ラストバトル
刃と刃が激突する。
紫電と堅牢の衝突。以前に勝ったのは前者。
しかし今回は後者に軍配が上がった。
「うっらぁ!」
ウィズの紫電は間違いなく俺の身体で爆ぜた。
しかしそれによるダメージはほぼ皆無。多少の刺激がある程度で、体力を削るような一撃ではなかった。
それは間違いなくグランキオの影響によるもの。
アイツが自身の魂をスーツに移植したことで、スーツそのものに変化が起きているのだということを肌で感じ取る。
魂そのものに触れあった影響だろう。アイツが施した変化の内容が頭の中に流れ込んでくるのだ。
「『魂の沈黙』!」
俺の身体の自由を奪う意志が宣告される。
しかし何も起きない。俺の身体は今この瞬間も問題無く動いている。
「ハアアッ!」
「あぐっ」
そのままウィズに突進し、肩によるタックルで彼女の身体を吹き飛ばす。
彼女は地面の平行になり、そのまま落ちて転がった。
打ち付けた痛みに歯噛みする。だが直後、即座に攻撃魔法を放った
「……『
「ッ!?」
解き放たれたのは漆黒の炎。
その規模は然程大きくは無いが、その火力は凄まじいことは容易に想像がついた。
現に、異常なまでに強化された俺の鎧に覆われた脚を貫いたのだから。
「あっづぅ!?」
叫びながら俺は安堵する。
あの規模の魔法を受けて熱いで済んでいるなら上等だ。普通なら身体そのものが炭化していてもなんらおかしくはない。
「『
間髪入れずに二発目。
先程よりも威力は減衰、しかし狙う箇所は今しがた貫かれた脚。
それを避けるために、俺は跳躍を行うしかなかった。
「うぅ……」
ブシュリと血が噴き出る。
痛みと熱さが脳内を支配する。
「『
その隙を歴戦も魔導士が見逃すはずもない。
先程の『悪魔の煉獄』よりも更に上位の火力が俺に飛んでくる。
《CONNECT:Scull megalo》
だが、俺がそれを真正面から受けることは無かった。
またしても情報が流れてくると同時に音声が流れる。それは俺が搭載した覚えのない機能だった。
「グウウウ……ッ」
俺の身体が、正確には鎧が変化している。
蟹のようだった身体は鮫のような形状へと変化し、また質感も異なっている。
それはスカルメガロのものに酷似しており、それが『魔王の煉獄』のダメージを著しく軽減してくれたらしい。
「……これは」
思い出すのはグランキオの能力。『肉体と魂の切り離し』。それに加えて接合もできるとしたら?
魔法陣の向こうのスカルメガロの魂をこの鎧に付与することも可能なのではないか。
そうとしか考えられない。
その影響で鎧の形状が変化し、接合した魂が宿している力を扱えるようになったのだろう。
「スカルメガロの肉体は火に対して大きな体制を持つ……。それが強化されて、鎧の硬さに加算されたのか……」
仕組みは理解した。
グランキオのお節介によって得た恩恵は『霊魂の接合』と『より高い防御』。
たった二つだけだが、これは非常に有用な性能向上だ。
昨日に得ていたら、俺は両手を上げて喜んでいたかもしれない。
だが今はそんな気分ではない。
勝てるかもしれないなんて思いは湧き上がってこなかった。
「……ハァ……ハァ……」
ウィズが大きく肩で息をしている。
俺がこっちに帰ってきた時点で、彼女が大きく消耗しているのはわかっていた。
それでもあれだけの規模の魔法を連発できているのは流石としか言いようがない。
折角新能力を得たというのに、本来あるべきワクワク感はどこにも無い。
痛々しい思いがじんわりと胸に広がるだけだ。
「……まだやるのか」
流石に俺でもわかる。
ウィズが俺に勝つことは万が一にもあり得ず、俺がウィズに負けることも万が一にもあり得ない。
どう転んでもウィズは目的を果たせない。
その段階にまで至っているのが今現在だ。
俺の問いにウィズは答えない。
ただ激情にも似た何かを秘めながら、ただひたすらに魔力を絞り出すだけだ。
「…………クソッタレ」
話合いの余地など微塵も感じさせないその様子に俺は立ち上がる。
そして新たなカードを取り出し、装填する。
《CONNECT:Omoizo》
接合するのは上級霊獣、オモイゾウ。
重力を操るその力が脚に宿り、大きく肥大化する。
それを振り上げ、地面に叩きつける。
地面に衝撃が走り、ウィズの頭上に大規模な重力が発生した。
「………………………………っ!!」
歯を食い縛り、それに耐えるウィズ。
地面を砕きながら沈んでいくのにも構わず、魔力を練り上げる。
俺を吹き飛ばせば問題無いと言わんばかりに。
(そりゃ無理だろ……!?)
