パニックゲーム
各クラスが各々の舞台に移動する。
全員が集合していたドームを中心にして、ドームは五つ存在している。
その中の第二会場が魔導科の生徒達の戦うステージとなっている。
ここの観客席は他のステージと比較しても観客が多い。
このレクリエーションはエンターテインメントとしての側面を持ち合わせている。そうなれば様々な魔法を駆使して生徒達がしのぎを削り合うここが最も盛況するのはある種の必然かもしれない。
よくわからない専門外の技術よりも絵面のインパクトの方を重要視するのは当然だ。
俺個人としても、製作過程まで他人に見せる必要は無いように思える。
魔道具の制作においては、寧ろ余計な視線が入らない方が余程良い。
「魔導科の皆さん、ようこそおいでくださいました。これより私が用意した
モニターにウィズの顔が映る。
名前から何となく察していたがやはりここがウィズの担当科か。
「御覧の通り、ここは墓場。しかも沢山の悪霊や屍の這い出る危険地帯です」
ウィズの言った通り、馬鹿みたいに広いこの場は異様に薄暗く周囲には沢山の墓石が置かれている。
吹き抜ける風はじんわりと湿っていて、まるで何かに舌を這われているような感覚が不気味だ。
そして周囲に漂う光の球。青白い炎のようなそれらは今はただ流動的に彷徨っているだけのようにも思える。
「このまま放置してしていると次第に全ての悪霊達が復活、この場を出て街へと侵攻し大惨事になるでしょう。事態は急を要します。そこで皆さんにはこの場に出ている脅威を全て片付けてもらいたいのですが……残念ながらこれらの悪霊達は倒してもすぐに次の個体が出現してしまいます」
成程、割と現実を見据えたゲームになっている訳か。
この世界には度々ニュースにもなっているように様々な人外が存在している。
霊獣や魔獣なんかはその代表格で、他にも悪魔や神なんかも存在が確認されているとのことだ。
そしてそれらは人間に友好的な場合もあれば敵対する可能性もある。
中でも魔獣に分類される存在はその典型だ。竜や悪霊、吸血鬼なんかは人類と日々水面下での闘争を繰り広げている。
「何故なら、今回の悪霊騒動に関しまして悪霊を一度に復活させた
今ウィズが言ったように人間が絡んでいる場合も大いにあり得るのだが。
力を持っている奴は持っている世界だ、こういうことも普通に起こる。寧ろ頻度で言えば人間由来のものが圧倒的に多い。それこそ、ウィズが功績を収めたあの大事件だってそうだ。
悪意ある一人の人間が多数の魔を引き入れ、非常に大規模な被害が出た。原作でも語られた大事件。
既に戦火の後は消えつつあるが、今でも大人達の心にはその傷が深く刻まれている。ウィズや母さんなんて、その真っ只中に居た訳だしな。
だからこそ、そういった事態を想定した試練を行う必要があるのだろう。
「魔導士とは数ある魔法使いの中でも魔法を使用した戦闘を許可された者の総称。国民の皆様の安全を確保することこそが我々の本懐。時間経過と共に脅威は進んでいきます。制限時間は90分! 勝者はこの事件解決への貢献度が最も高いただ一人! それでは参りましょう――――」
この場に居る全員が身構える。同時に地面から、空中から屍と悪霊がその姿を鮮明に現した。
ゲームで使用される敵は全てがゴーレムなどの偽物であると事前に知らされている。
しかしそれを知っていたとしても騙されてしまうかのような、圧倒的にリアルな亡者の叫び。
生徒の何割かには脅えたように声を漏らす者も居る。
「はっ、相変わらず精巧に作りやがる。俺だってそれなりに勉強してきたってのに…………」
俺はケースから
我が先生ながらその距離の開き具合には圧倒される一方だ。
「けど、一点物なら負けてねぇ。勝つのはこの俺だ」
あの程度の量産機、速攻で粉砕できる。
さあ、行こうか。
「グレイブ・パニック、ゲームスタート!!」
