第18話 え、私?

「ちなみに、誰がどの立場の夫人になるか決めていたのか?」


 ゆったりとした笑みを浮かべ、ファハドが未来の妻たちに問いかける。そういえば決めていなかった。ミライはアイシャ、ビアンカ、ベスと顔を見合わせ、首を横に振った。


「いいえ、決めていないです」


「そうか。では私が指名していいか?」


 ぞくりと、ミライの背筋が突っ張る。寒くなんかないのに、なんとなく嫌な予感が寒気となってまとわりつく。このまま彼に指名させるのは得策ではなさそうだと思った。


「できれば、私たちで話し合って決めたいのですがいかがでしょうか?」


 ミライは無理に笑顔を作ると上目でファハドを見上げた。彼は苦笑して「だがなあ」と首を捻る。


「君たちはもちろん、俺の結婚でもある。蚊帳の外というのは気に入らないな」


「確かにそうですわね。失礼いたしました。では、どう決めましょうか?」


 軽く頭を下げ詫びつつ、ファハドに問いかける。すると彼は細めていた目を開き、人差し指を立てた。何か思いついたようだ。


「多数決で決めよう。この場にいる五人で同時に誰が第一夫人がいいかを選び、その人物を指さすんだ」


「多数決、ですか?」


「ああ、公平だろう? もちろん自分を選んでも構わない。どうだ?」


「みんな、どう?」


 友人たちに顔を向けると、三人は「いいね」と快諾し揃って頷いた。ミライも頷くとファハドが再び漆黒の両眼を細めた。


「よし『せーの』で指差すぞ。用意はいいか?」


「「はい!」」


「いくぞ、せーの!」


 ミライは掛け声に合わせて一人の友人を指した。彼女と目が合う。その指が自分を向いていることに驚きを隠せない。


「え? ビアンカ、なんで私を選んでいるの?」


「いや、どう考えてもミライだろう。周りを見ろよ」


 指さした先にいる友人ビアンカは当たり前のように言い放った。ミライはまるでこちらがおかしいかのような扱いに口を尖らせる。しかし彼女に言われた通り他のみんなを見渡すと、その指先が自分に集中しているのが一目瞭然だった。先端恐怖症になりそうだ。


「嘘でしょう?」


「決まりだな」


 ファハドがふっと息を漏らした。友人たちは納得とでも言いたそうににこにこと笑んでいる。ミライだけが、呆気に取られていた。


「私が、第一夫人? むりむり。ここは年長者のビアンカでしょう!」


 抗議してみるが同意は得られない。それどころか、アイシャが目尻を吊り上げ甲高い声で反論してくる。


「ビアンカはダメよ! 第一夫人て正妃になるわけでしょう? 公務とか、パーティーとか、どこに行くにも一緒ってことよ。そんなのイヤ! 絶対許せない!」


 まるで野犬が吠えているかのように矢継ぎ早に言葉が飛んでくる。ミライはアイシャから顔を背けビアンカに助けを求める。彼女は困り顔で首を横に振った。


「私も、アイシャと同じ気持ちだ。ベスはまだ幼いし、ミライに頼めないか?」


「ええ〜」


 説得力のある言葉に、ろくな返事ができない。でも承諾するのも癪なのだ。ミライは望み薄だとわかってはいたが、半べそ顔で最年少のベスに視線を送った。


「わ、私も発案者で一番お金を出しているミライが適任って思っちゃって」


 申し訳なさそうに眉を下げるベスがトドメだった。ミライは大きく息を吐きながら肩を落とす。


「わかったわよ。私がやればいいんでしょう」


「さっすがミライ!」


「すまない。サポートはするからな」


「ご、ごめんね。ありがとう」


 抱きついてくる友人越しに見えたのは、思い通りにことが運んだというようにほくそ笑む、ファハドの姿だった。


>>続く

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