「デモンず、イン、フェルの…………!」
放たれたそれは最初のものと同じ魔法。
しかし威力は比べることすら烏滸がましいほどにお粗末だ。
わざわざ守らなくとも、ダメージを受けないほどに。
「おい、もう辞めろよ。終わりにしろよ!」
たまらず俺は重力を解除し、叫んだ。
ウィズの身体はボロボロだ。
一体何があったのか皆目見当もつかない。何故彼女はそこまで自分の身体に負担をかけるのか。
その理由もわからない。
「お前、死ぬ気か!?」
だから叫ぶ。ただ答えが欲しい。
「そんなに俺に死んでほしいのか!? 恋人が復活する前にお前が死んだら意味無いだろ!? わかれよそのくらい!」
「――――ウィリアム!!」
『…………良いだろう』
「!?」
ウィズが絶叫した。それが今現れた存在の名であることは明白。
それは陽炎のように酷く朧気で、感じる魔力もそう多くない。
しかしそれは呼び出した本人が満身創痍であるからだと断言できる。
巨大な竜。階級は間違いなく絶級、いやともすればそれ以上かもしれない。
出力を大幅に制限されていて尚想像を絶する力を持っていると思えるほどの雰囲気が、コイツにはある。
もしも本気の状態で来られたらこの街は容易く崩壊するだろう。
戦慄が収まらない。間違いなく、この場で勝っているのは俺なのに。
『小僧』
「……?」
陽炎が話かけてくる。そこに俺への敵意は感じられなかった。
『全力で来い。例え我が契約者が朽ち果てるとしてもだ。でなければ我は必ず貴様を殺す』
「は……?」
コイツは一体何を言っている?
俺に、ウィズを殺せと、そう言ったのか?
『恐らく、これで最期だ』
その宣言と同時に身の毛がよだつほどの殺気が周囲に充満する。
頭が痛い。胃の内容物を全て吐き出して尚収まりきらないような吐き気が込み上げてくる。
だがそれでも尚身体は動かない。師匠を失うという結末の予感が、命を危機を前に尚俺の動きを縛る。
『…………解放してやってくれ』
殺気が消えた。身体を縛っていた鎖が一瞬にして消え去り、纏わりついていた重しが消えていく。
「ウィズ…………」
泣いている。ウィズの頬には大粒の涙が線を形成して伝っている。
轟く魔力の中に僅かな嗚咽が混じっている。
「……泣くくらいなら、最初からすんなよ」
胸の中で燻っていたものが消えていく。
いや違うな。これは憐れみだ。
多分、ウィズは失敗したんだ。恋人は帰って来ず、残されたのは崩壊した祭壇と多数の命を奪ったという事実だけ。
そして彼女の身体は今、理を乱した罰に蝕まれている。
黒魔術が禁忌足り得る最たる理由は使った本人すらも死に至らしめる、そんな副作用があるからだと読んだことがある。
つまりどの道ウィズは後少しで死ぬ。
『お前に引導を渡されるのなら、こやつもまだ納得できるだろうさ』
「……わかったよ」
どいつもこいつも自分勝手な奴ばっかりだ。
やるだけやって満足して逝きやがる。振り回される方の身にもなれってんだよ。
そもそも本当に満足すんのか? 道具だと見下してたんじゃなかったのか。
いや、もう良い。全然割り切れてねぇし、衝動的だし、多分この後死ぬほど後悔するんだろうけども。
《FINAL CURTAIN》
「――――ごめんなさい、コウスケ――」
嗚呼、やっぱ、辛いわ。
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