ウィズの大きな宣言と共に各地で爆発音が響き始める。
全ての生徒達が一斉に攻撃をし始めたらしい。どいつもこいつも我こそがと必死になって攻撃を重ねている。
一見すると付け入る隙が無さそうに思えるが、そうでも無い。
裏で糸を引いている黒幕が存在しているのであれば魔導士が駆け付けてくる事態をある程度想定しているはずだ。
民間にしろ国家にしろ、この規模一帯を占拠しているのであれば敵が徒党と多くの人員を導入してくることは容易に想像がつく。
なら最初に放つ個体はあくまで陽動でしかない雑魚。侵攻の本命は敵の注意が分散したころにやってくるより強い個体に決まっている。
なら今はまだ動かなくていい。下手に手柄の奪い合いをするのは最悪だ。
様子を伺いつつ、俺は黒幕の調査を始めるとしよう。
「あれ? ど、どうして君がここに?」
少し離れた場所から様子を伺っていると後ろから声をかけられた。
振り向くとそこに居たのは以前寮の食堂で出会った少女。
原作ヒロイン、北風ヒナタがそこに居た。
「魔導製作科じゃなかったの?」
「そうだよ?」
「いや、じゃあ何でここに居るわけ!?」
焦った様子で尋ねてくる北風。
明確な規約違反に突っ込んでくるのは原作と変わらない
「別に良いだろうが。ここはアピールの場、なら自分の作った
言いながら俺は引き金を引き、
「証明してやるよ。お前等なんざより、俺の方が圧倒的に優れているってな」
段々と焦りの声が響き始める。
見れば既にそこそこの個体が現れ始めたようだ。
仕方ない、まだどこに黒幕が潜んでいるのかは不明だが、ここは数を減らすことを優先するしかない。
「そこで指加えて見てろ、この俺が頂点に立つところをなぁ! 霊装!」《Show・Ray! ッヘェーイ!》
竜の鱗入りスライムが戦闘スーツに変化し、俺の身体を包む。
髑髏の意匠のゴースターに変化した俺は恰幅の良いゾンビに向かって拳を振るった。
衝撃によって硬質化した鉄拳がその変色した肉体を砕き、散らす。
「うわっ、何か気持ち悪っ!」
ゴーレムを殴ったとは思えないぐしゃりとした感覚に俺は思わず手を払う。
まるで本物の腐った肉に触れたみたいだ。実際に触れたことは無いが、何となくこんな感じなのだろうと思う。
「何だ!? コイツも悪霊か!?」
「骸骨だ、スケルトン!」
「違うわ!」
クソ、この場所でこの見た目だから勘違いされるのか。
面倒くさいな。
「雑魚は大人しく雑魚狩りでもしてろ! 強い敵は俺が貰う、そっちのが貢献度高いだろ!」
《BASTARD・BLADE》
武器を大剣に切り替え、接近戦にて複数のゾンビを切り裂いていく。
黒みの多い血液が周囲を舞い、俺のスーツを汚していく。この感覚は余り好きじゃない。
「うおっと!」
空中から振り下ろされる鎌を避ける。
勢い良く攻撃を仕掛けてきたのは『死徒』。死者の魂を冥界に運ぶことを役割とする霊獣であり、階級としては中級に当たるが、奴等の場合は少々特殊だ。
本物であった場合は手に持っている鎌に当たると魂を刈り取られてしまうと恐れられている存在。
だが同時に生者には余程のことがない限り手を出さない存在でもある。
そんな存在が襲ってきたということはこの死徒達は操られているということになる。
それは黒幕の腕が立つことを意味しているが、まあそれは良いだろう。
所詮、偽物だ。斬り捨てればそれで終い。
『ピギィ!?』
刃で切り捨て、それで終わり。基本運び屋である死徒の戦闘力は低い。
ただし。
「うおぉ! 何か一杯来たぞ!?」
同胞が消された場合、全員で報復に来る習性がある。
死徒には手を出すなと、そう言われる理由がよくわかる。
「ったく、本当に精巧だよ……」
数にしておよそ数十体。
これは少し手を焼くかもな……。
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