は異世界転生をしたというのに友達というものがいない……この世界でもボッチだ。

 それに異世界転生したら、冒険者で無双するか、学校でハーレム作って無双するかのどっちかじゃん⁉ どっちもできないとかさすがにあんまりじゃん!

 と思って結構頑張って勉強した。

 それで頑張って学んだところ、どうやら転生には2種類あるらしい。


 赤ちゃんに転生する方と死ぬ前の姿のままで転生する方だ。

 そして転生特典? とやらでチート能力が持てる可能性が高いのは前者だそうだ。

 私は後者。つまりは敗北者。うっ……。


 しかもその転生特典はろくでもないものが多かった。

 山を真っ二つにする力に、隕石を降らせる魔法に、ブラックホールを作り出す魔法……はっきり言ってチートである。

 そんなやべえ力を持っているのに、まだ魔王退治はおろか、幹部の一人も倒せない状況が続いているらしい……どんな状態だ。

 それに転生者以外の人だってはっきりいっておかしい。

 以前に火を吐く魔物が出たが、その討伐はすごかった。冒険者や騎士たちが剣からビームが出たり、手から雷を出したりとそりゃ無茶苦茶だった。


 そんな中で才能のない私が、冒険者になって魔物が多数生息しているような村に行くなど、自殺行為もいいところだ。

 

 まあ、後天的に開花することもあるそうだが、転生者というのはそんない印象ばかりではどうやらないらしい。その転生特典を使って犯罪を起こす輩もいるそうで、ばれると場所によって監禁まで受けるらしい。

 そんな怖いの私には無理なので、両親には悪いけど転生したことは伝えておらず、ただの一般人として生活している。


 そんなこんなで洗濯物を干し終えた私は、リビングに向かう――。

 結局は平和が一番ってことですよ。

 賢い私は悟った。冒険者なんて結局は命を懸けたフリーターなのだ。依頼なんてそんなにないだろうし、あっても失敗したらお金が支払われない。命懸けにも関わらずだ。そんな職業なんてブラック企業もびっくりなブラックっぷりだろう。

 まあ、もし私がチート能力なんかを授かっても絶対活躍は出来ないだろう。テンパリまくってどっか変なところに魔法をぶっ放すのが目に見える……私はグロいの無理だし、チキンだから戦いなんて怖いし絶対したくない。果たしてこんなのが活躍できるだろうか。


 考えれば考えるだけ、戦うのに向いていない。

 そんな私か無双もできないのに、冒険者になる意味なんてない。ある程度美少女が泣きながら逃げ回っているなんて誰にも見てられないだろうしね。


 この世界では冒険者なんて危ないことなどせずに、穏やかに平和に暮らす。


 これが私の出した結論だ。

 異世界に来ても私は私自身を変える気はない。この決意を持ちながら今日も私の日々を過ごしていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る