第11話 全員です!
微笑するファハドを見据え、ミライは友人たちと手を繋ぎ、すっと息を吸った。
「私たち、全員です!」
「ほう。全員か。支度金は?」
「もちろん用意いたしました!」
ミライは現金が入った鞄を勢いよく突き出した。残りの三人も一緒に差し出す。
「全部で八億あります。案内状には支度金八億と書いていました。一人につきとはなかったので私たちは四人でその支度金を払い、輿入れさせていただきたく存じます」
「なるほど。しかし、一気に四人とは……」
ファハドが難色を示すような言葉とは裏腹にニヤリと笑う。その視線は主にミライに向いていた。ここでさらに金を釣り上げる算段だろうか。ミライは彼に先手を打ち提案する。
「もちろん、突然四人輿入れするには手間がかかるでしょう。そう思って貴金属でのお支払いになりますが、手数料をお持ちいたしました」
貴金属の入った袋をピエールに渡す。彼は中身を確認し主人にも渡して見せた。顔を見合わせているふたりに追い打ちをかける。
「簡単に見積もっても一億にはなります。これでいかがでしょうか殿下。すぐにお金が必要なのでは?」
これでどうだ。ミライは心の中で呟きながらファハドを見上げた。すると彼は苦笑しながら肩をすくめた。
「なるほど。こちらの事情はお見通しか。そして君たちは気楽な契約婚で安住の地を手にし、友人同士楽しく暮らせる……。ついでに第二王子に嫁ぐことで、自分達を婚姻で売り物にしようとした第一王子派の実家にも一矢報いることができる。先日無礼を働いたザイバット侯爵家にも文句は言わせない、か」
「ご存知でしたの?」
友人たちと目を見合わせてからをファハドを見上げると、彼はククッと笑いを噛み殺していた。そして息を漏らしながら返事をする。
「ピエールが調べた。まあザイバット侯爵親子の性癖を知ったのは予想外の出来事だったがな。大事に至らず良かった」
そう言ってファハドがビアンカとベスを見つめた。ふたりは小さく頷く。その後ピエール経由でミライたちは一枚ずつ紙を受け取った。
「婚姻申込書だ。私のサインは済ませてある」
「殿下、それは……」
ぽかんと口を開けるミライに、ファハドがにっこりと微笑んだ。
「君たち四人を私の妻としてぜひ迎え入れたい」
ビアンカ、アイシャ、ベスに顔を向けた。彼女たちが目を輝かせ口元を緩める。ミライと同じように。
「「やったー!!」」
友と大喜びで抱き合い、それぞれの婚姻申込書にサインして再び抱き合った。これで気楽な契約婚成立だ。契約者の王子がそう言っていたのだから、間違いなく自分たちは彼の後宮で楽しく暮らせる。もし彼に恋人ができたら全力で応援し、後宮に迎え入れればいい。
ミライは浮かれていた。自分の思い通りにことが運んだ高揚感で。物事そんなにうまくいくわけがないと、つい一ヶ月前に思い知ったというのに。
これがミライ・マクトゥルの、やや慎重さに欠ける行動の二幕だったのだ。
>>続く
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